【5】ポンドゥロア公国での出会い
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ポンドゥロア公国のエールリル領へと一行は辿り着いた。ポンドゥロア公国はドルトリア王国から北へゲンシュタット帝国を越えた位置に在る島国の王国を集めた公国であり、10年に1度選挙によって王位を決める民主的な国家であった。
島国とあって温厚な人柄の住民が多く、戦いとは無縁そうな国であった。しかし先程ローバインが話していたジョージ=バスキリアと言う男の存在で、今年行われるポンドゥロア王位選挙は何やら焦臭い装いを見せていた。
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「ところでエヴァンス様ってこれから商売をするのに、どのくらい金貨を持っているのですか? 」
ポポロのモンパカ車から降りながらワルキュリアはエヴァンスに訊ねた。エヴァンスは右手を広げて
「金貨五千枚ぐらいだよ。」
※現代の日本で言うなら、5億円程の金額になる。
「ご、五千枚!? 」
ワルキュリアとポポロは驚きの表情を見せた。エヴァンスがエヴァンス商会の社長の座を失っても、その様に資産を貯えていた事に底知れぬ商才を感じたからであった。エヴァンスは荷物から青い布のマフラーを首に巻くと
「ほら、ワルキュリア、ポポロ。これを巻いていると昔の俺っぽいだろ? 」
そう言ってエヴァンスは笑いながら、ポンドゥロア公国エールリル領の町へと入って行った。エールリル領はこの海に囲まれた島国の東に位置しており、漁業と農業とビール造りが盛んな町で人口は二十万人程とそこそこ栄えていた。
エヴァンス達は
「先ずはビールだー! 」
と陽気に受かれてエールリル城の近くに在る酒場へと入った。3人は店に入るなりビールと小魚のフライとじゃが芋とカツオダラを炒めた物を注文して乾杯を始めた。エヴァンスは堅っ苦しいローバインから解放されて上機嫌にワルキュリアとポポロに
「なんか3人で行商なんて懐かしいよな。」
と肩を叩いたりして喜んだ。そうしているとエヴァンス達のテーブルに髭面で厳つい顔の筋肉質な男が近付いて来た。その男はマタギの様なボロボロの服装で袖も破れて太い腕が日に焼けて黒光りをしている。一瞬絡まれたのかと思いはしたが、こちらには滅獄のワルキュリアも居るので平静を装いビールを飲み続けていると。
「よお兄ちゃん楽しそうだな。俺はビアダルってんだ。兄ちゃん達はよそ者だろ? 俺はよその国の話しが大好きでね。是非、俺も交ぜちゃくれねいかい? ビールとマーグロフライを奢るからよ! 」
と豪快に笑いながらエヴァンスの隣の席へと座った。その隣のポポロは見るからに無神経そうで不潔な風体のこの男が苦手そうで嫌な顔をしたが。そのビアダルが差し入れた揚げたてのマーグロフライを皆で一口噛るとサクサクとした衣の中から脂の乗ったマーグロが柔らかく旨味を口の中に広げて、それをビールで流し込むとエールリルの爽やかな風味で癖の無いビールが優しく身体に染み渡った。
それで3人は上機嫌になり、ポンドゥロア産のビールを次々と勧めるビアダルとは直ぐに仲良くなり。エヴァンスとビアダルは肩を組んでビールを次々と飲んだ。
するとその場にタキシード姿の美男子がカツカツと近付いて来た。その男は若く美しい顔立ちをしており、その濃い栗色の髪が品良く整えられており如何にも城内に職を持つ者であった。そしてその男は
「ビアダル=エールリル様、ポンドゥロア王位選挙の期間中にこんな所で酒盛りなんてしてたら不味いですよ。貴方も王位候補者なのですから。しかしそのおおらかさが私の好きな所でも有りますが。」
「おう! リシュタイン! 良い所に来た。このエヴァンスさんって商人の方は遠くはドルトリア王国からお見栄になってだな。色んな面白い話しをしてくれるぞ! 」
「そうですか。全くもってビアダル=エールリル様は風貌に似合わず分け隔て無く知識をお求めになられる。そこが私の好きな所では有りますが。私はビアダル=エールリル様の側近でありますリシュタイン=リーベルと申します。私も失礼させていただきます。」
そう言うとワルキュリアとポポロの間の席に着いた。




