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自由の商人エヴァンス物語  作者: 橘 六六六
二章 ポンドゥロア公国王位選挙
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【7】ワルキュリアとリシュタイン




 エールリル領ポンドゥロア王位選挙会議は再開されて、先ずは他国からの来訪者エヴァンスに注目が集まった。エヴァンスは資料をテーブルに置いて立ち上り


「ドルトリア王国より来ました。ウォーレン=エヴァンスと言います。そうですね、このポンドゥロア公国の王位選挙ですが、完全なる国民投票と言う事です。それは国民の十分な把握が出来て居ないまま行われる為に外国人にも投票権が有りますが。俺の聴いた話しですと、バスキリア帝国の生き残りであるジョージ=バスキリアがウィスキネ領のロブロイ=ウィスキネと手を組んでいるとの事です。その事を踏まえても...... 」


「すみません。あの...... 。お話しが難しいので私は訓練所なんて在りましたら、そちらに行ってても良いでしょうか? 」


エヴァンスの話しを遮ってワルキュリアがその様に言い出すと、エヴァンスが困った顔をしたがビアダルは太い声で笑いながら


「構いませんよ。リシュタイン、ワルキュリアさんを訓練所へ案内してあげなさい。」


そう言うと、リシュタインは音もたてずに立ち上りワルキュリアと会議室を退出した。ワルキュリアはリシュタインの涼しげな笑顔を覗くと、後ろへと回り付いて歩いた。


 訓練所は城内の一画に在り、そこにはエールリル領の鍛え抜かれた兵士達が額に汗を流して訓練に励んでいた。リシュタインが兵士達の横を通ると皆剣を振るう手を止めて一糸乱れずに姿勢を正し敬礼を行い、練度の高さを伺わせた。しかしワルキュリアはそんな事は理解できずに呆けた顔をしていたが


「どの兵士よりも貴方が1番に訓練をしたがっている様に感じますが、リシュタインさん。」


リシュタインはそのワルキュリアの言葉に爽やかに笑いながら


「これは失敬。滅獄のワルキュリアさん程では有りませんが、このリシュタインも『剣獣ゾーマン』に手解きを受け『剣狼リシュタイン』と呼ばれる身。この腕が伝説に挑む興味は隠せませんでしたね。」


そう言うと、ワルキュリアも鼻を鳴らして


「なら、そう口にするのが手っ取り早い。」


そうニヤリとすると、ロープを八角形に張り巡らせた簡易闘技場にヒラリと飛び入り、リシュタインを呼んだ。リシュタインは白いロングコートの上着を脱ぐと兵士に預けてロープを飛び越えてワルキュリアの前に立ち木刀を渡した。ワルキュリアは木刀を受け取ると地面に突き刺し、まるで豆腐にでも突き刺したかの様に柄の部分まで刺さると腕組みをした。そんな状況に兵士達は唖然としたが、リシュタインは緊張感に包まれながらも木刀を両手で強く握り構えた。


 しかし目の前に構える事によってワルキュリアの実力をリシュタインは肌で感じ取った。ワルキュリアは腕組みをしたままリシュタインを睨み付けると、リシュタインは自分の周囲全ての全方位から殺気を向けられている事に気付き震え上がったが、それを跳ね返すが如くに木刀を強く握り気を発した。


 そのワルキュリアの殺気に当てられた他の兵士達も冷や汗を流し、身動き取れずに震え上がっている。ただ腕組みをして立つだけで、これ程までに威圧感を発するワルキュリアを目の前にして。各々が魔王が逃げる程の実力と言われる事を実感した。



 その凍り付いた空間を切り裂く様に


狼牙流星群(メテオウルフィン)!!! 」


そう叫び、リシュタインは襲い狂う狼の群れの様に無軌道で、岩をも砕きそうな激しい突きを無数に打ち込んだ。そしてその突きがワルキュリアへ触れようかとする刹那(せつな)にリシュタインの握り締めた木刀は、まるでガラス細工を床に落としたかの様に粉々に砕け散り。リシュタインの目の前には、ニカッと笑い、腕組みをして木刀を持ったワルキュリアが直ぐ目の前に居た。


 ワルキュリアは手に持った木刀を適当に後ろに投げ、リシュタインの肩をポンと叩くと


「私に剣技を打ち込めた人間は初めてです。」


そう言って長い金色の髪を風に揺らしながら、軽やかに簡易闘技場を出た。






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