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暴君ト呼バレシ男ノ最初ノ最期

◤◢◤◢◤◢◤◢ WARNING ◤◢◤◢◤◢◤◢


此処から滅亡へ向かいます故、


鎌房きゅん♡(棒)


の散り行く姿を見たく無い方は、


お気を付け下さい。




共和国歴1911年9月2日。

大陸の最北端に在る1つの国が滅びようとしていた。

だが、それでも…俺は戦っている。


「駄目だ」


砲撃と銃声が止まない。砂埃と硝煙の匂いが絶えない。あちこら悲鳴や呻き声が聞こえてくる。俺は、もはや廃墟となった建物に設置された臨時の指揮所で上官にそう告げられた。


「君がいくらアルバニスタ共和国建国の革命家だからといって敗戦濃厚なこの時期に部下を君と一緒に死なせるわけにはいかない! あと数日もすれば政治家どもが降伏して我が国は帝国になる。もはや避けることは出来ない!」


俺の上官であるチェコロフ大佐はそういうとタバコを取り出してくわえて、マッチで火をつける。タバコに火がついた瞬間に彼は燃えているマッチを俺に投げつけた。だが分厚い冬の軍服のおかげで火傷すらしない。


「ですが、このままでは国がなくなってしまいます。我々だけでもこの戦況を打開すべきです」


このままでは憎い国王や貴族どもの圧政から解放された祖国が滅んでしまう。守らなけばならない。どんな手段をとってもだ。


「一地区の戦術的勝利で戦略的勝利を得られるか! 馬鹿もんが! もう終わりなんだ!」


しかし、頭の固いこの男は俺の事を疎ましそうに睨み付け、声を上げた。


青い目とブロンドの髪、50は超えている皺のある顔をした男は、元は教会であったであろう祭壇の上に置かれたこの国の地図と地図の上に乗っている敵を示す赤い駒と味方を示す青い駒を指さす。


「これを見ろ! その戦術的勝利ですら怪しい! 首都は6万の敵に包囲され、我が方はたったの5000に満たない。あちこちに川がはしっている街で敵の進路は予想しやすい! だがな!」


「危ないッッ!!」


壁際にいた兵士が叫ぶ。その瞬間に聞きなれた轟音と砂埃があがった。伏せる暇もなかった。全ては一瞬の出来事だった。轟音で耳鳴りがする。更には、飛んできた破片が体を打ち付け為か、全身が殴られた様に痛む。だが、自分の体を確認してみると幸い無事な様だ。


俺は周囲を見渡した。天井には大穴が空いて壁も殆ど無くなっている。


「うあぁぁぁああああっ!」


彼方此方で兵士が叫んでいる。壁際に居た兵士の変わりに黒い穴が空いた。あの兵士の存在等、まるで最初から無かったかの様だ。



「糞っ!帝国軍め!見ろ!連中は、首都を包囲して民間人なんてお構い無しで砲撃してきやがる! 対して此方には大砲等、残っていない! あるのは小銃と手榴弾位だ!」


それがどうしたというのだ。折角、手に入れた自由と平等な社会を守る為ならば、その程度の苦労等、乗り越えられない壁では無い。只、単に、此奴にはその気概が無いだけだ。



「お前は、街中の状況を理解しているのか! 病人と老人は病院の地下に置き去りにし、子供達は少年兵として無謀な突撃をしているんだぞ!


国民から徴兵された国民突撃隊は、政治家どもの無能な指揮を受けて無謀な突撃!此方のの指揮なんて聞きもしない!


街灯には、無実の連中が敗北主義者だの裏切り者だの言われて吊るされている! 


首吊り通りだ! これが世界で一番美しい街と言われた首都ニアスタの今の惨状だ! 

