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ハムカツ
「ハムカツですか? 私も昨日食べたんですよ!」
隣の部署の女性社員に話しかけられた。声が高くて、人との距離が近い女。日頃はあいさつを軽くするくらいの関係だったから、突然話しかけられて少しギョッとする。
「このハムカツサンド好きで。ついつい選んじゃうんですよね」
知らん。
私の手に持ったハムカツサンドを見るや否や飛びついてきたところをみると、ハムカツ愛を語りたくてしょうがないのか。ハムカツのように薄い愛を。
私は昼食を一発で選び抜けるほど肝が据わってない。私のハムカツは、熟考の末のハムカツ。「優柔不断、勇気の一歩」としてのハムカツなのだ。最初から決まっていた、既定路線のハムカツと一緒にしないでいただきたい。
いや、これは斜めな見方。
ほんとはハムカツなんてどうでもよくて、ハムカツはきっかけに過ぎなくて、彼女は私とお話ししてみたかったのかもしれない。私も変に構えて分厚い壁を作らずに、ハムカツくらいの薄い塀の隙間から、彼女をもっと覗き見ればよかった。
いや、これは甘えた見方かな。




