【36】ウィスキネ海戦-1
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ウィスキネ領海岸線はウォルスカ軍に警戒はしていたものの、すぐそこまでウォルスカ爆鬼三将なる上位戦力が向かって来ているとは知らなかった。
ロブロイはウィスキネ城でバスキリアとの公易で物資の拡充に取り組んでいたが、充分とは程遠く兵士や領民の士気は徐々に下方へ向かっていた。その事を公爵と側近達は犇々と感じていた。ミスティー=ジントリアは言った。
「こんな時に父上が居てくれたなら。」
「そのブルームーン=ジントリア、ポンドゥロア王が行方不明になって三年経ったから行われる王位選挙だからこそスクリューは動いたんだろ。」
「じゃあ、こんな時にエヴァンス様が居てくれたら...... 。あの方は何故か皆を元気にしてくれます。」
「そうだな。アイツは今ビアダルと一緒にエールリル領を取り戻しているだろう。何としても俺達で戦わねぇとな。」
そんな会話をしながら、ロブロイとミスティーはアレキサンダーの護る海岸の方を眺めた。するとそこへ偵察に出向いていた魔導師ニーナ=トニックが帰ってきた。
「ミスティー様。ロブロイ様。只今偵察より戻りましたが、良い報せと悪い報せがあります。」
「ニーナご苦労様。良い報せと悪い報せとは? 」
「良い報せはビアダル公御一行がウォルスカ軍を退けエールリル領を奪還致しました。悪い報せはウォルスカ軍爆鬼三将が先日ウィスキネへ向けて出陣致しました。本日中にウィスキネへ到着すると思われます。」
「爆鬼三将ですか。それは厄介ですね。如何して迎え撃ちましょう? 」
その報告にロブロイは眉間に皺を寄せ、自慢の金色のリーゼントに櫛を通し歯を食い縛りながら
「迎え撃つ?チゲーだろ。チゲー。この戦いが長引けば長引く程に島国のポンドゥロア公国は資源が枯渇して国民が苦しむだろ。早い内に叩いて終わらせなきゃなんねぇんだよ。ミスティー、お前はここに残れ。」
「この様な事態に一人で残る等出来ませんわ。」
「いや、俺達が戻らねえ時はお前がこのポンドゥロア公国を護るんだ。だから残れ。」
そう言ってロブロイ=ウィスキネは紫色の軍服に袖を通し、金色のリーゼントに櫛を通すと
「皆! 行くぞ! 俺達の魂を燃やすぞ! 」
そう叫び、剣を掲げ出発した。ロブロイはウィスキネ城を出るとアレキサンダーと合流して艦隊を動かした。ロブロイの号令に五隻の戦艦と三隻の巡視船で出向いた。そしてアレキサンダー率いる逃げ延びたブランドール領の戦艦二隻、ジントリア領の戦艦三隻と言った陣容で出向いたのであった。
そしてポンドゥロア連合艦隊とウォルスカ軍艦隊との遭遇は想像よりも遥かに早かった。ウィスキネの港を出港して二時間後にジントリア海域での遭遇は、ウォルスカ軍爆鬼三将の一人、長身の賢者モスコミュールの強力な爆撃魔法『エクスプロード』から始まった。その魔法はウィスキネの戦艦二隻にダメージを与え兵士達は消火に当たり、その横からアレキサンダーの指示でブランドールの戦艦がモスコミュールの船へ砲撃を行った。
唐突な開戦にも拘わらず指揮者であるロブロイとアレキサンダーは冷静に兵士達へ指示を出した。激しく揺れる船の中で、ロブロイとは別の戦艦に乗ったハイボールが強力な爆薬を付けた矢を放ち攻撃を行ない。それを合図にそれぞれの戦艦も砲撃を放った。しかしウォルスカ軍の戦艦は先程のモスコミュールの防御魔法『ウォーターウォール』で防がれ決定打とはならなかった。
海洋での戦いに慣れた島国ポンドゥロア公国の海軍の衝突は熾烈を極め、距離を取っての魔法と砲撃の戦いとなった。しかしその戦いの中に不穏な霧が立ち込め始め、気付けばポンドゥロア連合艦隊は霧に包まれウォルスカの戦艦を見失う程に視界を奪われた。