そもそも政治家どもが、無謀に帝国に戦争なんて吹っ掛けなければ良かったんだ!」


チッ!此奴は言い過ぎだ。例え現状がその通りであっても、言ってはいけない事である。士気と秩序にかかわる問題だった。


「チェコロフ大佐。今の発言は軍法会議ものですよ」


「知るか! こんな混沌とした状態で」


これ以上此奴に喋らせてはいけない。そう思った俺は、反射的に腰のホルスターから拳銃を取り出した。ヴァルター08拳銃。最近に正式採用になった自動拳銃だ。回転式拳銃と違い、マガジンと呼ばれる弾丸入れがあり、装填が速く、回転式けん銃よりも弾数が多い。この拳銃には7発入っている。

俺はそれをゆっくりとチェコロフ大佐に向けた。


「貴様! 上官に向かって!」


「チェコロフ大佐。貴官は国家を裏切る発言をなさった。秘密警察の人間として許すわけにはいかない」


周りの兵士達にも聞こえる様に声を上げる。周りに居る兵士達は俺に対して怯えた目線を向けた。亡国の間際とは言え、秘密警察の権限は生きている。


「発言を取り消して下さい!」


「殺すなら殺せ! この国家の犬め!」


俺は感情も無く機械の様に冷静に引き金を引いた。この様な敗北主義者を生かしておいては勝てる戦も勝てない。銃声が鳴り響き、腕に反動で振動が訪れる。9mmの鉛玉が銃口から発射された瞬間、大佐は崩れ落ちて死体になっていた。眉間に空いた穴から血が零れ落ちる。


「指揮を引き継ぐ。反対の者は前に出ろ!」


怯えている兵士達にそう怒鳴るが誰も反攻しようとはしない。そう、彼らはわかっているのだ。反攻すれば前の上官のようになると。


「装備を整えろ! 30分後に敵の砲兵隊に攻撃をかける!」


そもそもどうしてこうなってしまったのか。最初は、良かった。国王と貴族に長年虐げられてきた我が祖国は、民衆の弾圧から暴動へ発展し、遂に国王と貴族どもをギロチン台の露にしてやったのだ。


沢山の俺の様な革命家が犠牲になり、成し遂げた自由と平等の社会。王族貴族の財産は、国民が平等に生きるための資金になり、出来上がったアルバニスタ共和国は社会主義国家としてそのスタートを切った。マニール王国を滅ぼし、新しい国として生まれ変わったのだ。そこに富裕層はいない。全ての富が国家によって全ての人々に分配される理想の社会。それが永遠に続くはずだった。


だが、そうはならなかった。折角、成立した革命政府は時を置かずして汚職まみれになり、内部は一瞬で腐敗した。汚職政治家が幅を利かし、彼奴等のせいで市民に餓死者が出てくる様な事件まで起こった。


丁度、そんな時だった。革命家としてある程度名前の知られていた俺が秘密警察に採用されたのは。


元々は生粋の軍人である。革命前は新兵で、王国軍に所属していたが革命思想を多くの人に広めた。その過去を買われて汚職政治家を始末する秘密警察に声をかけられたのだ。俺は二つ返事で秘密警察に入った。


表向きは軍人。裏の顔は秘密警察。

革命会議と呼ばれる最高司令部は、俺達、秘密警察を使って汚職政治家を次々に始末していった。


これで理想の社会主義国家に成る事が出来る。そう、確信したのだ。


だが残念な事に、そう上手く物事は運ばなかった。事は3年前の亡命事件にさかのぼる。3年前、我が国の汚職政治家が国境を越えて帝国領に亡命をしようとした。その為、我々秘密警察の実行部隊が汚職政治家の乗った車を追跡し、始末しようとしたのだ。だが、運の悪いことに汚職政治家は国を越えてしまい、帝国領に入ってしまった。秘密警察の実行部隊は、容赦なく追撃した。


その際に、予め汚職政治家が呼んでいたのであろう、帝国の国境守備隊と交戦に入ってしまった。それが戦争の始まり。


その後、逃亡先で帝国の皇帝や政治家どもに、その汚職政治家が、我が政府が非道な人権侵害をしていると触れ回ってしまい、帝国で交戦論が起こった。


悪は正されるべきだ。


俺や他の革命家達は声を上げた。理想の社会を作ろうとしている時に、餓死者を出す政治を行う奴等と、それを庇護する帝国は悪だ。奴等は私腹を肥やす為に人の命を食った化け物だ。


