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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~

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【探索生活24日目】


 水球テントでしっかり睡眠と休憩を取った後、南を見る。夜が明けはじめて、はっきりと白い崖が見えてきた。

「おかしい。やっぱり崖が見えるよな」

「洞窟から北の山脈までは、1日か2日で辿り着けるデショ? 東の海岸もきっと本気で走れば、そのクライ。砂漠もあんまり変わらなかったことじゃナイ?」

「いや、だって、あの巨大なミミズの魔物でも5日かかるんじゃないのか?」

「私たちはあのミミズを無視できるくらいには速かったヨ」

 確かに、あのミミズの魔物は今回の旅で置き去りにしていた。

「じゃあ、鳥人族の国は意外に近いのかな」

「近くはないヨ。ちょっと地図の感覚と、自分たちの移動スピードにズレがあるってダケ」

 チェルがいつになく頼もしい。すでに鳥人族と遭うことを想定して、顔や肌が見えている手首などを包帯で変装し始めた。

「食糧がだいぶ余ってるし、交易品の確認しなくちゃな。それから、頭上注意。あと、なんだ?」

「どうにか鳥人の国に潜入して、魔境について情報収集でショ。ヘリーに言われてル」

「そうだったな。どうやって潜入する? 行商人の真似でもすればいいか?」

「臨機応変ニ。ここから先は歩いたほうがいいカモ。どこから見られてるかわからないカラ、ごく普通にネ」

「チェルは詳しいな。どこかに潜入したことがあるのか?」

「昔は貴族だってことを隠して、よく町の少年たちと遊んでたカラ」

 とりあえず、白い崖まで俺が行商人に変装してヘイズタートルの甲羅を牽き、チェルは奴隷として甲羅を押す。

 崖に近づくにつれ、砂の中を泳ぐサメの魔物やハゲタカの魔物が襲ってきたが、チェルが魔法で焼いて砂の中に埋めていた。

「器用だな」

「火魔法と土魔法だから、そんな難しくないヨ」

 やってみろと言われてやってみたが、俺の場合は魔力を込めて殴ったら手品みたいに消えてしまった。

「マキョーは人を殺しても、死体がなくなるから捕まらないナ」

 チェルが真顔で言っていた。

「砂漠の南側にいる魔物は魔力が少ないんだよ、きっと。いや、絶対そうに違いない」

 洞窟の周りにいる魔物はこんなに弱くない。

崖付近には骨も多いので、魔境の魔物にとっては狩場になっているのだろう。弱いものは肉になり、強いものが食べる。

「いつもの魔境だ」

「でも、これ鳥人族じゃナイ?」

 チェルは砂に半分埋まった人の頭蓋骨をわざわざ拾って、俺に見せてきた。

「崖の上から落とされたってこと?」

 俺がそう言った瞬間、空から叫び声が聞こえてきた。


「アーーーーー!!!」


 鳥人族と思われる青年が腕を縛られ、落ちてくる。

 咄嗟に横から蹴りを入れて、衝撃を和らげてやった。

「トドメを刺したノ?」

「いや、助けたんだよ。見てたろ?」

 青年は砂丘の中に埋まって、動かない。

「どうだカ」

「魔力も使ってないし、原型は留めてるじゃないか!」

「じゃあ、首の骨が折れているか見てみようヨ」

 青年の脚を持って引っ張り上げると、辛うじて息はあるようだった。

「チェル、治してやってくれ」

「治療費ふんだくってやロウ」

 チェルは回復魔法で青年を治療してやった。俺は次の犠牲者がいないか崖の上を見ながら警戒していたが、誰も落ちてこない。崖から人が落ちてくるのはレアケースのようだ。


「はっ!」

 腕を縛られた青年が起き上がり、辺りを見回した。

「魔境へようこそ」

 行商人の変装をしているのに、領主らしい挨拶をしてしまった。

「治療費と不法侵入で、金貨800枚ネ」

 奴隷に変装しているチェルは脅していた。

「待て待て、怯えているじゃないか。青年、縛られているようだが、なにかあったか?」

「いや、あの……え!? どこですか? ここは?」

 言葉は通じるらしい。

「ここはエスティニア王国の辺境にある魔境の砂漠だ」

 青年は目の前の崖を見上げて、ようやく状況を把握したようだ。

「落ちたんですよね? なんで僕は生きてるんですか?」

「蹴った」

「治しタ」

 簡単に説明した。

「はぁ……」

 青年はあまりピンときていない顔をしている。

「まぁ、無理に納得しろよ」

「考えるだけ無駄だヨ。残念だったナ」

 青年は怯えながら深く頷いた。

「さて、青年。この崖の上に鳥人族の国があるのか?」

「はい、鳥人族の国・クリフガルーダがあります。その……」

 青年がなにか続けようとしたが、遮って質問をする。

「どこか密入国できそうな場所はないかな?」

「密入国ですか? この崖を登るつもりならやめておいた方がいいと思いますよ。ハゲタカの魔物が狙っていますから」

