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【3万pv突破】東京アレルギー  作者: 晴後くもり


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落とし物

 冬になると、街中に手袋が落ちている。

 大小様々な手袋たち。そこにはそれぞれのストーリーがあるに違いない。


 かく言う私も手袋落としの経験者である。

 大学生の頃、恋人に誕生日プレゼントとしてもらったその手袋をひと月も経たぬうちに落としてしまったのだ。


 定かではないのだが、たぶん落としたのは電車の中だった。長い時間、満員電車に揺られて、途中大きな駅で人の波が大きく動いて、ようやくシートに座れた。その時の安堵感で油断したのか、携帯電話を操作するために手袋を脱ぎ、膝に置いたカバンの上にのせて……。


 不思議なもので前後の記憶はまるで曖昧だ。

 まるで、自らの防衛本能が、不都合な記憶を消し去ってしまったかのように。



 もしかすると、私たちは膨大な情報を保管するために、物それぞれに記憶を預けているのではないだろうか。PCが持ちきれないデータをクラウドに移すように。


 当然、記憶を宿した物を失くしてしまえば、記憶ごと……。



 大切にしたかったものだから、かなしくて、悔しくて、家でひとり泣いた。泣いても、泣き止んでも、手袋が見つかることはなかった。


 大切なものは、大切にしたという記憶が身体に残るが、大切にしたかったものは、大切にできなかったという記憶が身体に残る。


 冬の日、私は街で落ちている手袋を見つける度に、あの手袋ではないかと確かめる。だが、あの日の記憶は依然曖昧なままで、ただただかなしかった気持ちだけが蘇る。

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