いつしか我が国の世論はそう叫ぶようになり、革命会議は帝国に汚職政治家の引き渡しをしない場合、宣戦布告する事を通達した。


だが、それは罠だった。今となっては遅いが帝国はこの国の領土が欲しかったのだ。この国にはアルマダイトと呼ばれる希少金属の鉱床が存在する。その石が在れば、石炭を使わずに蒸気機関車を走らせる事や、強力な遠距離攻撃が出来る最新化学兵器等の、精密部品の作成の原料で、金や金剛石以上の価値があると世界で知られている。


そして、この石は祖国の重要な資金源であり、かつての王族や貴族どもが炭鉱夫を酷使して豪遊を毎日繰り返していた資金源であった。


我々は帝国に嵌められたのだ。

それが1年前。

我々は善戦した方だ。1年も戦い続けられたのだから。

そこには、多くの革命戦士の血が流れた。そして、俺の殺した無数の反逆者と帝国兵の血も。


「ううわあああああ!」


部屋の隅で震えていた兵士が壊れた窓から飛び出そうとする。敵前逃亡だ。

俺は反射的に銃を向けて引き金を引いていた。窓から飛び出した瞬間にそいつは動かなくなる。敵前逃亡は銃殺刑だ。裁判はいらない。


最早、裁判無しで人を何人殺したのかわからない。ただ、この国の理想に反対するものは死ぬしかないのだ。奴等には、平等な社会を享受する資格はない。


「ラガ中佐。準備が整いました」


部下が報告に来る。俺は頷くと自分の茶色い髪を撫で、祭壇の上にあった、今は死体となった大佐の軍帽を被った。灰色の軍服と軍帽、茶色い目と髪。そんな俺の姿を見たら昔の自分はどう思うだろうか。


思えば、自分の人生には軍隊しかなかった。軍人の家に生まれて、軍人として育った。それが全てだった。そう思っていた。


だが、社会主義の思想を知った時、俺の考えは変わった。真に富が平等に分配された平等な社会、統制された社会の中で人が人らしく生きる自由な権利を持つ社会、それを決める革命会議という政治形態。王族と貴族に圧政を受けていたこの国の国民として、その内容は魅力的だった。

国民は貧困で苦しみ、王族貴族は豪遊の毎日。軍の上層部は貴族の子弟で占められており、俺のような平民出身の奴が王政では今のような中佐という地位には立てなかっただろう。


「行くぞ」


俺の呼び掛けに反応出来た数十人の部下を連れて廃墟となった建物を出た。


外は酷い物だった。


晴れていると云うのに砲撃の砂塵や硝煙、火災の煙のせいで、曇っているかのような空だ。視界に入る物は、壊れた建物の破片だけで、人影は見当たらない。この数十名以外は連絡がつかなったらしい。おそらく電話線が切れているのだろう。


「兵隊はこれだけか?」


俺がそう聞くと背後にいた部下の一人が答えた。


「申し訳ありません。この21名だけです。他の部隊とは連絡がつきません。伝令を出そうにもこの砲撃の中ではどうも」


仕方がない。俺は舌打ちをすると部下を連れ、瓦礫の街を歩き出した。砲撃が絶え間なく続き、大地が揺れ、轟音が鳴り響いている。レンガ造りの美しい建物やレンガを敷き詰めた道路はぼろぼろで、彼方此方に砲撃で形成されたクレーターがある。


「ぐわああぁぁあ!」


悲鳴も絶え間無い。そして街灯にはこの砲撃の中だというのに熱心な革命戦士によって敗北主義者と書かれた札をかけられた死体が吊るされていた。女性も子供も男性も、老いも若きも、色々な裏切り者の死体が街灯に吊るされている。


