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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【探索生活20日目】


 寒い。

 砂漠の朝に震えるが、空のグラデーションがきれいだ。森が近く、風も弱い。

 洞窟を出禁となったため、アイスウィーズルの毛皮を持って一晩砂漠で野宿してみたのだ。周りには枝がないので、火もおこせない。防寒具はアイスウィーズルの毛皮だけ。革の鎧も寝るときは外す。

 周りには敵も栄養になりそうな魔物もいない。無限に広がる砂だけ。

「状況を確認するだけで、喉が渇く。パン食いたいな」

 毛皮の砂を払い、背負子に縛り付ける。とっとと着替えて、北に見えている森へ走った。

 もちろん、砂漠の旅には水袋は持っていくが、水分の取り方も考えないといけない。取りすぎると汗が出て疲れるし、取らないと脱水症状になって倒れる。一度に取る最適な量もきっと決まっているはずだ。

 自分の水分量を考えながら、森の中に入った。

動いている魔物、植物の葉、全てに水分がある。特に夜の間、砂漠に侵食する植物は乾燥にも強いはずだ。

東に行くと種類も違うので、時間をかけて観察し、採取していく。棘のある植物が多い。森が侵食している場所には特定の法則があるのか、白い砂地は植物が嫌うようだ。地面が固く、歩きやすい。舐めてみると少しだけ塩辛かったので、塩分が多いのだろう。

 朝日が高くなるにつれて、森が引いていく。俺も取り残されないように、森の奥へ向かった。

 水袋は持っているが、自然と水場を探してしまう。朝だからか魔物たちの鳴き声も聞こえてきた。


 キョエキョエ!

 グゥアグゥア!


そっと近づいて覗いてみると、家ほどもあるビーバーとマガモがわずかな水場を奪い合っている。

 魔境ではいつもの光景なので放置。近くに大きな水場がありそうなので耳を澄ませて、進んでいくと、だんだん地面がぬかるんできた。

「湿地帯か」

 おそらくここは俺たちの住処である洞窟から南東に位置する場所だ。いつも塩を取りに行く海岸の南側だろう。

「初めてきたな」

 魔境にはまだまだ立ち入っていない場所が多い。俺の背よりも高いガマのイネなどが多く茂り、行く手を阻んでいる。魔物も多く、ずっとドシーンという音が断続的に聞こえてくる。

 周囲には草ばかりで樹木がなく、音の正体はわからなかった。

 そんな中、見慣れたモノを発見。

「甲羅だ!」

 クリスマスアイランドクラブの甲羅が落ちていた。この湿地でも捕食されたらしい。俺たちが狩った時よりも大きくなっていて、甲羅は牛ほどのサイズもある。それがバリバリに食べられているのだから、この湿地も油断ならない。

 決して自分の領地内で迷ったわけではないが、甲羅を辿っていけば洞窟に帰れることがわかった。

「まぁ、出禁とは言え、心配はしてるだろうからな」

 そう言いながら、足元を確認せずに踏み出し、青い色の花に食われた。すぐに花弁を切って脱出したが、靴が溶け始めている。溶解系の毒はなかなか落ちないので、すぐに靴を捨て足には布を巻いた。

 油断は禁物だ。

「一人だと不要なことばかり考えすぎてしまう」

 ひとまず、この湿地帯から出てヤシの木を探すことに。目の前の草をかき分けていくと、必ずカニの甲羅や足が落ちているので迷うことなく、湿地帯を抜け出し、川にたどり着いた。

 川辺にはヤシの木が生えていて、ナイフで葉を切り、樹液で足をコーティング。しばらく石に腰かけて休憩していると樹液が固まり、俺の足ぴったりの靴ができた。

 川辺はずっとカニの臭いが充満していて、小さな虫の魔物が集まっている。

 ブチブチと踏んで進まないといけないので、もう片方もヤシの樹液でできた長靴を作った。

「砂漠でも靴のスペアもいるよなぁ」

 靴がなくなると、凍傷になるか火傷するかのどちらかで、かなりの怪我をする。靴のスペアは必需品なので、シルビアに作ってもらわなくては。

 両足ヤシ樹液の長靴を履いて、川を進む。途中、グリーンタイガーと大オニヤスデという魔物が戦っていたが、両方流血していたので、どちらにせよ助からないだろう。さらに、ゴキブリと飛蝗の魔物が食い合っている現場も目撃したが、これも魔境らしいので放っておいた。

 改めて、魔境において、生きることとは戦いだ。

 

「砂漠はなんにもないし、森の中は魔物と植物が溢れすぎてるし、ちょうどいい場所はねぇのか!」

 川辺を進み始めて、ようやくロッククロコダイルを見つけたときは帰ってきたと安心した。別に方向が分からなくなったとか、迷ったとかそう言うことでは決してない。

「お前たちの肉はすごく美味しいし、革でコートもできるし、最高だぜ!」

 ロッククロコダイルに近づくと、天敵だと思われているのか、すぐに逃げられてしまった。

 そこからは見知った道なので、問題もなく沼まで一直線で向かった。


 ザバ~ンッ!


