スコーン
表参道にある美容院へ行った帰り、行きつけのカフェに立ち寄った。こう書くといかにも東京かぶれのスカした奴である。
スカしは続く。そのカフェは、大通りから外れた閑静な路地に佇むビルの2階に位置しており、休日でもゆったりとした空間。カフェはどこもかしこも賑わう表参道には在るまじきものである。
その日はよく晴れていて、大きな窓から自然光が差し込むと、ウッド調の内装がふわりと優しく反射した。温かく柔らかい空気が店中を充していて、心なしか客たちの表情も柔らかだった。
嘘である。本当は、大通りに面したカフェで、行きつけでもなんでもない、一見の店だった。それなりに順番を並んでようやく入れた。外は小雨が降り出していて、順番待ちしている客たちの表情は、少しやつれているように見えた。
その日、久しぶりにスコーンを食べた。
私はスコーンがあまり好きではない。スコーンって、軽そうな名前とは裏腹に、密度が高く重量感があって可愛くない。その上、パサパサしていて口の中の水分を奪うものだから、私の不評を買っている。
だが、なんとなくメニューの中で目が合ったから頼んだのだ。すると、このお店のスコーンは、今まで食べてきたスコーンとはまるで違った。軽やかでふんわりで可愛かったのである。
本当である。添えられたホイップとはちみつを小さなバターナイフで交互に掬い、スコーンに塗って口に運ぶ。交互に交互に、少しずつ少しずつ、いただいた。
美味しいものって満たされていくのと同時に、減っていく淋しさがある。これが質量保存の法則というやつかしら。
(質量保存の法則に則り、本当と同じくらいの分量で、嘘をついてみました)