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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【探索生活19日目】



「カニみそは美味い」

 シルビアがすらすらと言えるようになった初めての言葉である。

「真実だな」

 チェルもパンを焼かずにカニを焼いている。食べごたえもあるので腐らせるわけにもいかない。すぐに燻製や塩漬けなど、あらゆる手段で保存できるか試していく。

 ジェニファーは無言で食べ続けている。そのうちカニ語を話し始めるんじゃないか。


 そんな中、ヘリーが冷凍壺というものを開発。氷魔法を使うイタチの魔物、アイスウィーズルの魔石を壺の中に入れてカニの身を保存するという。

「それはどんなものでも保存できるのではないか?」

「砂漠に持っていくなら、木の板に冷凍の魔法陣を描いて壺の中に入れるといい。適当な魔石と一緒に入れておけば同じだ」

 ヘリーに魔法陣を教えてもらって、さっそくナイフで彫っていく。

「あ、ヘリー、壁の魔法陣も教えてくれ」

「昨日、言ってたな。おそらく私が考えている魔法の壁とは種類が違うようだから、マキョーの壁を一度見せてくれ」

「ここだとカニが汚れるから、沼の方に行こう」

「魔法の壁なのではないか? 汚れる……とは?」

 いぶかしげに見てくるヘリーを沼地まで引っ張って、俺なりに水の壁を作って見せた。


 ボシュッ!


