【33】ウォルスカ侵攻
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エヴァンス一行はウォルスカ領との境にある要塞を陥落するためにリシュタインに同行していた。そこは見通しの良い草原でリシュタインとワルキュリアは先頭を馬で進み、中団にエールリル兵の隊列を作り、後方でポポロのモンパカ車の荷台でエヴァンスはゴロゴロしていた。ポポロはそんなエヴァンスを横目で見ながら
「ねえ。ワタシ達は別に付いて行かなくて良いんじゃない? あんた戦う気無さそうだし。」
「良いんだよ。俺はあれだ。戦場に一人だけのマスコットキャラクターみたいなもんだ。どうせワルキュリアが全部やっちゃうから、その間に戦場を見て商売を考えてんだよ。」
「ほんとかしら? 」
そう呆れながらも、モンパカをトコトコ走らせた。エヴァンスは荷物袋から本を取り出して読みながらゲラゲラ笑いながらゴロゴロしていた。そして要塞へ近付くと待ち構えていたウォルスカ兵が左右から挟み撃ちし、一斉に何百と言う矢が降り注いだ。その大量の矢をワルキュリアとリシュタインは剣撃で全て打ち落とすと、ワルキュリアは左右に剣撃を飛ばしてウォルスカ兵を吹き飛ばしながら威嚇した。そして馬の手綱を煽り
「リシュタイン殿は部隊の指揮に集中されよ。」
そう言って、ワルキュリアは要塞へと単騎で駆けた。それでもエヴァンスは荷台で干し肉を噛りながら本を読みゴロゴロしている。ポポロは
「ワルキュリアも凄いけど、弱いのにこんな余裕を見せるエヴァンスも凄いわね。」
そう言って更に呆れていた。しかしこの戦況はエヴァンスの読み通りにワルキュリアによりアッサリと制圧されて、新しくウォルスカを攻める拠点として陣を整える作業へと入った。そう言った事になるとエヴァンスは荷台から飛び降り、ポポロと二人でこっそり準備しておいた酒と水と食料や医療品や油を要塞の中へ運んだ。すると特に戦闘も無く手の空いた兵士達もエヴァンスを手伝い始め、陽が落ちる前に準備を終えてしまった。
これには歴戦のリシュタインも感心し、エヴァンスを称えると
「侵攻の際に戦場で兵站を伸ばさざる得ない。そして兵站を伸ばせば陣は不安定になります。その時に陣の体制をしっかりと整える事で戦況を有利に運べます。これは商人の知恵です。」
そう言ってエヴァンスは、兵士達の食事の準備を手伝った。そして夜になり各所に松明を灯し、交代で見張りと休憩を行いながらリシュタイン、ポポロ、ワルキュリア、エヴァンスの四人は食事を取りながら会議を行った。ワルキュリアは
「この戦地に私が居ると知れば、早い内に魔法を中心とした部隊で攻撃に移るでしょう。」
そう提言した。リシュタインはその言葉に応えた。
「勇敢ですね。私でしたらワルキュリアさんの名を聞いて戦おうなんてとてもとても。それなのにそう思う根拠は何ですか? 」
「ああ、いつも剣で勝てないと魔法で挑んで来るからです。」
ワルキュリアはあっけらかんと答えた。それらの会話を聞きながらエヴァンスは考えて発言した。
「それだ! この違和感は。ワルキュリアがエールリルを奪還したのに、この要塞を守ろうとした。普通ならワルキュリアの名を聞いただけで逃げ出すのに。」
「ワタシ達と今まで旅した中でワルキュリアへ向かって来たのは初めてだわ。」
「そう。まるで死を恐れていない。なあ? この世界に死者を甦らせられる魔法なんて有るのかよポポロ? 」
「いいえ。無いわ。マングースカの書にもそんな魔法は無かった。ただ死体を動かす魔法が魔属の中に有るとは聞いた事は有るわ。」
「それか。じゃあ魔王軍だ。」
エヴァンスとポポロの会話にリシュタインが入り
「ウォッチ軍の後ろに魔王軍が居ると。それでしたら不死兵軍ですね。」
そう言った。エヴァンスは真面目に話していたが真正面な話しに飽きてビールを飲み始めていた。




