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魔境生活  作者: 花黒子
~長いプロローグ~
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【魔境生活8日目】



 朝靄が沼一帯を覆っている。

 俺は沼で顔を洗い、畑へと向かった。軍の訓練施設に行く前に、作ってあったものだ。


「え? マジかよ。たった2日だぞ」


 畑はすでに、魔境に侵食されていた。雑草が腰ほどの高さまで伸び、スイマーズバードが巣を作っていた。とりあえず、スイマーズバードは殲滅。タマゴも手に入ったので、朝食は目玉焼きにしよう。


 雑草は触れればカミソリのように手が切れる。カミソリ草と名付け、根元から切っていく。多少、腕や脛に切り傷ができたが、あとでジビエディアの小回復する魔石を使って治しておく。


 ひとまず、畑の状態に戻す作業だ。周りに落とし穴を大量に仕掛け、地面から杭が突き出たような罠を作ることにした。塀を作ろうと思ったが、魔境の魔物に、塀なんか作っても意味ないんじゃないかと思う。男一人を軽々吹っ飛ばす魔物に空飛ぶ魔物。塀よりも罠が必要だ。


 木を伐採する。ようやく最近になって、切りやすい木、切りにくい木はなんとなくわかるようになってきた。


 木の樹皮がつるつるしている木は、樹液が飛び散りやすく、切りづらい。未だ魔境であったことはないが、トレントと呼ばれる老樹の魔物からいい木材が手に入るという。


 手頃そうな木には蔦が巻き付いており、その蔦で肌がかぶれることもあった。痒くて仕方がないが、沼で手を冷やしたりしておいた。

 木を適当な長さで切り、ナイフで尖らせていく。尖らせた方を上にして、杭を地面に埋めていった。突撃してくるような魔物はこれで撃退するつもりだ。


 畑に種を蒔く。

 もちろん、失敗することを考えて、少ししか蒔かなかった。魔境では何が起こるかわからない。スイマーズバードの糞や骨もかなり混ざってしまったが、腐葉土とともに土に混ぜ肥料にした。


 太陽が高く上がっている。汗が止まらない。

 朝食と昼食を食べずに作業をしていたため、俺の腹は限界だった。


 家に帰り、ずっと体を動かしていてインナーが汗でびしょ濡れだったので着替える。


 目玉焼きと肉野菜炒めを作る。やはり野菜があると、食生活が豊かになった気がする。

 一人飯なので、量が多くなってしまったが、残すのはもったいないので全部食べた。


 昼寝のあと、畑を見に行くと早くもスイマーズバードがやってきていた。柔らかい土の上で巣を作ろうとしているらしい。


 とりあえず、スイマーズバードを追い払い、オジギ草を仕掛けることにした。オジギ草はトラバサミのような草なので、畑に来た魔物を食べてしまうだろう。


 オジギ草を持ってくる時に、一度噛まれそうになったが、抜け出せるくらいの力はついている。肌に若干痕がつくくらいで、特に傷もついておらず、痕もすぐに消えた。

 身体が徐々に魔境仕様になっていく。


「普通の冒険者って大変だよな。これより強い魔物ばっかり相手にしてるんだから」


 世界にはとんでもない化物がいると聞いたことがある。本物の冒険者は仲間とともに、その化物と戦うんだとか。俺はせいぜい辺鄙な魔境でのんびり暮らすのがお似合い。


「無理しない人生、最高!」


 スイマーズバードの骨を加工して釣り針を作ってみる。沼の畔で作業をしていると、ヘイズタートルが邪魔をしてきた。殴って追い返したり、突撃を躱したりしているうちに、ヘイズタートルが岩に当たってひっくり返った。


 バタバタと暴れるヘイズタートル。長く伸ばした首を、斧で切断した。甲羅以外だと、攻撃が通じるようだ。

 ヘイズタートルの首から濁流のような血が吹き出し、沼に流れていく。

 すぐに血の匂いを感じ取った、肉食の魚が水面をピチャピチャと音を立てて集まってきた。

 水面を落ちていた木片で叩くと、面白いように魚が気絶した。気絶した魚を岸に向けて放り投げていると、波が押し寄せてきた。


 沼の中心の方を見ると巨大な蛇が、こちらに向かって泳いでくる。

 急いで、魚を回収してなるべく離れた木に上った。

 巨大な蛇は、岸辺に上がるとヘイズタートルの頭を丸呑みにした。後にP・Jの手帳から、キングアナコンダと呼ばれる魔物であることがわかった。


 キングアナコンダはヘイズタートルを丸呑みにしようとしたが、どう考えても、大きさ的に無理がある。それでも、30分ほどかけて、キングアナコンダはヘイズタートルの身体を半分ほど飲み込んだ。


 あまりに油断していたので、俺は木から下り、気配を消して近づいた。

 斧で頭をかち割ろうと思ったが、キングアナコンダのウロコに弾かれてしまった。

 俺が攻撃したことで、ようやく俺の存在に気づいたキングアナコンダだが、口にヘイズタートルが入ってるので、動けないでいる。


 それでも睨んでくるキングアナコンダの眼に、畑に仕掛けた杭を打ち込んだ。


 ずっぽりと根元まで入った杭は、キングアナコンダの脳にまで達したようで、しばらく尻尾を振っていたが、やがて力尽きたように動かなくなった。


 目の前には巨大な亀と巨大な蛇の死体。


「さて、どうやって解体しようか」


 ヘイズタートルは甲羅があるし、キングアナコンダも鱗に覆われ刃が通りにくい。

 悩んでいるうちに、日が沼に沈んでいった。



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