炙り白子
白子を炙ったものを食べた。
白子。そのままでもミルキーでクリーミーで美味しい白子。ミニブドウのようにふさになっていて、外側の薄皮はぷちっと弾ける。中からは濃厚でコクのある味わいが口にひろがる。
その素材型の型ともいえる白子を炙ったものがメニューに載っていた。
かねてから、素材型と呼ばれる選手は、コーチの経験則に基づいた、古風な指導によって幾度となく、陽の目を見ぬまま引退していった。
ああ、またこのパターンかと。余計な匠の遊び心で、ひとつの才能を潰してしまうのかと。思った。だが、それならば、私くらいは食べてやろうと。せめて、ポテンシャルを知る私こそが実食し、正当に首脳陣を批判してやろうと、そう思った。
メニューから、炙り白子ポン酢を注文する。
物腰の柔らかな店主が、5分も経たないうちに、料理を運んできた。
香ばしさが鼻を通して食欲をかきたてる。まあ香りはそりゃあ、熱すると立つ。至極当然のことだ。この程度で面喰らってはいけない。
日本酒の熱燗を少し口に含んでから、白子を橋で摘む。ぷりぷりで、これ以上強く摘むと弾けてしまいそうだ。あまりの香り高さに飲まれそうになるが、えいとその心を鎮め、真っさらな気持ちで舌に乗せる。
次の刹那、人間の感覚器全てに訴えてくる旨味が全身を駆け巡る。後頭部の右側がすーっと開いていく感覚を覚える。うまい。うまい。うまい。
炙り白子おいしゅうございました。