【10】晩餐会
ビアダル一行は何事も無くブランドール領へと入り港へと到着した。ポンドゥロア公国の旗を掲げた船が何隻か到着しており、王位選挙に向けてアレキサンダー=ブランドール公爵への挨拶に来たものと思われた。旗印からするにジントリア領と、ウィスキネ領の船である事をリシュタインが説明するとワルキュリアはフンフンと頷いていた。
そしてブランドール領の港は石造りの施設が多く、街そのものが要塞のように海洋からの外敵に備えられていた。港からは竜車に乗り、一行はブランドール城へと向かった。その頃には石造りの家屋が建ち並ぶ街は夕陽に照らされ黄金色に輝いて見えていた。それを子供の様に見入るワルキュリアを見ながらリシュタインは優しく微笑み、更にそれをビアダルが髭を撫でながらもどかしく見ていた。
ブランドール城へ辿り着くと、執事らしきモーニング姿の白髪の老人とメイドの女の子が一行を出迎え
「わたくしはブランドール家にお仕えする執事のアイリッシュと申します。そしてこのメイドが...... 」
「私はララって言って、みなさんの世話をするメイドです。よろしく! 」
アイリッシュの挨拶を遮って、赤い髪のショートカットから飛び出しているケモノ耳をパタパタさせながら、メイド服に身を包んだ女の子が話し出した。それをアイリッシュは杖でコンっと叩いて
「こちらの方々は、エールリル領のビアダル=エールリル公爵様御一行で御座いますぞ。ララも口のきき方をいい加減学びなさい。」
そう優しく叱ると、ララは頭を掻きながら
「すみませんでした。ビアダル公様。私はワーウルフの村の出身で余りこう言った礼儀とかに慣れて居ませんが、みなさんの御安全をお守りすることには長けて居ますので安心してください。」
そう謝った。ビアダルはそんな事も気にせずに大きく笑うとアイリッシュの肩をポンと叩いて
「鼻の効くメイドが傍に入れば安心して食事に舌鼓が打てますな。流石、騎士道を重んじ平等を愛するアレキサンダー公らしい計らいだ。」
とのビアダルの言葉に、アイリッシュは微笑みお辞儀をし
「ビアダル公様の達見に救われます。それでは陽も落ちて参りましたので、お部屋まで御案内させて頂きます。晩餐会を準備しておりますのでどうぞこちらへ。」
そう言って一行を各自の部屋へと案内した。
夜になると一行はメイドのララに晩餐会の行われる『葡萄の間』へと案内され、ビアダルを先頭に両脇をリシュタインとワルキュリアで付き従った。会場は夜であるにも関わらずに煌々と明かりが灯されて、きらびやかな装飾品で飾られていた。そこにはビアダルよりも先に到着している、ジントリア領とウィスキネ領の人間がそこに立っていた。
ビアダルは薄いブルーのドレスに身を包んだ黒髪の令嬢ミスティー=ジントリアと若い公爵ロブロイ=ウィスキネの間に立ち入り
「お久しぶりですな。ミスティー公、ロブロイ公。ご健勝ですかな? 今回はスクリュー公の姿は見えない様ですが。」
ミスティー=ジントリアは扇で口元を隠しながら、会釈をすると
「お久しぶりで御座いますビアダル公。スクリュー公は内政議会が長引いているとの事で今回は不参加との事らしいですわ。」
そう応え。その横で紫色のタキシードに身を包んだ若き公爵ロブロイは自慢の金髪のリーゼントに櫛を通しながら
「オラァ元気だぜビアダル公。相変わらずイカチー顔してんなぁ。まあでもでも辛気臭ぇスクリュー公よか全然良いぜ。」
そう応えた。そしてその後ろに鋭い眼光でワルキュリアを見詰める若い男が居た。その男はワルキュリアがゲンシュタット帝国と間違えて滅亡させたバスキリア帝国のジョージ=バスキリアであった。しかしワルキュリアはそんな事はとっくに忘れて全くもって気付いて居なかった。




