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自由の商人エヴァンス物語  作者: 橘 六六六
六章 ゲンシュタット帝国
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【98】エヴァンス拘束指令




 居酒屋の掃除を終えるとエヴァンスは町の市場へと食材を仕入れに向かった。市場の近くに有った兵士募集の貼り紙を見ている者を見付けると


「あんた仕事探してんのかい? だったら少し俺の荷物運びを手伝ってくれよ。」


と声を掛け、買い物の荷物運びを手伝わせてお礼に銀貨を1枚渡した。そしてそれを何回か繰り返して、よってっ亭のカウンター内に食料と酒を確保した。


 夕方にになるとまた店を開け、エヴァンスは店の前にペペローと並び


「あの激安で有名な居酒屋『よってっ亭』が今日もオープンするよー! 是非みなさん寄ってってー。」


と掛け声を上げると店へと戻り調理を始めた。あっさりとした宣伝であったが、謎の多い分人々は訊ね合い口コミで『よってっ亭』の名前はどんどん拡がって行った。


 そして不思議な事にエヴァンスが荷物運びで支払ったお金はワルシュク領のあちらこちらへと廻り、その渡ったお金を手にした人々はエヴァンスのお店へと足を運び前日よりも多くの客で溢れた。メニューも1品だけと言う事もあり直ぐに料理が届く事も有り、酒も強いものだけであったので飲み食い放題にも拘わらず早い回転で客は回った。


 そんなこんなで1週間商いを続けたがエヴァンスの作った『よってっ亭』は大きい利益も無かったが、赤字にもならずに人気を博してワルシュクの住民のもっとも足る楽しみとなっていた。



▲▽▲▽



 氷の令嬢と呼ばれる冷たくも美しいルナフレア=ゲンシュタットはワルシュク城で側近の報告を受けて苛立ちを見せていた。


「いったい兵士の募集ごときで何時まで時間を掛けているですか? 貴方が無能では無いのならその原因を仰りなさい。」


そう言って羽の装飾を施された扇を閉じて指すと、側近のタキシードに身を包んだ高齢の男が顔を上げ


「どうやら町で貧しい者に仕事を与え、兵士志願を妨害する者が現れたとの報告が有りました。」


「で? その者は? 」


「町の外れで居酒屋を行っている者らしいのですが、どうやらこのワルシュク領では見掛けない人間であるとの事です。」


「そこまで判っていながら捕らえない貴方の愚鈍さは軽蔑に値しますね。これ、この者とその居酒屋の者を捕らえて参れ。」


そう言うと衛兵が現れ側近の男の両脇を掴み、引き摺る様に退室させられた。そして部屋の隅から中央のルナフレアの前にワルシュク領騎士団長フランポワーズ=クリシュナが現れ敬礼をするとひと言も声に出さずに、エヴァンスを捕らえる為に退室した。


 ルナフレアは立ち上り窓から空に浮かぶ三日月に照らされ冷たくも美しい目を細めながら


「このゲンシュタット帝国の南の大陸制圧は叔父上のラミザス=ゲンシュタット皇帝陛下の宿願。何としてもわたくしの力でその願いを手に入れて見せますわ。」


そう呟いて振り返り、三日月の輝きを背に映し微笑んだ。



 ルナフレアからの命を承けたフランポワーズはワルシュク領で女性によって構成された幻月騎士団の騎士団長を務めている。強さと共に美しさを愛でるルナフレアはこの幻月騎士団を衛兵として身の回りの世話も任せる程に信頼していた。そのフランポワーズはお供に女性騎士を二人連れてエヴァンスの居酒屋へと馬を駆けた。


 そしてフランポワーズは町の外れの居酒屋を見付けドアを勢い良く開けて


「貴様等ワルシュク領主ルナフレア=ゲンシュタット公の命により拘束する。おとなしく身を差し出されよ! 」


と大きな声を出して中へと入った。しかし店の中には人一人居らず、明かりも点いては居なかった。フランポワーズは表に出て周りを見渡すが人は一人も居ない。そしてコホンと咳払いをすると静かにドアを閉めた。


 なんとその日はたまたまエヴァンスは店を閉めて皆で他の店の状況を視察するためにお酒を飲みに出掛けていたのであった。






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