【100】フランポワーズ襲撃
酒場を後にしてハートゥ達と別れたエヴァンスであった。エヴァンスは千鳥足でフラフラと居酒屋よってっ亭へと戻った。辺りは暗く夜は人気も無く静かなものであった。エヴァンスはかなり酔っ払い、途中で吐きながら
「犬が良いよ。お留守番するならさぁ。」
と訳の解らない事を呟きながらフラフラ歩いている後ろに何か怪しい人影が見えた。エヴァンスは足を止めて後ろを振り返り、周りを見渡すが視界がぐにゃぐにゃに歪んでよく判らない。しかし何か人影が見える。
そしてその影はエヴァンスへと近寄ってくる。エヴァンスはその影をジッと見詰めているとぼんやりと姿を現した。
「ほらー! やっと二人っきりになれたんだからあたしをもっと求めなさいよー。」
それはさっきまで一緒に居たペペローであった。エヴァンスは宿屋へ向かわずに付いてきたペペローへ
「お前はこっちくんな。宿屋へ泊まれ! 」
そう言うと、エヴァンスはいきなり後ろから二人の女性騎士に羽交締めにされた。ペペローは危険を感じ、慌てて建物の影に隠れた。そして女性騎士達は言った。
「貴様が、兵士募集の妨害を行った居酒屋の店主だな。これより貴様を拘束する。」
するとエヴァンスはモゾモゾと動いて衣服を脱いで二人の拘束から抜け出した。
「ふっ、この俺を拘束しようだなんて何年か早いわ。ハハハハハッ! 」
と全裸で笑いながら走って逃走......
「ゲフッ...... 。」
なんとエヴァンスが走った矢先に、そこへ立っていたフランポワーズがボディーブローを入れてエヴァンスは吐きながら倒れた。そしてフランポワーズは全裸で倒れたエヴァンスの頭を踏みつけ
「手間を取らせるな。変態の犯罪者が。お前達はコイツを連れて来い。」
そう命令して踵を返して暗闇の中へと消えていった。ペペローは余りの幻月騎士団の冷徹な強さに震えながら宿屋へと逃げた。
ペペローは宿屋へ辿り着くと、ハートゥとダイヤンを起こして
「エヴァンスが、エヴァンスが、ゲンシュタットの騎士達に捕らえられて連れて行かれちゃったよー。」
そう言うと、ハートゥは
「それは本当ですか!? ダイヤン、急いでモンパカ交易社の方達にお伝えしないと。」
「そ、そうだな。でも今は夜中だし国境を越えるのは...... 。そうだ、あれが有った。」
ダイヤンは自分の上着のポケットへ手を入れると光る透明の水晶を取り出してハートゥへと渡した。
「これは俺がエヴァンスさんから預かっていたんだけど、通信水晶と言って魔力で遠く離れて居ても会話が出来るんだ。ハートゥなら魔法使えるからやってみてくれ。」
「やってみてくれ。ってどうするのよこれ? 」
「何か魔力を通せばもう一つの水晶を持っている人と会話が出来るらしから魔力を通してくれ。」
ダイヤンがそう言うとハートゥは黙って頷き、その不思議なやり取りをペペローはジッと見ていた。ハートゥは自分の魔力を水晶へと送ると淡く光りながら小刻みに震えた。そして暫くすると水晶から何か声が聴こえてきた。
「何よこんな夜中に。エヴァンス? エヴァンスなの? 」
そんな風に水晶から声が聴こえた事に一同は驚いた。そしてそこで会話を続けるためにハートゥは水晶に向かって話し掛けた。
「夜中にすみません。私はエヴァンスさんと旅に出たハートゥと言います。そちらはモンパカ交易社の方でございますか? 」
「わっ。ほんとに声が聴こえた。で、エヴァンスはどうしたのよ。わたしはポポロ=マングースカよ。」
「今私たちはゲンシュタット帝国のワルシュク領に居るのですが、エヴァンスさんがゲンシュタットの騎士に拘束されて連れて行かれたのです。」
「ああそうなの? いつもの事だから気にしなくて良いわよ。明日あたしとワルキュリアでそっちに行くから心配しないで寝なさい。」
そう言って通話を切られた。そして三人はポポロのあっさりとした態度に顔を見合わせて、とりあえず寝る事にした。




