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夏の朝
朝、窓から差し込む光が鋭い。際は外から熱が染み出してくるように重く気怠い空気が漂っている。ベランダからチリチリと蝉が翅を打ちつける音が聴こえる。何度か繰り返した後、音は止んだ。
患っているらしい。ぼんやりとした不安と鈍い痛みが、お腹のあたりに冷たくある。いまわたしには外の様子を知る術がないから、耳だけでもと、涼しい部屋にいながら世界へと意識を飛ばしてみる。
原付が通りすぎる音。
大通りの車の音、風がごうと抜ける音。
反響する。
遠くの蝉の声、重なって鳴く。
電車が過ぎる、ヘリコプターが真上を通る。
しばらくして、コンビニの入店音、
本屋さんがシャッターを開ける。
商店街に色がついていく。
閑散とした学校にチャイムが響く。
雲と雲が擦れる。
子どもの甲高い声。
トラック。
波の飛沫。
子鹿が駆け、土が撥ねる。
誰かが一日遅れて黙祷を捧げる。
ふとベランダから、ジーと蝉が鳴いた。胸のあたりが少し大きく脈打った。




