【11】ワルキュリア毒殺
ジョージ=バスキリアは自国であるバスキリア帝国を滅亡させた、ワルキュリア=ドラクルスの事を忘れてはいなかった。そしてロブロイ=ウィスキネもワルキュリアの存在に気付いては居たが、敢えてそこには触れずにビアダルと談笑を続けていた。
するとそこで扉が開き、皆が注目するとブランドール城主であるアレキサンダー=ブランドール公爵が軍服姿で笑いながら現れた。くせっ毛の短く赤い髪を掻きながら
「これはこれは、ビアダル公にミスティー公にロブロイ公までお越し頂いて大変恐縮にあります。ロブロイ公なんてゲンシュタット帝国の侵攻を警戒しながらの渡航は大変だったでしょう。」
と軽い感じで挨拶をすると、ロブロイが
「ああ、それならここに居るジョージのお陰で対策は万全だぜ。」
そう応えながら、ジョージ=バスキリアの背中をポンと叩いた。そしてビアダルはアレキサンダーの腹をドスッと大きな手で殴ると
「アレク。お前も大きくなったな。あの小さく泣き虫だったお前がポンドゥロア公国随一の将軍と成った日には涙が出たぞ。久しぶり再会だ早く飲もう。」
「いてててっ。相変わらずビアダルは大きいままだな。お前こそ見た目に似合わず人脈を活かした交易で、ポンドゥロア公国の名を拡げてくれてるみたいじゃないか。」
アレキサンダーはドルトリア王国の新聞を広げてビアダルへと見せた。そこにはポンドゥロア公国エールリル領のビールを手にしたドルトリア国民が多数載っており、エールリルビールの美味しさがつらつらと書き出されて。ドルトリア王国で大評判との記事であった。それを見たビアダルはエヴァンスの顔を思い浮かべてニヤリと笑い
「なーに。ただの酒の縁が縁を読んだだけだ。今日も美味しい酒に為りそうだ。」
そう言ってアレキサンダーと肩を組んだ。それを見たロブロイの後ろに居るジョージは
「それでは先ずは私達、ウィスキネ産のウィスキーを手土産にお持ちしましたので。是非みなさんに飲んで頂きたいと思います。」
そう言うと、ブランドール城のメイドにグラスを人数分用意させて自分の用意したウィスキネ産のウィスキーを取りだしてグラスへと注いだ。そしてそれを一人一人に手渡して全員に行き渡るとジョージはウィスキーのボトルを皆に見せて説明を始めた。
「こちらが私達ウィスキネ領の麦で作られたお酒を蒸留したウィスキーに御座います。こちらのブランドール産のハニーウッドで作られた樽で仕込んだ物ですが、蒸留の際に海草のピートを使った物でスモーキーな中に塩気を残しそこへハニーウッドの甘い薫りが後を追いかけて来る風味になっており、今一番人気のウィスキーとなります。」
(ふふっ。我がバスキリア帝国を滅ぼしたワルキュリア=ドラクルスよ。貴様のグラスには鯨を数秒で殺せる程の毒が塗ってある。しかしこれだけ香りの強いウィスキーであれば毒の臭いも判るまい。積年の恨みがここで返せるとは。)
語りとは裏にワルキュリア毒殺の思いで満たされていた。そして皆がジョージの説明を受けて各々グラスの中のウィスキーの薫りを楽しんだ。勿論ワルキュリアも匂いを嗅いでいるがジョージの仕込んだ毒には気付いていない。そしてビアダルは
「ほほう。うちのビールも麦を発酵させた酒だがこれまた趣向の違う仕上がりで楽しみであるな。」
と上機嫌になり。その隣ではミスティー=ジントリアがグラスを嗅ぎながら
「これはわたくし達ジントリア領の酒である『ジン』の様な薬効の薫りがするが、どのような効能が見られる? 」
そうジョージに訊ねた。ジョージは早くワルキュリアへ毒を飲ませたい気持ちを抑えながら
「海草に含まれるヨードと言う成分が、血液を浄化させるとの話しも御座いますが。私も学者では有りませんので。」
そう答えを急いだ。そしてアレキサンダーはグラスを掲げて乾杯の音頭を取ろうとした。




