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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【探索生活36日目】



 朝起きると、チェルが完全復活していてパンを焼いていた。

「おはよう」

「おはヨ」

 沼で顔を洗っていると、魚の魔物が水面から飛び上がっているのが見えた。俺の身長くらいのサイズはある。獲って食おうかとも思ったが、肉はまだまだあるので止めた。


朝飯を食べながら午後の発掘の打ち合わせ。

「周辺の魔物を掃除してから発掘しよう」

「へ、へ、ヘリー」

 シルビアがヘリーを見た。二人は俺が寝ている夜に話し合うことが多いので、なにかアイディアでも思いついたのかもしれない。

「言い難いのだが、一応死者の声も聞いてみたが、聞こえなかった。残留思念が少ないのだ。時が経ちすぎているのか、墓地に集まっているのかもしれない」

「そうか……」

 霊の話は自然と顔が歪む。

「もし墓地が見つかったら教えてくれ。俺は別の場所を発掘するから」

「適材適所だネ」

 そのうちに、ジェニファーとリパも起きてきた。


 午前中はジェニファーとリパと一緒に薬草の採取。遠くへ行く必要はないので、ある程度危険がなくなったら帰ってきてチェルの船作りを手伝うことに。

倒した木も二ヵ月ほど経ち、乾燥している。工具が多少錆びていたので錆を落としつつ、木を削っていく。

チェルはアウトリガーをつけた小さい帆船を作るつもりらしい。

「沼で試すけどネ」

 チェルは海を渡ってメイジュ王国に一旦帰ることについては昨日の話し合いで腹をくくったようだ。魔境に戻ってくるかどうかは知らない。魔王が代わって、状況も違うだろう。

「処刑されないようにな」

「そしたら霊になってマキョーに憑りつくから心配するなヨ」

 嫌味を言ったら嫌味で返された。


 木を削る作業は力の入れ方がちょっと難しかった。力を込めればどんどん削っていけるのだが、込めすぎて刃が曲がってしまう。

「マキョーはヤシの樹液で工具を作るコト!」

「はい」

 ヤシの樹液を固めて工具を作り、チェルに指定されたところを彫っていく。自作の工具では力の込め方が難しい。あとでシルビアに作ってもらおう。

 全然削れなかったり、思わず削りすぎてしまったりすることもある。

「あ、やべ」

 本日何度目かの「やべ」発言で、チェルからにらまれる。

「俺ってこんな不器用だったのか……」

「トレントで練習しヨ」

 実はチェルも木を削りすぎてしまうらしく、二人で練習することに。大木をくりぬいていけばいいかと思ったら、そんな簡単じゃなかった。

一人用でいいとは言え、大陸間を渡る船を作らないといけない。海で魔物に襲われることも、波に叩きつけられることもあるので、頑丈に作らないと沈む。何日か航海するだろうから寝るスペースだって必要だ。

「何隻か失敗することを考えて作っていった方がいいな」

「道具があれば作れるってもんじゃないネ」

 とりあえず最近、倒したトレントの死体を沼近くまで運び、船の形にしていく。元が魔物なので容赦なく削っていけるのがいい。

 

 昼前にリパがジェニファーとともに薬草採取から帰ってきて、一言。

「クリフガルーダから密航しちゃダメなんですか?」

 確かに、その方が早い気がする。ただ、敵対しているかもしれない現魔王にバレる可能性も大いにある。俺はチェルを見た。

「最悪それでもいいかもしれけど、船はあったほうがいいんじゃナイ?」

メイジュ王国との交易が始まれば船も必要だが、話し合いだけならやはり密航すればいいらしい。

「まぁ、自力で帰って来られる方法はあったほうがいいかもな」

 チェルが魔境に帰ってくるなら、船を作るのは無駄じゃない。

 とりあえず船を作ってみて、チェルが船でメイジュ王国に向かうつもりで動く。

 自分たちで行けるようになると、魔境の発展にも繋がるはずだ。ただ、なにか引っかかる。


 昼頃、起きてきたヘリーとシルビアにも船作りについて意見をもらう。

「そもそも追放されてきたチェルのことを考えると船を作って行った方がいいのではないか」

 ヘリーは眠そうに答えた。起きたばかりで、考えるのが面倒なようだ。

「そうだなぁ……」

「て、て、手紙は?」

「信書カー。いいカモ」

「クリフガルーダから送って、メイジュ王国の出方を見るってことか? 先手必勝って言ってなかった?」

「いや、先手になりうるのだ。まず、『友好関係を築きたいが、もしメイジュ王国が魔境に対し攻撃してくれば、地形を変える』と伝え、その後、魔境の周辺の国にもそれを認めさせればいい。そう言うことだろ?」

