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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~

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【探索生活25日目】



「ヒーヒッヒッヒ!」

 チェルの笑い声で起きた。

 俺の身体中には小川から出てきたスライムの群れが張り付いて、プルプルと魔力を吸い上げている。

「コラ、吸うんじゃない」

 スライムの核を無理やり引っ張り出して、一体ずつ処理していく。

「なんつー目覚めだ。リパは?」

「伸びてるヨ。マキョーを助けようとしたんじゃナイ?」

 俺の隣でリパが転がっている。スライムに魔力を吸い取られ、魔力切れを起こしたらしい。とりあえず、スライムから取り出した魔石を手に持たせておいた。

「パン焼けてる?」

「焼けてるヨ」

 丸いパンの穴に干し肉を突っ込んで朝飯にした。

「ヘイズタートルの甲羅は町に持っていけないのかな?」

 昨日のリパの反応を見ると、鞄としてはあまり使われていないようだった。俺も町に住んでいた時はそんな鞄は見たことがない。

「背負子で持てるだけ持って、ちょっとずつ交易して行くのがいいんじゃナイ?」

「じゃ、甲羅は埋めとくか。盗まれるかもしれないし」

「誰も盗まないと思うけどネ。この辺の魔物もかなり狩ったヨ」


 昨日はリパの話を聞いてから、周辺の魔物を狩っていた。植物が襲ってこないだけ、ものすごく楽だった。

しかも魔境と違って魔物の攻撃がわかりやすい。噛みついてくる毒蛇やひっかいてくるワシ、突進してくるイノシシなどが、ゆっくりとしたスピードで向かってくるのだ。

 あまりの緊張感のなさに、ほぼ掴んで対応した。ブラックパンサーと呼ばれるヒョウの魔物でも鼻を掴むと「ピギャ」などと叫びながら地面に転がる。掴んでも死なない魔物だけリパにとどめを刺させてあげた。

