[完]満面の笑み
今まで有難う御座いました。
これ以降は、没落編となります。
1567年師走。一条鎌房屋敷・秘密之花園にて。
「うぅ……とのぉ……あしゃなのじゃぁ……」
俺の胸の中に顔を埋めている、お寝惚け姫ちゃん。超絶可愛いなぁ。
でも、それに比例する位、眠いくて、そして、寒い。
だから、俺は姫ちゃんの背中とおしりに手を当てて、此方にギューっと抱き寄せる。
姫ちゃんも寒いのか、自分から脚を絡ませ、抱き締めてくれる。最高なんだけどね。
それを至福と感じるより先に、寒くて死にそう。幾ら羽根布団を重ね掛けしているからと云って、暖房も床暖も無い戦国時代の真冬に、裸で寝る俺達が悪いんですけどね。
でも、仕方が無いじゃないですか。昨夜は聖夜だったんだから。
性なる夜だよ?本物のサンタさんは、忍者衆に内密に処分されるのを恐れたのか知らんが、来てくれなかった。
しかし、偽物のサンタこと俺は、今年も姫ちゃんに捕縛され、布団の中に拉致されたのだよ。我は被害者也……満面の笑み
その後も姫ちゃんが甘えて来るので、しっかり此方も甘え返したら、寝てしまっていた様だ。
そして、俺が三度寝に入ろうとした刹那、奴等が来た。
「「「「佛說摩訶般若波羅蜜多心經觀自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舍利子色不異空空不異色色卽是空空卽是色受想行
…………「嗚呼、来たの分かったよ」…………
識亦復如是舍利子是諸法空相不生不滅不垢不淨不增不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色聲香味觸法無眼界乃至無
………「はいはい、起きますよ。起きますって」…………
意識界無無明亦無無明盡乃至無老死亦無老死盡無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顚倒夢想
…………「嗚呼、マジでありがてぇっつうの!起きるって。起きるから!」…………
究竟涅槃三世諸佛依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪能除
…………「はいはい!起きましよ!起きたって!」…………
一切苦眞實不虚故說般若波羅蜜多呪卽說呪曰揭諦揭諦波羅揭諦波羅僧揭諦菩提薩婆訶般若心經」」」」
「いっさいくーしゃくしゃーりー……って、流石、本職。速いなぁ」
そう、奴等とは、目覚まし時計代わりに俺が雇った?坊さん連中だ。
様々な宗派の坊さん達を満遍なく召し抱えている……つもりだが、表面的には、双方に金銭間の取引は存在せず、御布施の形で寺の修繕を行っているそれの恩返しに過ぎないと、云う事となっている。
因みに、悩んでたり、感傷的になっている時は、偶に相談に乗って貰っている。
東福寺の瑤甫って云う坊さんは物凄く賢くて、政治センスも抜群だから、お気に入りです。この前、本人から諱を教えて貰って、安国寺恵瓊でしたかっ!って、なったのも御愛嬌。
遂に、俺にも人を見る目があるのか!と、一人で喜んだね。一人で嬉しがっている事を不思議に思われたから、
「諱を教えて貰える位、関係が深まった事を喜んでおった」
と、誤魔化しました。関ヶ原の戦いの後、西軍の首脳の一人として六条河原で斬首されるよとは、口が裂けても言わない。
「とおぉ……おはようございます……のじゃ」
俺と同じく、般若心経で起きた姫ちゃんが、目を擦りながら……それでも眠いのか、緩やかな放物線を描きながら俺に倒れてくる。
うむうむ、俺の、"のじゃ姫育成計画"と云う壮大な夢物語も完成に近づいている様だ。
手早く着替えつつ、そう思った俺は、長くに渡る結婚生活で既に日課と成った、着せ替え人形と化している姫ちゃんに今日の服を着せる。
朝ごはんを食べに隣の部屋に行った。姫ちゃんの今日の服知りたい?
