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ローマの休日・京の休日

お待たせしました。久々の官兵衛目線です。


1567年。一条鎌房屋敷(旧三条西家の屋敷)の某所にて。


「申し訳御座いません、御方様。なれど、殿からの命であります故」


「官兵衛よ。何故、妾は…………」


「申し訳御座いません」


不満そうな顔をされた御方様であるが、殿からの命を受けて、この通路を死守せねばならない。


因みに、この通路の先は、若様の乳母一族の部屋である。


私自身は、御方様が乳母殿にと仲良くされれば問題無いとは考えておるのだが、上司である竹中半兵衛殿からも厳密に言われている為、通す事が出来ないのだ。


「殿はそんな事など言ってはおらぬと、昨夜、仰られたのじゃ」


「御方様、今、なんと?」


たまげたぞ。殿は、御方様の押しには弱過ぎるのではないか。


これでは、御方様を通さざる得なくなってしまった。


不味いと、思った刹那、侍女が御方様に耳打ちし、御方様はお帰りになられた。


危うく上司からの命を破りかけ、冷や汗をかいた。


ふぅと、大きく息を吐いた直後、


「官兵衛ッッ!!!」


と、私を呼ぶ声が聞こえる。


この声は若様だな。


私自身、余り理解出来ていない事を教えろと仰られても、困るのだが。


本当に、殿から渡された、へえせえのきょうかしょと、云う書物の内容はどれもこれも難解過ぎる。


「若!直ぐに参ります!」


只管、若様に翻弄され続ける日々が、今日も官兵衛を襲う。とは云え、前線では無い京の都は、平和であった。





「御呼びじゃろうか、殿」


後、もう少しで、息子が世話になっている乳母殿に会えると思いましたが、丁度その頃合を見計らったかの様に、殿が御呼びになられました。


「うん。ちょっとね」


そう言って、殿は、手に持っておられる書物の隙間から、私の顔をチラチラ見ます。


覗いている事が分かっていないとでも、思っているのでしょうか。それとも、私の顔に何か付いているのでしょうか?


毎朝洗顔していますが、先程お菓子を食べたので、少し自信が無いです。


因みに、結婚をした翌日から、白粉やお歯黒等の化粧を全面的に禁止されてしまいましたが、もう化粧をしない習慣が身に付いたので其方の心配は有りません。


「あ〜その、姫ちゃん。御機嫌如何?」


殿の何とも言えない会話の切り出し方に思わず、クスッと笑ってしまいました。


お陰で、何となく殿が言いたい事が分かりましたので、先に此方から言っておきます。


「御存知なのですね?……のじゃ」


「え?何が?」


殿は呆けた顔をして居られます。読みが外れましたか?

いえ、これは恐らく、罠です。私に隠し事をするなんて、百年早いですよ、殿。


「私とした事が……殿の言い付けを破り、申し訳御座いません」


殿は、本当によくわかっていない顔をしながら焦っておられる……演技をしております。


その程度の演技で騙せるのであれば、世の中の名だたる武将達も見る目がありませんね。


「ちょっと待って、姫ちゃん。ええと、俺は全然よくわからんのだが、何で謝っている?」


これは殿が与えた弁明の機会なのでしょうか?


相変わらず、とても優しいお方ですね。此処は利用するしか手はありませんね。



その後、私は、殿が全く何も知らなかったと、云う事を知り、何故か騙された気がしました。


今晩は、悪い娘にお仕置きだゾと、変な言質を取られ、少し癪に障りましたが、昼夜問わず優しいので身を委ねます。


因みに、先程呼ばれた理由は、今、殿が作っている万里の長城で資材が余りそうであったから、しんでれらじよおか、たあじあまあはあると、云うお城を築くそうで、どちらが良いか意見を述べよと、云うものでありました。


お城なんて興味が無いので、殿の意見に賛成しておきました。京の都に、しんでれらじよおが、建つみたいです。




「……ククククッ……御方様は殿の術中に陥っておられる様ですなぁ」


後日、乳母殿に会いに行こうと、黒田官兵衛と押し問答して居ると、何処からかフラリと現れた、殿が近頃、贔屓にされておる竹中半兵衛と申す者に話し掛けられました。


私には劣りますが、配下の者では、竹中半兵衛も申す者が一番殿の考えをよく理解していると、云う風の噂を小耳に挟んだ事があります故、話を聞いてみても良いかと思いました。


「どういうことじゃ?申せ」


「はっ。人は覗くなと言われると覗きたくなり、駄目だと言われると破りたくなる生き物であります。


殿は、それと、御方様が乳母殿に会いたくなる気持ちの双方を上手く利用し、御方様と一夜を過ごす様に持っていかれました。これは御方様も重々お分かりかと思います。


しかし、御方様は、何故、殿があれ程まで何も知らなかったの如く振舞っておられたのか不思議ではありませんでしたか?」


竹中半兵衛と申す者曰く、殿の行動には二重の策が巡らされておるとの事です。


「うむうむ……確かにそう言われると不思議ではあるのじゃが……殿は本当に何も御存知では無かったと思われるが?」


「いやいや、御方様。よく考えて下され。御方様も御存知の通り、この屋敷には殿の命を受けて忍者衆なる者達が至る所に潜んでおります。彼等の連絡網は目を張るもので、殿は、この日の本のありとあらゆる事を御存知だと言って過言ではありません。それ故に、殿の住まわれているこの屋敷で起こっている出来事など、到底全て御存知の筈です」


なるほど。確かに、この者が申す通りですね。


「であれば、何故、殿は、終始一貫して何も知らなかったと、言い張るのじゃ?」


「それに関して、拙者は、次の様に考えております。


今回、殿は御方様の行動に関して、全て把握されておられました。しかし、それを敢えて何も知らないと押し通す事で、御方様は、忍者衆からの監視を意識しずらくなり、再度、乳母殿に会いに行かれる事になるのです。


先日、後少しで乳母殿に会う事が出来た頃合に殿が御方様を御呼びになられたのも、御方様の乳母殿に会いたいと云う思いが最も強くなる時を選んだからであります。


恐らく、殿は、御方様がまた同じ様な事をされても、御方様が自白される様に誘導されるでしょう。そして、最後まで知らぬと通し、言質を取って一夜を過ごす事になるでしょう。


で、有りますから、乳母殿の部屋に至る通路に立っておられる今の御方様は、もう既に殿の術中に陥っておられる様です」


「な、なんと。殿はそんな事を考えておられたのか」


私の後ろに居た、黒田官兵衛が私の今の心情を見事に代弁しました。成程、竹中半兵衛と云う者は中々鋭いです。


「う、うむ。仕方あるまい。今日は、竹中半兵衛、そなたに免じて退いてやるのじゃ」


殿から、語尾に「のじゃ」を付ける様にと、散々言われた為、変な癖がついてしまった私の台詞も、何故か騙されているのではと、今、思ってしまいました。

これも早速、殿に申し開きをして貰わねばなりませんね。


この日から、黒田官兵衛の悩みは一つ、減ったという。


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