「リパはとにかく弱いから、なんでも殺す方法を覚えた方がいいネ」

 チェルが教官となって体の動かし方から魔力の使い方まで教えていたが、リパはまるで人形のように理解はしていなかった。

「リパは記憶の容量が少ないんだヨ」

「でも、言われたことはずっとやってるぞ」

 試しに木の棒を持たせて「素振りをしてみろ」というと2時間くらいぶっ続けでやっていた。そのあと、腕が上がらなくなって回復薬を塗ってやったが。

「それで生き残れるならいいんだケド」

「とりあえず荷物を持たせて、案内してもらおう。力だけでもつくかもしれない」

「ウン、おーい、リパ、そろそろ起きろヨー」

 3人で朝飯の後、木の枝と蔓で背負子を作り、交易品のミツアリの蜜やロッククロコダイルの燻製肉、ワニ革などを縛っていった。

「そんなに積むんですか?」

「ああ、リパにも少し持ってもらうからな」

「は、はい!」

 少しと言いつつ、限界まで持たせてみた。

「無理です! 重すぎて無理! 動けません!」

 3歩ほど歩かせてみたら本当に限界だったらしく、リパが倒れた。チェルが回復魔法で治して「もう一度チャンスをやろう」と言っていたので止めた。

背負子の荷物の量を調節して、再出発。リパの歩調に合わせているので、とても遅い。小川を下流に向かって進む。道まで行けば馬車が通るので乗せてもらえるのだとか。

 クリフガルーダは流通が発達しているらしく、馬車の道が国中に張り巡らされているし飛行船もある。東部では魔族の国とも貿易をしているのだとか。

「ということは魔族もいるのカ?」

 チェルが聞いていた。

「数は少ないですがいますよ」

「変装が意味なかったな」

 チェルは変装を解いていた。

「チェルは魔族の国出身なのに、知らなかったのか?」

「知らないヨ。たぶん、西側の一族が勝手に密貿易してるんだと思ウ」

 魔族の国の西側とクリフガルーダの東部で密貿易か。魔境とも密貿易してくれないかな。

「お話し中すみません、池に出てしまいました!」

 先頭を行くリパが目の前を指さした。

「森に池くらいあるだろう?」

「道にぶつからないって話だヨ。池の周りを回って、支流がないか調べればイイ。なかったら、とりあえず南に行けばいいんダヨ」

 チェルがリパに説明していた。

「はい!」

 リパは池の周りを進み始めた。

「チェルはなんでもよくわかるなぁ」

「マキョーよりはネ」

「ま、チェルが道に迷わないまじないを使ってくれれば、なんとかなるだろうと思ってるからな。俺は」

 俺がそう言うと、チェルは一瞬黙って「ここから南に300歩行ったところに道がアル」と指さした。まじないを使ってなかったらしい。

「はい! 南に300歩ですね! 向かいます!」

 リパは池を無視して、藪の中に突っ込んでいった。

「マキョー、そういうことは早めに言ってくれル?」

「まじないのことか? リパのために使ってないのかと思ってたよ」

「ハァ~」

 人が3人いれば気を遣うよな。チェルは魔法で藪を切り裂き、俺はナイフで切りながら進んだ。

「ひっ!!!」

藪の中からリパが飛び出してきた。

「どうした!?」

「穴です! 蛇の穴があります!」

 顔が青ざめているが、怪我はないようだ。

「噛まれたわけじゃないんだな?」

「ええ、噛まれてはいません!」

 とりあえず、藪を切り開いて現場に行ってみると、落とし穴のようなぽっかり空いた穴の中に無数の黒い蛇が蠢いている。

「呪いに使う蛇だネ。人里が近づいてきた証だヨ」

 チェルはそう言いながら、藪を魔法でスパンと切って先へ進んだ。

「い、いいんですかね?」

 リパが穴を覗いて聞いてきた。

「いいんじゃないか? ほら切った藪の枝葉が穴の中に入ってるから、そのうち蛇たちも出てくるよ。呪いをかけようなんていう奴は碌な人間じゃないからな」

 俺もとっとと先へ進む。

「道だヨ! すごい全部、石畳ダ!」

 興奮したチェルが道の上で飛び跳ねている。確かに、見える範囲はずっと石畳で壊れている個所もない。

「なんでこんなにきれいに舗装されてるんだ?」

「馬車に冒険者たちが乗ってるんですよ。壊れたら土魔法で補修するんです」

 道路のシステムが出来上がっているらしい。流通が発達した国はこうなるのか。

「このまま東に行くと僕は捕まって、また崖から落とされてしまうので、西に行きませんか? すぐに馬車も来ると思いますから」

 リパが言うので、とりあえず西へと向かう。

森から風が吹いてきて、獣の匂いを運んでくる。おそらく、魔物がこちらを窺っているのだ。遠くには畑が見え、その先では放牧されている牛がワシの魔物に狙われている。

なんてのどかな風景だろう。

「魔物があんまり襲ってこないんだな」

「魔物なんていますか!?」

 リパが驚いて、俺の側に寄ってきた。

「お腹すいてないのか、先に獲られる心配がないのかわからないけど、魔境とは大違いダヨ」

 だらだらと歩いていたら、後ろからゴトゴト音を立てながら馬車がやってきた。

「マキョーさん、あれです! 声をかけましょう! すみませーん! 乗せてください!」

 リパが大声で叫ぶと、馬車がゆっくり止まった。幌がついていない荷台には4人ほど冒険者らしき男女が乗っている。皆、顔が小さく目が大きい。鳥人族だろう。

「行商人か?」

 馬車の御者に聞かれた。

「そうです。近くの町まで乗せてもらえませんか?」

「構わんが……」

 金はあったかな。魔境ではほとんど使わないが、貴族になった時に金貨をいくらかもらっている。

「魔石でも構わんぞ」

 懐を探っていると御者が言ってきた。

「これでいいんですか?」

 昨日の夜、襲ってきた魔物から取った魔石だ。クルミサイズで、大した効果はないはずだが。

「いい! それがいい! 頼む、譲ってくれ!」

 あまりに懇願されるので、魔石を渡して荷台に乗り込んだ。先に荷台に乗っていた冒険者たちは訝しげにこちらを見てくる。

「魔石はどこで拾ってきたものだ?」

 冒険者には魔石の出所が気になるらしい。

「森で拾ったんです」

 適当に答えておく。

「森って、南に広がる森か?」

「そうですね」

「行商人なのに、あんな森に入ってよく死ななかったな」

「意外に死なないもんです。やってみるといいですよ」

「我々は森の恐ろしさをよく知っているから、そんな真似はできん。運がよかったとしか言いようがないぞ」

「じゃあ、運がよかったんですね。この先の町で交易品を扱っている店はありますか?」

「交易品か? ああ、魔族の……」

 冒険者の一人がチェルを見て言った。

「交易品なら東の都だろう。西の町は地域の特産品や魔石なんかが多い。あとは飛行訓練場とかな」

「やっぱり鳥人族は空を飛べるんですか?」

「ん? お前さんたちはどこから来たのだ? 飛行船を見てないか? 箒や絨毯に乗って配達している配送業者は?」

「この方たちは船でクリフガルーダまで来たらしくて」

 リパが慌てて言い訳していた。クリフガードには普通、飛行船とかで来るのか。空を飛べるなら魔境にも来てほしいんだけど。

「そうか、西の岸壁には長い階段があると聞いたが、随分体力があるのだな」

 冒険者がそう言うと、チェルが「プフツ」と噴出していた。

「崖では魔物には襲われなかったか?」

「海鳥の魔物が棲みついているらしいが、護衛にはかなりの手練れを連れて行ったのか?」

 他の冒険者たちも興味があるようで聞いてきた。

「こっちは魔族だヨ」

チェルが、ニヤリと笑うと冒険者たちは黙ってしまった。


「見えてきたぞ!」

 しばらく馬車に揺られていたら、目の前に大きな建物が並ぶ街が現れた。どの建物も3階建て以上はあり、石造りでしっかりしている。田園地帯に突然、都会が現れたようだ。空を見れば、箒や絨毯で飛ぶ配達員の姿があり、坂の上には灯台のような細い塔があり、飛行船が行きかっている。

 エスティニア王国の王都よりも、明らかに文明が発展しているように思う。

「すごいな……」

「スゲー……」

 俺もチェルも感嘆の声が漏れてしまう。

「こんな小さい町で驚いてたらクリフガルーダの王都に行くと腰抜かすぞ」

 御者に笑われてしまった。

 町の中心には冒険者の像があり、そこで降ろされた。

「この冒険者は?」

「なにも知らないらしいな。この方こそ、魔境を旅したファレル・ジェイルス様だ。100年前、ある冒険者たちの従士だったらしいが、ファレル様が持ち帰った技術で、クリフガルーダはここまで発展したと言ってもいい」

 像の下には『Pharrell・Jails』と彫られている。

「ここにもP・Jか」

 俺たちは、とりあえず冒険者ギルドで持っていた魔石を換金し宿を取った。



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