答えは、毛皮のコートですね。因みに、姫ちゃんは、何故か法華宗の題目を唱える日だけ寝覚めが悪く、その日は俺だけがそっと布団から出て行かねばならない。仲良く朝ごはんが食べられないのは、月に2、3回かな。
寝惚けた姫ちゃんを連れ、俺が寝室の隣の部屋に入ると、熱々のご飯が並んでいる。
俺が、目覚まし念仏・題目の直後に食べると知っている為、その時刻に間に合う様に調整されているのだ。
逆を言えば、寝坊したら冷めた飯しか食えないと云う事。こりゃぁ、寝坊なんてしてられませんな。
寝室は、部屋の至る所に忍者衆が潜み、昼夜問わず剣豪が周囲を巡回しているので、厳重な警備体制であるのは一目瞭然だ。
打って変わって、食事スペースは一見すると、警備が甘いと思われがちだが、ウチの影丸は一切手を抜く事が無い。
ご飯は、忍者衆の毒味チェックがしっかりと入っており、運んでくる女官も、くノ一の皆様だ。
こうして安全且つ美味しいご飯を食べた後は、俺は秘書長官こと竹中半兵衛が待っている仕事部屋に、姫ちゃんは俺の代わりにありとあらゆる貴族の奥方様と外交を兼ねた女子会に行く。
因みに、表、つまり、男側の外交官は、朝廷担当が従兄弟の一条内基君や万里小路惟房様と秘書達だ。
が、ぶっちゃけると、貴族のお二人は兎も角、そこまで高貴な身分じゃ無い秘書達は、姫ちゃんの根回しが無いと交渉のテーブルにすら着けないと云う次第。
だから、秘書達は巨大な一条家グループ内の管理外交がメインだな。
うんうん。姫ちゃんには頭が上がらないよ。流石、奥方様だよな。奥の、裏の支配人だよ。
この前の武田信玄に対しての御願いだって、信玄の正室さんが、姫ちゃんの本家
……だから、転法輪三条家の娘さんだったから、色々情報提供して貰ったんだよ。
まぁ、信玄の正室さんこと三条の方は、俺が大寧寺の変から救った三条公頼様の娘(次女)さんだったから、そっちからも圧力を掛けて頂けましたが。
うん、でも、俺が本願寺焼いたから、公頼様怒ってるんだよね。
なんつったって、娘(三女)さんが顕如の奥さんだからさ。根絶やしは流石にやり過ぎたか
……まぁ、過去の事をとやかく言っても仕方が無いから、恐怖政治の土台が出来上がった事を喜ぼう。多分、俺の命はクーデターで儚く散るんだろうな。家臣と仲良くするか。
仕事部屋の前に立つと、自動ドアの様に襖が開く。
忍者衆の隅々まで完璧に網羅していく神クオリティーな。流石やなと、心の中で思いながら部屋に足を踏み入れると、待ってましたとばかりに竹中半兵衛を筆頭とする秘書達が頭を下げる。
そして、俺が何も言わずとも、今日の予定を教えてくれる。
「殿、おはようございます。本日の予定は以下の通りであります。午前中は政務の時とし、万里の長城計画の材料費不足と、皇朝十三銭の上奏文に関しての評議に出席して頂く」
とは言え、俺もある程度は把握している。
「で、午後は、利休の紹介で等伯先生に絵を頼むんだよな?」
「はっ。峰子様も共に習いたいとの御要望が有りましたが、如何なされますか?」
峰子ちゃんって絵とか興味あったの?と、思い、チラッとだけ黒田官兵衛を見ると、一瞬で目を逸らされた。何故?
まぁ、良いや。
「別に構わないと伝えてくれ」
「はっ」
仕事は、責任と量が物凄く多いけれど、完全なる合議制の元で行われるから、中々楽しい。元陰キャが主催者なので、俺の二の舞いを生み出さない為に、参加者全員に必ず、意見を述べて貰う事にしている。
多分、俺が陰キャ且つ狂人だった為、クラスメイト達に全く相手にされずつまらなかったグループディスカッション形式の授業も、本当はこんな感じで楽しいものだったに違いない。
まぁ、実際に政治を動かしている訳だから、現代社会研究の政策提言レポートとかとは比べ物にならない位、皆、ガチだけどな。
「よし、今日も頑張っていくか!」
「「「はっッッ!!」」」
この様に、一条鎌房は、生涯唯一にして最愛の妻と、優秀な秘書官達に囲まれながら平穏な余生を過ごしたと、伝わる。
え?ここまで読まれた方なら、満面の笑みの意味がわかりますよね?まだまだ続きますよwww




