【8】モンパカ交易社
ワルキュリアはリシュタインと供に会議室へと戻る事にした。リシュタインはワルキュリアの隣を歩きその姿を見るが、紅い鎧の隙間から見える肉体は細くしなやかでありながら健康的ではあるが。とてもあの様な力を出せるとも思えずに不思議に思った。
「私の完敗でした。」
そう言って、明らかに落ち込んでいるリシュタインを見てワルキュリアは、リシュタインの首に腕を回してギューっとFカップは有ろうかと言う胸に引き寄せた。柔らかいが張りのある胸を頬に当てられたリシュタインは顔を真っ赤にしているが、ワルキュリアはそんな事を気にもせず
「魔王ダースグレインですら私の顔を見れば逃げ出すと言うのに、それに剣技を打ち込んだ貴方は立派な勇者とも言えますよ。気を落とさないでください。」
そう言った。リシュタインはその言葉に励まされた悔しさよりも、純粋な実力差からの信憑性が後押ししたので素直に嬉しく思った。頬に胸の感触を感じながら。
そんなやり取りをして会議室へ二人が戻ると、会議室の中は大騒ぎとなっていた。そのにはエヴァンスが頭から血を流して倒れているのである。ビアダルは二人を見ると
「リシュタイン、ワルキュリアさん。たった今し方、窓を突き破り飛んできた木刀がエヴァンスの頭に当たり意識を失った。他候補の襲撃や知らぬが誰か不審な者を見なかったか? 」
そう訊ねた。リシュタインとワルキュリアは顔を見合せて、手合わせの最後にワルキュリアが木刀を投げた事を思い出したが、それは心の中に仕舞い
「いえ、不審な者は在りませんでした。」
と二人は声を揃えて誤魔化した。とりあえず手当てを受けてエヴァンスも意識を戻して会議を続け、エヴァンスとポポロはポンドゥロア公国エールリル領とドルトリア王国の交易を進めて。ビアダル=エールリルの案でワルキュリアはリシュタインと供にビアダルの遊説に付き添い護衛を行う事となった。この日はこれで会議を終えてエヴァンスはエールリル領の営業許可を金貨5枚で発行してもらい、エールリル産のビール樽をモンパカ車へと積み込みドルトリア王国へ向けて飛んだ。
エヴァンスはモンパカ車を運転するポポロの隣に座り
「しっかし、ビアダルもリシュタインとワルキュリアの縁談を進めたい。だなんてウケるよな。『あいつの愛情が強すぎて、国民に倒錯した愛を疑われている故に、是非ワルキュリアさんとの良き関係をリシュタインに築いてもらいたい。』なんてさ。」
「リシュタインはイケメンだし、アタシだってリシュタインの様なスマートな殿方と恋に落ちてみたいもんだわ。あんたは私に良い人紹介なさいよ。」
そんな事を話しているうちに二人はドルトリア王国へと戻り、ローバイン連絡を取るとドルトリア王国での営業許可を手配して貰った。そしてエヴァンスは
「そうだな。屋号は『モンパカ交易社』とでも名乗るか。」
「あんたワタシのモンパカちゃんを屋号にするなんて良いセンスしてるじゃない。」
「アルファードとベルファイアは裏切らないからな。」
「あんたそろそろ人間不信を治しなさいよ。」
「人間や神なんて信じる方がバカだ。俺は動物とお酒を信じる。」
そしてエヴァンスは自宅の住所で営業許可を取得するとドルトリア王国の酒屋と、行き付けのガルボの宿屋へと酒を卸した。試しにエールリルのビールを飲んだガルボと、酒屋の主人にもフルーティーでスッキリした飲み応えでいて濃くのある味わいは絶賛であった。二人ともエールリルビールを気に入ってくれ、そしてエヴァンスはローバインへ新聞記者へのビールの宣伝を頼むと、この日の商売を終わりにした。気付けばエヴァンスはくたくたで、酒も飲まずにベッドへと入りそのまま就寝していた。