「そ、そ、そう」

 ヘリーの質問に、シルビアは頷いた。

「つまり?」

「こちらの戦闘の正当性を認めさせれば、共同戦線を作り出すことができるってことではないか?」

 ヘリーが教えてくれた。起き抜けなのに、よく頭が働くな。

「メイジュ王国が戦闘をすれば各国から狙われるから無暗に攻撃してこないし、魔王を交渉の場に引っ張り出せるはずだ。それに先代が認めた正統後継者のチェルが書いた信書は無視できない」

 貴族出身者たちはわかっているようだけど、俺もジェニファーもリパもあんまりピンときていない。

「で、結局、船は作るのか?」

「作るヨ。海上で交渉するかもしれないしネ」

「俺たちがやることは変わらない?」

「変わらないヨ。近々、一緒にクリフガルーダに行くくらいカナ」

「あと、近いうちに私を東海岸に連れてってくれ」

 要望が増えてるけど、まぁ、いいか。

「わかった。スケジュールは決めておいてくれ。それじゃあ、今日も発掘に行こう!」


 昼飯の後、発掘現場に向かった。

 現場に近づくにつれ、魔物の鼾が聞こえてくる。どうやらヘリーが作った睡眠薬が効いているらしい。キングアナコンダやグリーンタイガーなどの捕食者や、インプやギザクラブなどカム実を食べた魔物たちがそこら中で寝ていた。

 手分けして魔物にとどめを刺していき、利用できない死体は焼いてしまうことに。発掘作業で出た枯れ木があるので、一緒に風下の沼近くで燃やす。


「よし、もう壁が見えてるから慎重に掘るぞ」

 作業を開始してすぐに建物の床が出てきた。

「コンクリートだネ」

「エルフの国ではめったに見なかったけど、メイジュ王国では使うのか?」

「結構使ってたと思うヨ。火山灰とかと混ぜてたはずだけど、建築はそんなに知らないカラ。エスティニア王国ではよく使うノ?」

「あんまり使わないんじゃないですか。初めて聞きました」

「わ、わ、私も知らない」

 エスティニア王国ではあまり使わない建材だ。

「1000年も保つ建材ってすごいな」

「火山灰とか割れたレンガとか馬の毛とかをセメントに混ぜるんだヨ。水で溶いて固めると硬くなるから土台にはいいんダ」

 セメントは窯作りで知っているが、コンクリートは知らなかった。建築は知らないと言っておきながら、チェルは結構詳しい。

「十分、詳しいぞ。学校で勉強したのか?」

「イヤ……、そういう家系の人たちと仲良くなったからカナ……」

 チェルの手が止まり、空を見上げた。

「どうかしたのか?」

「権謀術数。チェルと仲良くなったのも仕事だったかもしれん」

 チェルの代わりにヘリーが答えた。

「け、け、建築が得意な家系は、城も墓も作れるし、隠し部屋も隠し通路も作れる。あ、あ、あとは権力者を事故で殺せるんだ」

 シルビアも思い当たる節があるらしい。ただ仲良くなっていたと思っていた相手が実は仕事として仲良くしていただけかもしれない。チェルは、それに今気づいてショックを受けているようだ。

「貴族って大変だな」

「マキョーも、もう貴族だからネ!」

「なるべく外に出ないようにしよ。ほら、日が落ちる前にとっとと作業進めるぞ。あ、これは花瓶かな?」

 その後、倒壊した壁跡や壺、花瓶、大きな蝶番の金具などを発掘。さらにひしゃげた鉄格子まで見つけた。

「詰め所かなにかかな?」

「蝶番があるから門かもヨ」

「門に花瓶なんてあるのか?」

「壺にも花瓶にも魔法陣のような模様があるから、用途があったのかもしれん」

「文化が発展していたかもしれませんよ。教会のプリーストの間ではガーデニングが流行っていましたし」

 それぞれ意見を言っていく。

「リパはどう思う?」

「ぼ、僕ですか? えーっと、古代の人が空を飛べたとしたら、門兵も空飛ぶ道具をなにか持っていたんじゃないかというくらいしか……。クリフガルーダでもそうでしたから」

「なるほど。確かにそうだ。門ならなにか武器が必要だしな。道の反対側の丘も掘ろう」

 明日は周辺に武器がないか探して、藪だらけの丘を発掘できるように藪を刈ることに。

 

 帰り際、沼の側ではまだ火がくすぶっていた。危ないので沼の水流に干渉して、水をかけ火を消しておく。

「魔石を回収した方がいいかな?」

 死体になっても動き始めるかもしれないので、一応ヘリーに聞いた。

「いや大丈夫だと思うが……」

「回収しましょう。磨いて売り物にすれば交易品になりますから」

 ジェニファーの一声で、炭になった死体から魔石を掘り返していくことに。爪の先まで真っ黒になった。


 


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