妄想アレルギー
3年ぶりに、従兄弟から連絡がきた。
--あしたの夕方空いてる?
特に用もなかったので、
--空いてるよ〜
と返す。すると、
--18:15に四谷三丁目駅待ち合わせでお願いします
ときた。またピンポイントな。
--了解でーす
と間抜けな返事をして、メッセージを終えた。それに対する返信はなかった。
ふと、落ち着いて、ことの顛末をさらってみると、少し怖くなってきた。
・3年ぶりに連絡がきたこと
・「久しぶり」などの枕もなく、まず予定を聞かれたこと
・18時15分という微妙な時間であること
・四谷三丁目は、埼玉在住の彼にとってアクセスが悪いこと
不可解な点が多い。単純な飲みの誘いなら、飲みに行こうよと言えばいいものだ。また、突然の連絡に、2通目の時点で時間が決まっていることにも違和感を覚える。
たまたま四谷三丁目に来る予定があるにしても、少し待って、18時半待ち合わせにするくらいできるだろうに。
細かい時間指定は、
・誰かを待たせている
・その時間に何かが起こる(イベントがあるなど)
の二点が考えられる。
さらに、この前実家に帰った時母から聞いた話によると、従兄弟はこの前、泥酔した挙句、財布を無くしたらしい。おばさんに資金援助を求めたそうだと、聞いた。
いよいよ怖くなって、
突然連絡 時間指定
で検索してみた。
すると、アム○ェイなどの勧誘が出てきた。
なるほど、言われてみれば、飲みの誘いとも言わずに時間指定をするのは、喫茶店か何かで話をするのかもしれない。前後のアポや、内部の偉い人に合わせた時間設定である可能性もある。
財布を無くしたというのも、もしかしたら商材などを大量に買わされて、文無しになっているのかもしれない
これはいけないと思い、対策を熟読する。
お金があることを悟られてはいけない。
と、あり、財布の中のカードを全て抜き、机の上にビシッと叩き置くと、万が一飲み会だった場合に備えて、これくらいくれてやるの気持ちで一万円だけ財布に入れる。息を一つ吐いて、家を出る。
18時15分待ち合わせにも関わらず、四谷三丁目に着いたのは16時だった。なんとなく、下見しておきたかったのだ。
連れ込まれるのはあの喫茶店かな、あそこは怪しいな、などと邪推しながら周辺を散策する。
ちょうどA3出口のあたりを歩いていると、某宗教団体のホールを見つけ、ハッとする。何か宗教の勧誘をされるのかもしれない。18時15分に待ち合わせすれば、18時半から始まる講演に間に合うとか、そういったプランかもしれない。
うわ〜、そっちか〜などと心の中で思いながら、疲れたので近くの喫茶店に入り腰を据える。コーヒーを飲んでいると、従兄弟から
--A3出口待ち合わせでお願いします!
とメッセージがくる。いよいよ腹を決めて、喫茶店をでて、A3出口に向かう。
交差点のあたりで待っていた彼は、3年前の面影を残しながらも、少し大人になっていた。
「久しぶり」と声をかけると、
従兄弟は、「じゃ、行こっか」と言い、先を歩く。
そして、連れていかれたのが、羊肉のめっちゃ美味しいバルだった。
……あれ。アム○ェイじゃなくて、ラム○ェイやん。
「なに言うてんの」
「いや何にもないよ」
美味しいラム肉をつつきながら、事情を聞くと、
・元々は女友達と行く予定だったこと
・女友達がインフルエンザになったこと
・このお店はなかなか予約が取れないこと
などを教えてくれた。この店は、新宿の方にも店舗を構えているそうだが、何を隠そう前回泥酔し、財布を無くしたのがその新宿店だったそうだ。
なるほどすっきりした私は、三年分の感傷を肴に、いつも以上にハイペースで酒を飲んだ。従兄弟も同じペースで飲んだ。
すっかりできあがってしまった私たちは、その後店をはしごし、夜中まで飲んでいた。従兄弟が終電を逃したので、うちに泊めることにした。
家に帰ると、テーブルの上にはカードが散らばっていて、我にかえった。従兄弟は、「どしたん」と訊いてきたが、「整理してて」と濁し、引き出しにしまう。
ほどなくして眠り、従兄弟は朝早く帰っていった。今度謝ろうと思う。