「うちの司令官こえぇ。顔が強面なのもあるけど、見ろよ。街灯の死体を見て、微笑んでるぜ」


微笑んで何が悪い。裏切り者の死を見る事程、心地良い事は無いのだ。そして、廃墟と砲撃の中を歩くこと数十分。首都の川沿いに出た。大きな川だ。幅は50m。対岸では敵の砲兵隊が陣地をしいて首都に向かって砲撃をしている。奴等の所へ向かうにも橋は占領されており、機関銃陣地が敷かれていた。敵の数は少なく見積もっても500は居る。一個小隊以下の人数ではどうする事も出来無い。


だが、社会主義国家を守ると云う意志さえ在ればどうにか成る筈だ。今の俺の目的は、この砲撃を止める事だ。



その為には、弾薬集積所を破壊しなくてはいけない。


幸いな事に、あの無能な大佐が砲兵隊陣地のすぐ後ろに敵の弾薬集積所が在る事を突き止めていた。それさえ破壊すれば、敵は行動不能になる。例え、全滅したとしても革命会議は未だ健在だ。きっとこの勝利を利用して祖国を勝利に導いてくれる筈だ。


問題はそれをどうやって成し遂げるかだ。

目の前には川が流れていて船で渡れば狙撃される。橋には機関銃が配備されており、対岸の砲兵隊の前にも機関銃が配備されているのが幾つも見えた。突破は困難だろう。

だが、それはある程度人数がいる場合の話だ。

自分達は少人数。それなら何とかなる筈。

それに方法は存在した。


この下には下水道が走っており、それは川の下を通って弾薬集積所の下まで行ける。相手はこの街の複雑な下水道について良く知らない。その盲点を上手く利用するのだ。


作戦は単純だ。下水道を通り、敵の弾薬集積所の下に行き、爆薬を仕掛けて爆破する。これは中世ヨーロッパ時代、黒色火薬を使って行われていた坑道作戦を応用したものだ。この戦法は城壁の下までトンネルを掘り、そこに爆薬を仕掛けて城壁を爆破するという物だ。爆風という物は必ず上に向かうものだ。その為、地下に設置された爆弾の爆発という物は地上物を破壊するのに最適な物だと言える。

今回、歩兵たちに前もって持たせていたのはダイナマイトだ。1人20kgは持たせているので俺を入れて420kgに相当する。これならば、簡単に地上の弾薬集積所位は吹き飛ばせるだろう。

そして、成功すれば砲撃が止まる。そうすればきっと、逆転のチャンスだって生まれる筈だ。


「行くぞ!」

「おう!」


兵士達が声を上げると彼等は、近くにあったマンホールの蓋を開けた。そして、一人ずつ入っていく。俺も中に入ると酷い臭いがした。マンホールの梯子を降りる度に下水処理場の汚臭が漂ってくる。梯子を下りると広い場所に出た。そこは地下の川で中央には汚水が流れており、両側にはレンガで作られた道がある。明かりなんて無論ない。


「明かり」

「はっ」


兵士がポケットからライターを取り出して、小さな明かりを灯す。薄暗い地下の下水道。地面は砲撃で揺れているが比較的静かに感じた。


「行くぞ」


兵士達を引き連れ下水道を歩く。この国の下水道の壁には上にある通りの名前が書かれている。それを見て歩けば迷う事は無い。


通路を歩き続け、目的の場所についた。しかし、そこには邪魔なモノが沢山在った。


「ヒィッ!!」


下水道の中を掃除する為の船着き場で、少し開けた場所とブルドーザーの様なシールドを持った船が置いてあった。弾薬集積所はこの上だ。ここに爆弾を仕掛ければ砲撃は止むのだ。だが、そこには女子供が50人程、身を寄せ合って避難しているではないか。


俺はため息をつくと銃をそいつらに向けた。


「出ていけ。此処は爆破する」


悲鳴を上げながら避難民が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。それと同時に兵士達が持ってきたダイナマイトを壁や天井に設置し始めた。


