ダージリン=ドルトリアの指令
城内へ入ると近衛兵達はエヴァンスの両脇に立ち、馬車から降ろしダージリン=ドルトリアの部屋まで案内した。石造りの城内は夏だと言うのにヒンヤリと涼しく、エヴァンスは両手をポケットに突っ込んで悪態をついて歩いている。
ダージリン=ドルトリアの部屋は鉄で縁取りした木製の扉で紅く塗られており。『Darjeeling』とこの世界の文字で書かれていた。近衛兵の一人が扉をノックし
「ダージリン様。ウォーレン=エヴァンスをお連れしました。」
そう言うと扉の中から、力強くも透明感の有る声で鋭く
「入られよ。」
と聴こえ、近衛兵は扉を開けてエヴァンスを中へと通した。エヴァンスは相変わらずハンドポケットで酔っ払らいフラフラと立っている。その目の前には桃色の軍服に身を包み、長い緑色でストレートヘアの凛とした女性が立っている。どうやらこの女性がダージリン=ドルトリアらしく、ロングブーツをカツカツと言わせながらエヴァンスに近寄ると1メートル程のピンク色でヒラヒラの付いたハリセンで顔を思いっきりブッ叩いてエヴァンスは膝から崩れ落ちた。
エヴァンスは頭を振りながら立ち上がると、ダージリンは冷たい目で見詰め。ハリセンを手でパンパンと鳴らして
「我が祖母カモミール=ドルトリアを覚えておるか? お主が8年前に裸で街中をさ迷っている所に銀貨2枚を渡した婦人だ。」
「覚えてるよ。」
「そのカモミール=ドルトリア様は、今病により床に伏して居るのだが。お主との思い出が懐かしいらしく、いつも新聞記事でお主を見掛けると『エヴァンスが出ているわ。』と私に自慢をしていたものだ。」
「と言う事は、病に伏したカモミール様を励ませば良いんだな。」
そう言うとエヴァンスは徐に服を脱ぎ出して、ズボンを脱ぎパンツも脱ぐと全裸になり
「さあ! あの日のままにカモミール様を励ましましょう! 」
そう言って仁王立ちになった。ダージリンは積年の憎しみを持った仇を見る様な鋭い目付きで、エヴァンスの股間をハリセンで思いっきりひっぱたいてエヴァンスは股間を押さえて
「ハラルルルル...... 」
と謎の悲鳴を挙げながら床で転がり回り。ダージリンはハリセンをパンパン鳴らしながら
「私の祖母が貴様の全裸で喜ぶと思ったか! 」
そう言いながら。四つん這いの全裸のエヴァンスの尻をロングブーツのヒールで踏みグリグリしながら
「祖母はお主が裸一貫から、商売で成り上がり成長していく様をこの国の未来と重ねて励みにしておったんだ。そんな退化した粗末な姿を見たら気力も萎えるわ! 」
エヴァンスはダージリンに怒られて、渋々と服を着ながら立ち上り
「じゃあ、こんな落ちぶれた俺に何を望んでんだよ。」
そう呟くと。それに対しダージリンは軍刀を床に突き、凛と構えると
「私、このダージリン=ドルトリアがお主に力を貸そう。それで1年以内に立派に返り咲き、勇ましき人物と成り我が祖母カモミール=ドルトリア様の前に励ましに現れよ! 」
「もし...... 出来なかったら? 」
「煮えたぎった赤銅の中に突っ込み、立派な銅像にでも成って祖母に会ってもらうとしよう。これ以上の会話は無意味だ、ローバイン中に! 」
すると扉を開けて、紳士服姿の眼鏡を掛けた茶髪の七三分けにした若い男がダージリンの部屋へと入って来た。そしてダージリンはその男を隣に立たせると
「この男はローバイン=ハンネスと言い明朝よりお主の秘書として配属する。必要な物が有ればこのローバインに言うが良い。以上だ。近衛兵!エヴァンスの退出だ。」
そう手を叩くと部屋の中へ4人の近衛兵が入って来た。そしてエヴァンスの両脇を抱えるとそのまま無理矢理引摺り運び出され、馬車に乗せられるとエヴァンスの自宅まで運び降ろされた。エヴァンスは呆気に取られながらも、少し考えて家に入りベッドの上に寝転んだ。