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自由の商人エヴァンス物語  作者: 橘 六六六
二章-1 ゲンシュタット帝国
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【18】親父の密造酒




 この宿屋のバスキリア亭の1階がロビーと食堂を兼ねており、そこへ円卓のテーブル席へ案内された。そこで出された食事はパンと具の少ないスープが各々の前に並べられた。エヴァンスはパンを手に取ると硬くなっており木製のテーブルに当てると「カンッカンッ」と音を立てた。ハイボールは匙でスープを掬うと具は殆ど入って居らずに色の薄い汁であった。エヴァンスはカリカリとパンを噛ったがなかなか噛めずに


「オイ! 親父! パンが硬くて食えないよ! 金なら出すから、食えるもん出してくれよ。」


そう言うと親父は隣のテーブルに座りタバコを吹かしながら


「バスキリアは税金が重くて新鮮な食材は高くて買えないんだよ。パンだって銅貨3枚なんだぜ。その内の税金は銅貨2枚。あー、バスキリア帝国だった頃が懐かしいよ。」


そう言って奥から樽を持って来ると、ジョッキに見たことの無い酒を注いで皆に配った。そして


「こりゃあ、酒税逃れの密造酒だ。料理もツマミ程度なら少しなら有るからちょっと待ってな。」


そう言って奥の厨房へと入った。皆、ジョッキの酒を見ながらエヴァンスの事をチラチラ見ている。『禁酒令』を出したばかりのエヴァンスは気まずそうにしながらも


「まあ、折角の好意だし今日だけな。ただし飲み過ぎるなよ。」


そう言うとジョッキを手に取り、前へ差し出すと皆で乾杯をして飲み始めた。濾過を余り出来ていないために粗い口当たりでは有ったが、その後に来る甘味で掻き消された。その珍しい味わいに感心しながら硬いパンを噛りながら密造酒を飲み続けた。すると奥から親父が料理を持って再び現れ


「これはバスキリアの郷土料理でスモークチキンと芋を唐辛子とニンニクで和えた物で『バスキロア』って料理だ。」


そう言って差し出した料理は温かく湯気を出して、他の料理に比べるととても美味しそうに見えた。エヴァンスは酒も入り上機嫌になり、親父に銀貨を3枚渡すと親父も上機嫌になり


「俺の名前はダンドってんだ。兄ちゃん気前が良いな。酒は好きなだけ飲んでも良いぜ。」


そう言って樽をテーブルの上にドカンと置いた。ダンドの出したバスキリア料理、バスキロアを見たジョージはゆっくりと匙で掬い口へ運ぶと堪えた涙が溢れ


「親父。バスキリアは良い国だったか? 」


「そりゃ、ゲンシュタットなんて国よりずっと良かったね。あのエリザベートって年増の女よりも前の王様だったアーノルド=バスキリア様の方が国民の気持ちを解っていたよ。」


ジョージはその言葉にテーブルをダンっと叩いて、静まったが


「すまない。あんまりこの料理が美味しくてな。」


と高まった感情を笑顔で誤魔化し話題を変えた。エヴァンスもそれを察して


「本当か?旨そうだしな。」


とバスキロアを食べ始めて、それに他の物も続いて口にした。バスキロアはニンニクの香ばしさと唐辛子の辛味で酒を進め、各々がジョッキにまた酒を注ぎ出した。その姿にダンドは喜び


「バスキロアなら沢山作れるから待ってな。」


と、また厨房へと戻って行った。他に客も居ない事からジョージは


「何としてもバスキリアを取り戻さねば。父アーノルド=バスキリアの名の下に。国民の豊かな生活の下に。」


そう呟いたので、皆微笑みジョージのジョッキにジョッキをコツンと合わせて頷きジョージも頷いた。するとまたジョッキの酒を飲み干して酒を注いだ。そしてバスキロアを食べると更に酒を飲み


「あれだよ。俺はエリザベートって奴の顔面にブラックホールを喰らわせてやるね。」


そう言ってズボンを下ろして尻を突き出してペチンと叩いて見せて、ジョージとハイボールは爆笑してワルキュリアとポポロは冷たい目で見ていた。そしていつもの如くエヴァンス一行は酒に飲まれてへべれけになっていくのであった。



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