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魔境生活  作者: 花黒子
~長いプロローグ~
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【魔境生活7日目】



 早朝。遠くで金属同士がぶつかるような音が聞こえてきた。


 リュックを背負い、音をする方へと向かう。斧を片手に、行く手を阻む枝を払いつつ、枯れ葉が積もる地面を歩く。

 音が鳴っていた場所に近づくにつれ、緊迫感が伝わってきた。

 どうやら、魔物の群れと誰かが交戦中のようだ。しかも人間側の分が悪いようだ。

 

 小高くなっている丘に隠れながら様子を伺う。

 男女混合の兵士たちがワイルドベアの親子に襲われていた。ワイルドベアは子育ての最中だったのだろう。


 兵士たちは魔法を駆使しながらも、爪や分厚い毛に阻まれ、一向に攻撃を当てられないでいた。鎧が重いため動きが遅くなり、次の攻撃が予測できてしまう。鎧を脱げばいいと思うのだが、脱いだところで、動きが早くなるかどうかはわからない。鎧を着て、魔法を放っているというのも、なんだかチグハグな気もする。


 こんな辺鄙な森にいるのだから、近くの訓練施設の兵士たちだろう。

 一番近くに住む、ご近所さんだ。ご近所づきあいとして、助けておくか。

 その場にリュックを置いて、飛び出した。


 急な敵にワイルドベアが驚いているうちに、子の首を斧で斬りつける。盛大な血しぶきが舞う中、親のワイルドベアが雄叫びを上げた。


 以前なら怯むところだが、魔境生活をしている俺にとっては強敵とは思えない。魔境の魔物と違って動きが読みやすいし、植物が横槍を入れてくることもない。


 雄叫びを上げて強くなろうが、気合を入れようがどっちでも構わないが、上げている最中は無防備なので、飛び上がって頭をかち割る。ワイルドベアの雄叫びが悲鳴に代わり、その場に倒れた。


 油断している魔物なら、いくらでも狩れるな、と実感しながら、服についた血の後を確認。そんなに、ついていなくてよかった。


「こんにちは。訓練施設の方ですか? 野菜や小麦粉なんかありませんかね?」

 尻もちをついている兵士たちに話しかけた。


「あ…え?はい。施設に戻れば」

「本当ですか。魔物の肉や魔石と交換して欲しいんですが」

「構いませんけど…そのワイルドベアはどうするんですか?」

 ワイルドベアの死体を指差しながら言う。

「あ、肉は欲しければどうぞ。魔石はもらっておきます」


 俺はワイルドベアの死体から、親子の魔石を1つずつ回収し、自分の荷物を取りに行く。兵士たちはワイルドベアの肩の肉と、手の肉を回収し、あとは地面に埋めるようだ。

 その後、兵士たちが訓練施設へと案内してくれた。


 軍の訓練施設と言っても、様々な施設があるようで、訓練場や闘技場のほか付近には畑や牧場もある。


 畑の横の道を歩いていると兵士の一人が急に立ち止まった。

「隊長! この方が、魔物の肉を売りたいと言っているのですが!」


 兵士は畑で作業をしているおじさんに向かって敬礼をした。

 手ぬぐいで汗を拭きながら、おじさんは俺を見た。隊長が畑仕事をしてるのか。


「やあ、こんにちは」

「こんにちは」

「こんな辺境の地で何をしておられるのかな?」

「この先の魔境に住んでまして、肉が余ったのでよかったら野菜や小麦粉と交換できないかと思ったんですが、いかがですか?」

「魔境に住んでおられるとは、豪気な方だ。冒険者さんですか?」

「ええ、そうです」

 俺は隊長に冒険者カードを見せた。


「大丈夫ですか!? 魔境って森の向こうですよね?」

 冒険者としてあまりに低ランクの俺に、隊長が驚いた。

「はぁ、なんとか生きてますよ」

「そうですか。とりあえず、物を見せてもらいましょう。どうぞ、こちらへ」

 隊長はそう言うと、山小屋のような建物に案内した。


 山小屋は食料や備品の倉庫になっているようで、隊長は兵站を管理する隊の隊長だという。

 リュックから肉や魔石を取り出して見せると、「ほう!なかなかのものですな!」と、隊長は無精髭が生えた顎を撫でた。


 俺からの要求は野菜と小麦粉。それに野菜の種だ。


「しかし、それではあまりにもあなたが損をしている」


 隊長が俺の要求に対し、反論した。

 商売人というより、きっちりしたいという軍人らしい反論だ。


「他に何か欲しいものはありませんか?」

「安物でいいので紙と木炭があれば、助かります」

「そんなものでいいんですか?」

「ええ。ほかは大体足りているので」


 そう言うと、隊長は棚にあった紙と木炭をあるだけ渡してくれた。


「本当にこれだけでいいんですか?」

「ええ、とりあえずは……」

「今後ともどうぞ宜しくお願いします」

 隊長から握手を求められた。圧がすごい。俺は交換した物をリュックにしまう。

「もし、欲しいものがあれば、2週間に一度の定期便で届けさせますので、なんなりと言って下さい」


 隊長の言葉に「性奴隷」という考えが頭に浮かんだが、奴隷を持ったとしても、あの魔境で守れるかどうか、わからない。もう少し強くなってから、考えよう。


「では」

「では、また2週間後にお越しください」

 いつの間にか、隊長と2週間後に再び訓練施設で会う約束をさせられてしまった。

 

 帰りは荷物も軽くなり早く畑に種を蒔きたいので、自然と急いでしまう。途中、昼休憩をはさみ、襲いかかる魔物を倒しながら、進んだ。


 夕方には、魔境の入り口に到着。川を渡る時に、スライムが飛びかかってきた。

 ガシガシと噛んでくるが、飼い犬が「おかえり~」と言っているよう。ギューギュー揉んでやると、川に逃げ戻っていた。


 川岸で野宿にしようかと思ったが、急げば家に帰れるかもしれない。

 スイミン花の花畑を越えて、夜行性のフクロウの魔物が風切り音もなく突撃してきた。大きい顔面が迫ってきた時は焦ったが、空中で真剣白刃取りのように捕まえた。そのまま地面に突き刺して、先を急いだ。


 日が沈むギリギリのところで、洞窟が見えた。


「ただいま~!」

 思わず、叫んでしまう。

 10日かかると思っていた行程が2日で済んでしまった。強くなったかどうかはわからないが、素早くはなったようだ。新人の兵士よりは少し強いくらいかな。


 旅の疲れからか、すぐに眠ってしまった。


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