落ちに落ちぶれて
ウォーレン=エヴァンスは気が付けば18歳となっていた。
10歳で裸一貫から商売を始めると商才と前世での異世界の知識を活かして、アッと言う間にドルトリア王国でも有数の商人となり、エヴァンス商会と言う会社を起こして富豪の一人として名を列ねた。
しかしエヴァンスが12歳になると、副社長のクリストフの裏切りにより社長を退任に追いこまれた。それから乗っ取られたエヴァンス商会は、社長のクリストフの不審死によりゲイルーク商会と社名を変更されエヴァンスの栄光は跡形も消え去ってしまっていた。
▽▲▽▲▽
ドルトリア王国、ドルトリア城近くの脇道を入ると古びた木造の宿屋が在った。その宿屋は昼は飲食店、夜は宿屋として経営しており、料金も安くそこそこ繁盛している店であった。
その宿屋は『ガルボの宿屋』と言う名前で宿屋の主人はガルボと言い、その娘のエリナが昼間は飲食店として営業している。飲食店では朝からアルコール類も提供している事も有り、昼間っからお酒を飲んでいるだらしのない客も多数居た。
そう彼の様に。
昼間っから彼は、チキンの魚醤焦がし焼きを食べながらだらしなくビールを飲んでいる。そして、だらしなく無精髭を生やして、だらしなく髪はボサボサで木綿生地のズボンからは、だらしなく汚れたシャツがはみ出している。
エリナが彼の下へビールのお代わりを運ぶと、彼は世の中への恨み辛みを語り、そして最後はだらしなく
「どうでも良いけどね。」
と呟く。いつも昼間っからお酒を飲んで無気力な彼にガルボの宿屋の娘、エリナはいつも
「エヴァンス。あんたいい加減過去の事なんか吹っ切って、アタイと一緒にこの宿屋を経営しようよ。いくらドルトリア王国の法律で18歳からお酒飲んでも良くても、そんな調子じゃダメな大人になるわよ。もうダメだけどアタイが立ち直らせてあげるから。」
そう説教をする。そんなエリナをいつも店主のガルボは
「エリナ。お前こそもうあんなクズの世話は止めなさい。エヴァンスくんはもう昔のエヴァンスくんでは無いのだ。見て見なさい、あの死んだカツオダラの様な目を。」
そう言ってエリナに忠告していた。そんな間にエヴァンスは立ち上りフラフラとトイレに行くと、戻って来てはビールを煽り。夕方まで飲むと銅貨10枚を置いて自宅へと帰って行った。
彼は自宅へ帰ると郵便受けの新聞を取り出して広げては「ケッ。」と呟き新聞を床に投げて、家の中はゴミだらけになっていた。そして服も着替えずにベッドで横になり、朝日が上るとフラフラと市場で安い酒を買い、それを飲みながらつまづき転んで、野良犬に小便を掛けられては近所の子供たちに笑われていた。
そしてそのまま彼はガルボの宿屋へと酒を飲みながら歩いていると、教会の前に修道女達が並んで朝の祈りを捧げている。それを見た彼は酒を一口グイッと飲むと
「信じた奴から裏切られんだよ! 」
そう叫んで酒瓶を道へ叩き付けて割った。そしてフラフラと歩いて、またガルボの宿屋で酒を飲み続けて夕方になると自宅に帰る。そんな生活を続けていた。
そんなある日、エヴァンスは何時もの如くガルボの宿屋へフラフラと酒を飲みに出掛け、そして何時もの如く酔っ払っていると、深紅の鎧兜を身に纏った金髪の美女がガルボの宿屋へと現れた。
そう彼女は以前エヴァンスと共に商売を行っていた世界最強の女戦士ワルキュリア=ドラクルスである。そして彼女の後ろにはトンガリ帽子を被り、魔導師ローブを身に纏った小柄な少女が後に続いた。そんな彼女も以前エヴァンスと共に商売を行っていた、モンパカ車運転手の魔導師ポポロ=マングースカである。
二人は何も言わずに、飲んだくれているエヴァンスのテーブルへと座るとエヴァンスは下を向いて黙ってビールを口にしている。