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いりこ酒
生きるのが上手くない。
上手い人なんてそうそういないと思うけど。世渡り上手なんて言われる人は、たいそう生きづらいだろうと思う。息苦しいと思う。
そんな時に自然と呼吸を許してくれるのが、お酒だ。例えば、ワンカップ大関。大関は大関でも、カド番ギリギリの、いつ関脇に落ちてもおかしくないようなワンカップを選ぶ。
ワンカップは、透き通るガラス瓶に入っているからこそ価値がある。真鶴に住む友人にもらった鰯の干物をライターで少し炙って、容れる。鰯の光沢が、ガラスに反射して、酒がきらきら光る。いりこ酒は美しい。
ああ、真鶴に行きたいなあと思う。もう少し生きるのが上手くなったら、あるいはどうしようもなく難しくなったら、真鶴に住もうと思う。