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冬のハッピー
冬の訪れを感じる度、ハッピーな気持ちから遠ざかっていく。冬は苦手な季節なのである。
だから、と言って、自らハッピーな事件を起こそうという気にもなれず、なんなら、そういう気持ちになれないからこそ、冬なのだ。
ならばせめて、ハッピーな気持ちになれるものを思い浮かべよう、と頭の中の箪笥を片っ端から開け放す。冬は思考も鈍るのか、箪笥の滑りが悪い。夏場の湿気にやられて建て付けが悪くなったのかしら。
68つ目の引き出しを開けると、中には将棋の駒が入っていた。
将棋の駒は、ある一定のラインを超えると、一様にひっくり返る。実に愉快である。
実家の八畳間を思い浮かべる。
私はそこにうつ伏せに寝そべり、ずんずんと進む。部屋の三分の二ほど進み、畳の縁を超えたところでくるっと寝返る。
そんな想像。なんとなく愉快。
ただ、冬の和室は冷える。