フラグ回収\(๑´ω`๑)/
「って、ちょっと待てや!なに勝手に話を終わらせてくれるんや!」
久々にお会いした兄上は、私にとっては何も無い虚空のある一点を睨み付けながら、そう叫んでおりました。
相変わらず、何処かおかしな方です。私の旦那様も、兄上の傾いている所に振り回されているのですね。
「兄上、お久しゅうございます」
「あっ、峰子ちゃん。元気……そうやな。って、なに笑っとるんや」
兄上が、扇子で顔を隠しているのにも関わらず、それを手で払われる事は慣れました。
しかし、私、何時も思うのですが、何故、私には、"ちゃん"付けなのでしょうか?阿喜多御姉様に対しては呼び捨てなのに。
「ふふっ、兄上が日ノ本一の傾奇者でありますから」
「それは前田慶次君の事ですよ?峰子ちゃん……」
ほら、出た。イマイチ、良く分からない兄上の変な返し。こういう事を言うから、傾奇者になるんですよ。後ろに控えておられる旦那様も、お困りになられておるでしょ。
「兄上。前田慶次殿?との、無駄な張り合いはやめてくださいよ。そんな事より、午後の絵画教室に参加させて頂きますね」
兄上が描かれる、あにめがと、云う流派の絵に、酷評を付けてもらえるよう、等伯先生に頼みましょう。
それに私は、狩野松栄殿の絵より、長谷川等伯先生の松の方が好きなので、その様な素晴らしい絵を描かれる方と直接お話し出来る機会など……結構有るのですが、それでも、指導を受ける事は貴重な経験となり得ましょう。
そしてこの時、私は、どうせ、兄上と二人だけだと、勘違いをしておりました。
「お久しぶりっす、内基君。伴天連追放の勅許の中身の改正、ホンマに頼みますで」
兄上が声を掛けたその人物とは、つい先日、従二位に登られた一条内基様でした。
誰もそんな話聞いてないと、兄上に怒ったのですが、誰もそんな話言ってないし、聞かれてもいねぇと、一蹴されました。
うぅ、正論ですが、気に食わないです。
「鎌房にぃの推挙のお蔭で朝廷内も大分、此方の陣営の味方になってくれる貴族も増えましたが、まだまだ大友氏や本願寺派の物も根強く残っているので、大友討伐の勅許は無茶ですよ」
え?女の私がこんな事を聞いても宜しいのでしょうか!?
大友氏の討伐?兄上は、そんな恐ろしい大きな戦を仕掛けるのですか?
今の状況に満足は出来ないのでしょうか?
チラッと、兄上に目をやると、
しっかり聞いとけと、
声出さず、唇を動かしている様に見えました。
兄上は一体何を考えているのでしょうか?
「いや、大丈夫。為せば成る」
兄上、それは幾らなんでも無茶振りでは無いでしょうか?内基様もお困りですよ。
「鎌房にぃ、そもそも大友討伐の際、東はどうされるので?あんな土塁だけで軍神や朝倉の兵を追い返せますか?」
内基様の質問に、兄上は笑って答えました。
「だから、今からそれの為の根回しをするんだよ。まずは、側室様から。」
そして、兄上は手を叩きました。と、同時に、部屋の奥の襖が開かれます。そこには三人の男性が頭を下げて、先程から待っていた様でありました。
「永徳先生は、禰津御寮人へ屏風絵を御願い致します」
禰津御寮人は、信玄公の側室だ。性格は知らんが、姫ちゃんが絵師を指名したので、俺はそれに従う。姫様サロンネットワークによる情報を信じよう。
同じく、信玄公には諏訪御寮人と云う滅茶苦茶美人側室がいらっしゃったが、1555年12月18日に亡くなっている。14歳で結婚し、15歳で出産とかいう中々ハードで急ぎ過ぎた人生やったな。まぁ、悲劇の駒姫には負ける。あれじゃあ、伊達ちゃんキレるの当たり前でしょうね。
「で、松栄先生。貴方には、北の方への屏風絵を御願いしたいが、かの姫様は再来年にお亡くなりになられるので、なんかそういった喪する絵で御願い致します」
「等伯先生は、菊姫への襖絵を御願い致します。その御方は知的で教養のある方なので、何となくそんな感じで御願い致します。まぁ、いつもの通り、松を描いて頂ければ大丈夫だとは思いますよ」
兄上が絵師の方々に命令されると、皆様、頭を下げて礼を述べて……あれ?
「…………此の度は御招き頂き、誠に有り難く…………失礼ながら申し上げさせて頂きたい議が有ります。」
狩野松栄先生が、兄上に対して意見がある様です。驚きました。凄い度胸ですね。
「何だ?申せ」
「はっ。それでは……大変有り難い御指名を頂きましたが、我が息子、永徳は、まだまだ未熟者でして…………」
「良い良い。何事も経験じゃ。そうであろう?
永徳先生、しかと励んで下さいな。さすれば、自ずと素晴らしい作品が出来まよ。
此の一条鎌房が保証するのであるから、間違い無いかろう。のう、峰子?」
兄上、人の話を遮るのは、失礼ですよ。折角、良い事を言っているのに勿体無いです。と、云うか、そもそも兄上の保証に何の信頼性があるのでしょうか。まぁ、此処で歯向かっても何の利益も無いので、素直に、
「左様でございます」
と、言っておきましょう。
この後、松栄先生も何も言えずに、兄上は御自身の要求全てを呑ませました。
そして、兄上は自信作と言って、あにめがと、云う流派のヘンテコな絵を見せて居ました。私は思いっきり酷評を付けましたが、絵師達は曖昧な評価しかしませんでした。男じゃないですね!
その晩。
「余り御機嫌がよろしく無いようですね」
私に声を掛けたのは、旦那様こと、黒田官兵衛様です。
「絵師達が兄上の絵に関して、ハッキリと意見を述べなかったのです」
旦那様は、はぁと、間の抜けた相槌を打ち、良いですかと、切り出されました。
「良いですか、峰子……様。兄上であられます殿は、全ての領域で先駆者なのであります。でありますから、我々の価値観で見てはいけないのですよ」
私は、むぅと、頬を膨らませ、今日の事を日記に書き記しました。日記を書く事は、私の幼い頃からの気持ちの制御法です。これのお陰で、傾奇者の兄上とそれなりに付き合う事が出来るのです。これで明日から何とか頑張れそうです。戦国の姫たる者は強く・賢く・美しくです。これだけは、兄上と同じ意見ですね。