「崖も魔物も問題ない。人知れず、クリフガルーダに入れる場所はあるのか?」

「え~、いや、そりゃあ、ありますけど……」

「そうか! 案内してくれ」

 青年を持ち上げて、立ち上がらせた。

「え!? いや、今ですか?」

「他に予定があるのか?」

「ないです」

「じゃあ、案内してくれ」

「僕が落とされた場所から、西に向かえば森に行くはずなので、そこから上がれば国に入れると思います」

 青年は東に向かってよろよろと力なく歩き始めた。

「そっちは東だ。西は逆だぞ」

「すみません」

 青年は方向を変えて、再び歩き始めた。

「青年、歩くスピードが遅いようだが、まだ怪我をしているのか?」

「いえ、大丈夫です。走ります!」

 走り始めた青年だったが、何度も転ぶ。

「わざとか?」

「いえ、そんな! 腕を縛られているので、走りにくいだけです!」

 チェルが縛っている縄を焼き切ってやると、青年は「アツいっ!」となかなかいいリアクションをしていた。

「くそっ!」

 悪態をついて走り始めた青年だったが、走るスピードはあまり変わらない。呼吸も荒いし、汗も噴出しているところを見ると全力疾走のようだ。

「マキョー、もう一回蹴ってみたほうが速いんじゃナイ?」

 だらだら追いかけながら、チェルが聞いてくる。

「ん~、まぁ、頑張ってくれてるんだから少し様子を見よう。時間はたっぷりある。それよりも、よく見ればあの青年は縞々の服を着ているな」

「おそらく、囚人だっただろうネ。牢屋で食わせられなくなったから、砂漠に落としたんじゃないカナ?」

「なるほど。青年、君は国から追放されたのか?」

 並走して聞いてみた。

「は、はい! ハァハァハァ!」

「魔境向きだネ」

 チェルは笑っている。向いてほしくはない。

「き、聞いてもよろしいでしょうか!?」

「なんだ?」

「その、持っているその大きな甲羅はいったいなんですか?」

「鞄だ。交易品も入っている」

 青年はそれ以上、なにも聞かなかった。

 その後、昼近くまで走っていたが、青年の体力が限界に来たのか、突然倒れた。

「青年、ここから登ればいいのか? なぁ?」

 青年に聞いてみたところ、大きく頷いた。

「よし、じゃあ登るか」

「どうやっテ?」

「これくらいの壁なら走れるだろう。チェルは青年を持ってやってくれ」

「エ~!」

「仕方ない。青年、少し空で待機しててくれ」

 青年の返事も聞かず、思いっきり空に向かってぶん投げた。

 俺はヘイズタートルの甲羅を持って崖を駆け上がる。鎖でもない崖なら、登るのは簡単。チェルも難なくついてきている。

 登りきったところに、森があった。森の木々は魔境の植物に似ているが、襲ってくる気配はない。


「アーーーー!!」


 ちょうどよく青年が落ちてきたので、キャッチ。穴という穴から汁を漏らしていたので、近くの小川に放り込んで洗濯してやった。

 そこで昼休憩を取る。

「僕の名前はリパです! よろしくお願いします!」

 昼飯の干し肉を食べていたら、青年が突然自己紹介をしてきた。

「藪から棒にどうした?」

「私はチェル。こっちはマキョー。干し肉が欲しければ、勝手に焼いて食べていいヨ」

「はい! チェル姉さん、ありがとうございます!」

 リパはそう言うと、ヘイズタートルの甲羅から干し肉と取り出して、食べていた。

「なんだ、腹が減ってただけか」

「私たちは辺境からやって来た行商人で、今から町に交易しに行きたいノ。それで通してくれル?」

「はい、わかりました! 僕は無職です! お供します!」

 無職の仲間ができた。

「頼りねぇな」

 リパは体の所々に黒い羽が生えた鳥人族で、特別何かの能力があるわけではないという。鳥人族だからと言って空を飛べるわけでもなく、魔法も使えなければ知識もない。しいて言えば、運が悪いくらいだとか。

「最悪だな」

「はい、育った孤児院は潰れましたし、奉公に行った質屋は全焼しました。倒産した酒屋の借金を背負わされたり、飛行船の清掃をしていたら落とされたり、散々な目に遭いました。普通の仕事ではどうにもならないので山賊に加入すると疫病が流行り壊滅。投獄された牢屋の壁が老朽化で崩れ、生き埋めになりかけました。あまりに不運を呼ぶため崖から追放されたのですが……」

「落ちたところに俺たちがいたと。それだけあって、死んでないんだから運がいいんじゃないか?」

「……はい!」

 リパは目に涙を溜めながら、干し肉を頬張っていた。

「パン食うカ?」

「はい、いただきます!」

 号泣しながらリパはチェルが作ったパンを食べていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 味があるキャラだなぁ 運いいんじゃね?って言われて嬉しかったんやろな
[一言] この二人に出会ったのが運の尽き
[気になる点] 未遂?とはいえ、賊を仲間にして大丈夫? いちおう領主だけども
感想一覧
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