【14】ジョージとの約束
エヴァンスとジョージはそれから酒を交わして文句を言い合いながら怒ったり笑ったりした。そしてアレキサンダーもエヴァンスが尻を顔に近付けるので皆でエヴァンスを取り押さえて服を着せたりと騒がしくも、皆が笑いながら宴の時間は過ぎて行った。
そんな中でポポロはジンをオレンジジュースで割った物を静かに飲んでいると、ミスティーに付き従う二人の女性が隣に座ってきた。胸元のはだけた魔導士と僧侶の服装をした二人は、切れ長の目をした赤い髪が魔導士のニーナ=トニック。青い髪の目尻の下がった方がエルメス=ソーダと言った。ニーナはポポロへ言った。
「貴女があの一つの都市を破壊した魔力暴走を起こしたマングースカ魔導衆の血族ポポロ=マングースカさんね。」
「ワタシは幼い時から奉公に出されたからマングースカ魔導衆の事は知らないわよ。」
ポポロはそう答えてグラスの酒を飲みながらニーナから目を逸らした。するとニーナはにやけながら
「あーら、そうだったわね。攻撃魔法、防御魔法からっきしで補助魔法だけしか使えないから追い出されたんでしたよね。」
そう笑うと、エルメスも一緒に笑いながら
「もう、ニーナったら悪いわよ。そんな本当の事を言っちゃ。」
そう言い。ポポロは何も言い返せずに俯き固まっていた。そこへ
「ポポロは良いんだよそれで。俺が必要にしていたのは商売に適した魔導士だ。別に戦争がやりたい訳じゃ無いから攻撃魔法なんて必要ねえよ。」
エヴァンスがそう言って、酒の入ったグラスを持ってジョージの所へ歩いて行った。そしてジョージはまたワルキュリアへ
「しかし、お前酷過ぎるぞ。一国滅ぼしてんだからな。国を失ってそれからと言うもの、それは本当に大変で何度死にかけたか。」
「すみません。」
そう言って嬲っていたので、エヴァンスは横でベルトをカチャカチャと言わせた。ジョージはその音に青ざめて
「ごめんなさい。もう言いません! だからブラックホールは勘弁してくれ! 」
そう叫んでいた。それを見ていたミスティーは
「そんなにあの技が恐ろしかったのか。私はあの技に興味があるが、そうだ! アレキサンダー公。私にちょっとあのブラックホールと言う技を掛けてくれ。」
「何を言ってるんですかミスティー公! 私は裸には成りませんよ! 」
そう言ってアレキサンダーを困らせていた。エヴァンスはジョージに少し真剣な顔をして
「ジョージ、お前ってさあ。王様に返り咲きたいんだろ? まあ裸一貫から商売を始めた俺も、その苦労が解らんでも無い。よし! ゲンシュタット帝国からバスキリア帝国を取り返してやる! それでワルキュリアへの恨みを忘れてくれ! 明日からバスキリア帝国を取り返しに行くぞ! 」
そう叫び、会場中の人間が固まった。何故ならバスキリア帝国の復活はポンドゥロア公国にとって重大な案件で有ったからだ。侵略を繰り返し、覇権を伸ばし続けるゲンシュタット帝国は各国にとって驚異である。しかしバスキリア帝国が復活すれば、ポンドゥロア公国にとって頑強な防御壁となる。
その言葉にアレキサンダーとビアダルが立ち上り、アレキサンダーはエヴァンスに
「エヴァンス殿、その様な事が本当に可能なのか? 」
ビアダルは
「お前、今ゲンシュタット帝国でバスキリア領を治めているのは拷問好きの女帝、エリザベート=バルトルトだぞ。大丈夫なのか? 」
そう言うので。エヴァンスはグラスの酒を飲み干してワルキュリアの肩を叩くと
「なーに、ここモンパカ交易社には、滅獄のワルキュリアが居るんですから! 」
と大笑いしていた。アレキサンダーとビアダルはその事に酔いも冷め、次の戦略を考えるためにもこの宴会は御開きになった。しかし酒好きなエヴァンス一行と酒乱のミスティー一行は朝方まで飲んでいた。




