さがしもの
ホラー書きではないので、あまり怖くないと思います。
夜中に目が覚めると、薄暗い天井が目に入った。
高校総体の前に腕を骨折するなんて、全く運が悪い。
先輩の短距離、応援したかったのに・・・・・・。
部屋の中は、ほのかに明かりが差している。ナースステーションが近いせいだ。
夜勤の看護師達が、なにか話しているが、内容まではわからない。ときおり、ナースコールの耳障りな音が響く。
眠れない。テレビを点けるわけにはいかない。向かいのベッドのおばさんは見たい映画があると、こっそりイヤホンを付けて見ているが、俺はイヤホンを持っていなかった。
仕方なく、俺はベッドから降り、手洗いに行くふりをして、ソファーが並ぶ休憩室に行くことにした。
案の定、休憩室は暗かった。どさっと、体をソファーに預ける。スマホでも持ってくればよかった。
「・・・・・・ねえ、見つかった?」
いきなり声を掛けられ、俺は体を硬くした。後ろを向くと、10歳ぐらいの女の子がいた。かわいいパジャマを着ている。
「まだ、見つからないの?」
女の子は、ウサギのぬいぐるみを抱えていた。
「見つけるって、なにを・・・・・・」
うつむいていた女の子が、顔を上げた。俺は、心臓を冷たい手で掴まれた気がした。
「お前は・・・・・・」
「お兄ちゃんが鍵をなくした、って言ったから、あたし、お兄ちゃんと一緒に暗くなるまで捜し物したんだよ」
気づかなかったが、女の子の服は、所々血に染まっていた。
「すごく、すごく、痛かったよ。お兄ちゃんが、何回も、包丁であたしを刺したから」
冷や汗が噴き出す。
俺は、女の子を刺したあと、急いで逃げようとして、車と接触事故を起こしたのだ。
「ねえ、鍵、見つかった?」
女の子は、また繰り返す。
「見つからないなら、あたしと一緒に、探しに行こう?」
女の子が俺の前に来て、血に濡れた手を差し出す。
俺はその小さな手を見つめることしかできない。
「鍵が見つかるまで、あたし、ずっとずっと、お兄ちゃんのそばにいるから」
女の子が、俺の顔をなでた。俺の顔に、血がついたことがわかった。
「お兄ちゃんが言ったことが、嘘だったら、今度はあたしが、お兄ちゃんをずっと事故に遭わせ続けるから」
<了>
実は作者がホラー苦手です。
お読みいただきありがとうございました。