順調だった。すべてがこれでうまくいく。俺も自分の持ってきたダイナマイトの入ったリュックを壁側に設置した。そして兵士たち総出ですべての爆弾を導火線でつなげ始める。


後は火をつけるだけで終わりだ。それで暫くは時間稼ぎができる。そのはずだった。


「敵だああああ!」


兵士の一人が声を上げる。見ると来た道の反対側から敵の兵士が歩いてきているのが見えた。人数は四人。これ程度なら容易いが早くしないと弾薬が移動されてしまう。そうなれば作戦は失敗だった。歩兵たちがライフルを撃ち始める。すると敵の兵士たちは下水道の曲がり角で通路に身を隠してしまった。もし、彼等の一人でも地上にでてしまえば作戦は失敗する。


俺はそう判断すると、即座に導火線に火を着けた。そして、兵士達に退却を命じる。俺は銃を構えて通路の壁に身を隠した。


「中佐!」


兵士の一人が俺に向かって声を上げる。


「行け! 此処は俺が食い止める! この国を頼んだぞ!」


「ですが!」


「いけええぇッッ!!!」



俺はその兵士に向かって銃を撃った。弾丸は明後日の方向に向かって飛んでいき兵士には当たらなかったが、怯えた兵士達は俺を置いて逃げていく。


これでいいのだ。これで。


ライフルを構えて通路から身を出して敵の兵士に向かって発砲する。後ろでは導火線の燃える音がした。


俺にはこんな最期が相応しい。銃を撃ちながら俺はそう思った。


思えば、最初に殺した部下は恋人だった。


彼女は、俺の考えが間違っているといつも言っていた。


俺からすれば、それは戯言として笑い飛ばしていた。彼女は貧乏貴族の娘。新兵の頃、平民の俺に部下として付けられた、能力も権力も無いに等しい貧乏貴族の娘だった。

それでも、王家や貴族に虐げられても尚、俺の考えが間違っているといつも言っていたのだ。


ブロンドの髪の青い目の美しい奴だった。何故、軍人なんかと言うと、お金の為だと言っていたけ。


銃を発砲し続ける。五発撃っては再装填。それの繰り返しだ。ほんの少しで良い。導火線が爆弾に火を着けるだけでいいのだ。


ふと、彼女の言っていた言葉を思い出す。

あなたの言っている社会主義はお仕着せの幸せ。そんなのは嫌。


お仕着せか。だが主義主張なんてもんは、元を辿れば誰かのお仕着せじゃないか。


記憶がフラッシュバックする。


あれは酷く雨の降る日だった。俺は秘密警察の初の仕事として一人の人間を殺すことを請け負った。暗い牢屋の中。そいつは一人、鎖につながれてベッドに座って泣いていた。


あいつだった。王国軍時代、新兵の時につけられた部下で、俺の恋人。


拳銃を持った俺を見ると彼女はこういった。

あなたはどうしてそこまで理想に生きるの?

俺はその言葉を聞いた瞬間に、銃を向けて引き金を引いていた。怖かったからだ。自分の信じてきたものが彼女と話していると壊されてしまいそうで。


だが、今その言葉を思い出した時、俺はふっと笑っていた。


「結局は自己満足なんだよ。お前も俺も。一緒じゃねぇか」


あいつも主義主張を捨てなかったから俺に殺された。そして、俺は自分の主義主張を捨てなかったから死のうとしている。


結局はそうなのだ。自己満足すればいいのだ。どんな最後だって。自分が納得すればそれでいい。


「なあ、エカテリーネ。お前はどうだったんだ? 納得して死んだのか?」


そう呟いた時、彼女のほほ笑んでいる顔が見えたかと思うと轟音と閃光が周囲を包み、俺の意識は消えていった。


おそらく俺は歴史の中に埋もれて消えていく、知られざる命だったのだろう。だがそれでも俺は満足だった。自分の納得いく最期であったのだから。


それがどんな結果であっても。





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