ちゃんとしているローバイン
◻️◼️◻️◼️◻️
翌朝になるとエヴァンスの自宅の戸を叩く者が居た。エヴァンスは恐る恐る戸を開けると、そこには昨日ダージリンに紹介されたローバインが立っていた。エヴァンスは自堕落な生活を繰り返していたので、このちゃんとしているローバインが気に食わず戸を閉めてベッドに戻った。
そして寝直すと、数時間後に目を覚ましてコーヒーを淹れて飲み。今日もまたガルボの宿屋に酒を飲みに行こうと思い身仕度を済ませて家を出ると、そこにはまだローバインが立っており。ローバインは
「おはようございますエヴァンスさん。わたくしはダージリン様の命により貴方様にお仕えしますローバイン=ハンネスです。今日より宜しくお願い致します。」
そう挨拶してきたので。エヴァンスは
「俺はエヴァンスだ。」
そう言うと猫が逃げるように、ソロリソロリとしながらも素早くガルボの宿屋へと向けて歩き始めた。しかしローバインは顔色一つ変えずにテキパキとエヴァンスの後ろを付いて歩く。この両手両足を真っ直ぐに伸ばした生真面目な歩き方が尚更心証を不快な物にしたのでエヴァンスは脱兎の如く走り出したが、ローバインは真っ直ぐと伸ばした手足を規則正しく前後に交互に振りながら速度を上げて付いていく。
そしてエヴァンスは、まるでローバインなんて居ないかの様にガルボの宿屋と入りテーブル席に座りエリナにビールを注文すると。エリナは
「あんたいきなり連れて行かれて大丈夫だったの? 」
そう訊ねると、エヴァンスはチラリとローバインへ目をやりエリナは苦笑いしながら奥へと戻ろうと歩いた。するとローバインが飛び立つ白鳥の様に腕をしならせエリナを指差し
「お待ちくださいマドモアゼールエリナ。そのビールはブーランデーにしてください。安いお酒を飲めば精神を侵されます。職人の魂の入った良いものを飲む事で真のサービスを理解するのです。」
そう言って立ち上り、エリナに銀貨を4枚渡して。ツマミになる物を別に注文していた。エヴァンスはどんよりとした冷めた目でローバインを見ながらブランデーボトルとグラスを受け取りテーブルへ置くと、ローバインはグラス2つにブランデーを注ぎエヴァンスと自分の前に並べグラスを手向けた。エヴァンスは呆れた顔をしてグラスを傾け、ひと口含んで下を向いた。
ローバインはブランデーの薫りを楽しみながら恍惚としている。その何だかよく解らない意識高い系のやり取りにエヴァンスはうんざりしながら
「こんな強い酒よりビール飲みてぇ...... 。」
そう呟きながらしねしねと酒を飲んでいる。しかしエヴァンスの目の前にいるローバインと言う男は実にちゃんとしている。背筋を伸ばして手に持つグラスに空いた手を添えてコクコクと口に含んで薫りを楽しみ、そして緩やかに優雅に飲み込む。エヴァンスはそんなローバインへ
「ローバインさん。あんた俺に何か言う事が有るんじゃないの? 」
「いいえ何もありません。」
そう言うとローバインはキッパリと返し、ブランデーを飲み始めた。そうしているといつもの如く、ワルキュリアとポポロが現れ。見馴れないローバインをしげしげと見ながら、エヴァンスと同じテーブル席へと座った。ローバインは二人が席に座るとエリナを呼び出し、グラスを2つ追加した。
そしてブランデーを注ぐと二人の前に置き、グラスを差し出してまた飲み始めて。ワルキュリアとポポロはお互いの目を見詰めながらローバインの真似をしてグラスを前に出して飲み始めた。するとローバインは立ち上り礼をして
「わたくしはローバイン=ハンネスと申しましてドルトリア王族のダージリン=ドルトリア様からエヴァンス様の秘書を命じられました。以後お見知り置きを。」
そう挨拶をすると、ワルキュリアとポポロはキョトンとしながらコクンと頷いた。