 沼に飛び込んで、全身を水に浸した。

「めっちゃ水分。水分、最高!」

 ついでにアイスウィーズルの毛皮も洗った。


「あ、おかえりなさい」

 顔を白く塗ったジェニファーが迎えてくれた。白いのはおそらく回復薬だろう。嫁入り前に顔を怪我したのか。

「どうした? 一晩でなにがあったんだ?」

「いや、良い匂いのする花があったんで顔を近づけたら、ビシャッて液体をかけられたんですよ!」

「あ、あ、朝は真っ赤に腫れていた。プククク……」

 シルビアが笑いをかみ殺して教えてくれた。

「そうか。あんまり体張るなよ」

「マキョーさんこそ、靴はどうしたんですか?」

「ああ、俺も湿地帯で花に食われて溶けた。ヤシの樹液で代用してるけど、シルビア、靴のスペアを何足か作っておいてくれるか」

「わ、わ、わかった」

「で、あのチェルとヘリーの魔法使いコンビはまだ怒ってるのか?」

 俺は昼飯のパンを探しながら聞いた。

「怒ってはいないですけど、また篭ってますよ」

「と、と、時々、『乾杯』って聞こえてるから、うまくはいってるみたい」

「そうか。あのさぁ、パンない?」

「あ、パンは今ないです。食べちゃったので、夕飯を待ってください」

 ジェニファーが首を振って答えた。

「なんだよ。パンないのか。毎朝食べてたから、どうも物足りないんだよ」

 俺は足を焚火に近づけ、ヤシの樹液を溶かした。

「シルビア、サンダルかなにかない?」

「い、い、いま持ってくる。お、お、男のは大きいから」

 シルビアが革製のサンダルを持ってきてくれた。

「ありがとう。朝から何も食べてないんだ。腹減ったから、何か獲ってくる」

「カニならまだありますけど」

「いや、ちょっと飽きてきたからな。欲しいものある?」

「いや、ないです。朝から何も食べてないって、砂漠からここまでの間、何をやってたんですか?」

 白顔のジェニファーが聞いてきた。

「ちょっと寄り道してたんだよ。別に迷ったわけじゃない」

「え? 迷ったんですか? 自分の領地なんですからしっかりしてくださいよ!」

「白い顔の奴に言われると腹立つな。シルビアは欲しいものないか?」

「け、け、毛の短い魔物の皮」

「わかった。あったら狩ってくる」

 俺はサンダルに革の鎧で、ふらっと沼の東側へ向かった。

「うまそうなのがいいよなぁ」

 インプやトレントはすぐに見つけられるが、美味しそうな魔物はいない。

「ジビエディアなんかがいると最高なんだけど……」

 独り言を大きな声で喋っていたら、20歩以上先からワイルドボアが突進してきた。俺の身長よりも高いので、近くの枝に飛び乗って躱す。


 フガフガフガ……。


 くるりと振り返って、俺がいる木の幹に体当たりしてきた。俺はそのまま落下しながら、ワイルドボアの首めがけてナイフを突き立てる。ちゃんと魔力も込めたので、一撃で仕留められた。

 ワイルドボアの死体を沼に持っていって血抜き。蔓で手足を縛り、担いで洞窟へ戻ったら、誰もいなくなっていた。

 どこかに行ったのかと探したら、ジェニファーとシルビアが、チェルとヘリーの頭をそれぞれ持って、沼に沈めている。

「おいおい! いくらむかついたからって、殺すなよ!」

 俺が止めに入ったが、どうやらジェニファーとシルビアは助けようとしているらしい。

「きゅ、きゅ、急性アルコール中毒」

「飲み過ぎなんですよ。2人とも!」

「うぅ……苦しいヨ~!」

「私はもうダメのようだな」

 チェルとヘリーはひっくり返ってしまった。

「前に交換した酒樽を全部飲んだのか?」

「あんなお酒もうとっくにあるわけないじゃないですか! ヘリーさんがミツアリの蜜で作ってたんです」

「密造酒作って酔いつぶれてるのか。言い訳できないな。放っておいて、ワイルドボアを解体しよう」

 チェルとヘリーも、今回洞窟を汚物まみれにしたということで出禁にした。こうやってどんどんルールができていく。人の大切なものを壊したり、共同スペースを汚したりしたら、洞窟を出禁になるということが決まった。

「残っているのは、ジェニファーとシルビアだな。余計なことをするなよ」

「しませんよ」

「せ、せ、生活スペースが広くなった」

 5人中3人が野宿となった。

砂漠踏破への道のりは長そうだ。


 


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