【102】ルナフレアとエヴァンス
この石造りの部屋は尋問室らしく、様々な拷問器具が並べられている。エヴァンスはそれらを見て、バスキリアを占領していたエリザベート=バルトルトを思い出した。そしてゲンシュタット帝国の人間はなんでこうも拷問が好きなのだろうか? お国柄? なんて事を考えていた。
そうしていると尋問室のドアが開き女騎士達が先に入り豪華な椅子の横へ整列すると薄い水色のドレスに身を包んだ、氷の令嬢と呼ばれる美しいルナフレア=ゲンシュタットが部屋へと入り優雅に歩いてゆっくりと椅子へと腰を下ろした。
ルナフレア=ゲンシュタットは羽飾りをあしらった扇を広げて口元を隠して、フランポワーズに頭を捕まれているエヴァンスの顔を見た。
(えっ? )
そして一度顔を扇で隠して、もう一度ゆっくりと扇を下げてエヴァンスの顔を見た。
(あれ? この人どこかで見たこと有るわ。)
ちょっともう一度扇で顔を隠して、もう一回だけエヴァンスの顔を見た。
(この人、公衆の面前で私にプロポーズした方ですわ...... 。あっでもこの人の顔って私だけしか見てませんし、あの時はこの人は服を着ていませんでしたし。)
そう考えながら、以前ルナフレア=ゲンシュタットがドルトリア王国へと休戦和平協議に出向いた時の事を思い出した。そしてルナフレアはあの日のエヴァンスの裸を隅々まで思い出して顔が紅潮するのが判り、扇で目から下の顔を隠しながらエヴァンスを見た。
(どうしよう。私殿方にプロポーズされたのなんて初めてですから、この人の顔を見ると何だか胸がドキドキしますわ。ああ、フランポワーズにあんな風にされて可哀相ですわ。)
「フランポワーズ。まだその者の罪は確定して居りません。手荒な事は慎みなさい。」
「はっ、申し訳ございません。ルナフレア様。」
フランポワーズは慌ててエヴァンスの頭から手を離して敬礼をした。エヴァンスはそんな事も気にせずに、ただルナフレアの白く美しい肌に冷たくも透き通り麗しい目に見惚れて頬を紅くして
「本当に美しいな。」
(無罪ー! 私の事を美しいだなんて、この人無罪ー! )
「尋問中である。口を慎みなさい。」
ルナフレアは高まる胸を抑えようと扇で顔を隠しながら呼吸を整え尋問を続けた。
「そなたが我がゲンシュタット帝国の兵士募集を妨害したのは本当か? 」
「いや。貧しい者に仕事を与えて賃金を支払っただけだ。」
「理には敵っている。そなたの名はなんと言う? 」
「俺はエヴァンス。ウォーレン=エヴァンスだ。」
(この人の名前はウォーレンって言うのね。ん? エヴァンス? 何処かで聞いたことある名前だわ。)
ルナフレアはエヴァンス名前を思い出そうとすると、横からフランポワーズが再度エヴァンスの頭を掴み
「有罪ですルナフレア様。この者、ウォーレン=エヴァンスはドルトリア王国の商人で御座います。今や破竹之勢で世界長者番付に名が載るほどの商人であり。ポンドゥロア公国、バスキリア帝国、ドルトリア王国の各王との関わりを持ち、我がゲンシュタット帝国の驚異となり得る者です。直ぐに処刑を。」
ルナフレアはそのフランポワーズの進言を聞いて我に帰り、扇を閉じるとエヴァンスを指して処刑を宣告しようとした。
「国なんて関係ないだろ。俺はただ一人の男として一目惚れした女を捜して辿り着いただけだ。」
そのエヴァンスの言葉はルナフレアの胸に刺さりチクチクと刺激を与えた。叔父の皇帝ラミザス=ゲンシュタットの為に帝国を拡げる事だけに専念してきたルナフレアにとって、国よりも一人の女性を選ぶだなんて気持ちがよく解らなかったからであった。そしてルナフレアはもう一度扇を開くと口に当て、エヴァンスの言葉で沸き起こった沢山の疑問のやりどころに迷い質問を考えた。