 水が天高く噴き上がった。水の流れも平たいし自分としてはうまくいった方だ。

「ん? これが壁か?」

「そうだ。これを砂地でやれば砂の壁が出来上がるだろ?」

「これはただの攻撃ではないか?」

「いやどう見ても壁だろう」

「しかし、下にいた魚は舞い上がっているではないか!?」

「そうなっちゃうんだから仕方ないだろ」

「……ちょ、ちょっと待て! これはいつまで続くのだ?」

 ヘリーは困惑しながら、噴き上がる水を見た。

「それもちょっとよくわからない。できるだけ長いほうがいいんだけど」

「私はエルフの国であらゆる魔法を研究してきたつもりだ。これは……なんだ?」

 ヘリーは明らかに憤慨している。

「いや、だから俺なりの壁魔法だよ。え? なに? これじゃダメなの?」

「ふぅ、ふぅ……、やはり私は魔法に呪われる運命なのか」

 ぽつりとつぶやいてヘリーは洞窟へ戻っていった。

「あれ? ちょっと! 魔法陣は?」

「すまんが、チェルと話し合うから、マキョーはカニの処理をしておいてくれ」

 その後、ヘリーはチェルを洞窟の中に引っ張って行って篭りっぱなし。


 カニを食べ過ぎたジェニファーの口周りと手が赤く腫れていた。

「マキョーさん、痒いんですけど」

「食い過ぎだ。回復薬でも塗っておけば?」

「塗りました。痒いです」

 魔境産の回復薬でも痒み止めにはならなかったらしい。

「か、か、カニの逆襲」

 カニの甲羅を持ったシルビアがジェニファーを見て、去っていった。

 あまりにも痒いというので、水瓶を氷魔法で凍らせて冷やすよう言っておいた。

「なんでも食べ過ぎや飲み過ぎは良くないな」

「ふぁーい」

 ジェニファーが最高に情けない声を出していた。


 俺は冷凍の魔法陣を木に彫る続き。しかし、魔法陣を彫るのは難しく、ちょっとでも間違うと最初からやり直しだ。

 何度かやり直したところで、気が付いた。

「これはアイスウィーズルを狩りに行った方がいいかもしれないな。夜用の毛皮も欲しいし」

 ちょうどシルビアがカニの甲羅で作った兜を見せに来た。

「つ、つ、作ってみたんだ。ど、ど、どうかな?」

「耐久性があればいいんじゃないか?」

 デザインはどうかと思うが、金槌で殴っても割れなかった。

「い、い、痛い! し、し、失敗か!」

「緩衝材挟めばいいんじゃないか? なぁ、毛皮とかさ。ちょうどアイスウィーズルを狩りに行こうと思ってんだけど、一緒に行かないか?」

「い、い、行く!」

 俺とシルビアは、昼飯とロープなどを持ってすぐに出発した。


 アイスウィーズルは北の森にいたはずだ。

 襲い掛かってくるトレントを粉砕しつつ、北上。「ギョェエエエエ!!」と鳴くインプを無視しながら進む。

 針葉樹が生えてきたので、ここからは火気厳禁だ。

「前に、焚火をしてたら、火事になったことがある。寒くても火は使わないように」

「ラ、ラ、ラジャー」

 バカでかいヘラジカの魔物がのっそり歩いているが、アイスウィーズルは見つからない。小川では赤毛のワイルドベアが、アライグマの魔物に体を洗ってもらっていた。

「変な共生関係だなぁ」

 虫の魔物も多く、大蛇のようなムカデやイモムシの魔物が地面を這いずり回っている。丸々と太ったリスの魔物は移動に足を使うのが面倒なのか、坂を転がってきた。


 グゥアオウッ!


 坂の上から太い鳴き声が聞こえてきた。

 駆け上がってみると、先ほど見たものより一回り大きなワイルドベアがアイスウィーズルの群れと戦っているところ。

「なんか試したい武器ある?」

「あ、あ、ある!」

 シルビアはカニの甲羅を組み合わせて作ったハンマーを渡してきた。

「よし、じゃ行くぞ!」

 こちらも試しに、ワイルドベアの足元から土の壁を作ってみた。


 ボシュ!


 豪快な音とともにワイルドベアが空に舞い上がり、周囲にいたアイスウィーズルの群れの動きが止まった。隙だらけなので、頸椎と頭蓋骨めがけてハンマーを振り下ろしていくだけ。

 氷魔法での反撃もないまま、アイスウィーズルの死体が転がっていった。

 持ちにくいので、魔石を取り出し、毛皮を剥いで持って帰ることに。

 木に吊るして解体していると、雑食のアライグマの魔物たちが列を作って並び始めた。

「肉屋じゃないんだぞ」

 そう言いながらも肉を切り分けて与えると、嬉しそうに川へ洗いに向かった。どんどん魔物が集まってきてしまい、ギンイロオオカミという森の主みたいに大きなオオカミの魔物まで現れてしまった。肉も骨もバリバリと残さず食べていく。

血だまりにはキュウケツチョウという、ボロボロに見える羽を持ったチョウの魔物も飛んできた。

「北部の森もいずれ調査しに来ないとな」

 昼飯をしっかり食べ休憩をとってから、魔石と毛皮をロープで縛り洞窟へと戻る。


 相変わらず、ヘリーとチェルは洞窟の中に篭り切り。暇なジェニファーは「カニの漬物」という新しい料理を考えていたらしい。

「私は料理の天才かもしれません」

 そう豪語するだけあって、辛みの強いカニの漬物はなかなか美味しかった。

 俺とシルビアは冷凍壺を作って、茹でたカニの身を保存していく。そんなに時間のかかる作業じゃないが、ジェニファーが率先して手伝ってくれた。

 さらに、とってきたアイスウィーズルの皮を鞣し、木枠に干していく。

「氷魔法なんか使う魔物だから、耐寒性は高いはずだ。これで砂漠の夜も怖くないぞ」

「なにを呑気なことを言ってるんダカ」

 チェルが洞窟から出てきて、俺に呆れた。

「砂漠の夜はアホみたいに寒いって経験しただろ?」

「チェルが言いたいのはそう言うことではない。どうやら私たちは歴史的な発見をしてしまったかもしれないのだ」

 チェルに続いてヘリーが出てきた。

「ふ~ん、じゃ、砂の壁を作る魔法陣はできたんだね」

「できたとかできないとかじゃナイ」

「砂の壁とかいう次元の話ではなくなってしまったのだ」

 なにやら二人は勝ち誇っているようだが、俺としては砂嵐さえ防げればいいんだけどな。

「わかった。とりあえず、説明してくれ」

「つまりだな……」

 ヘリーとチェルが言うには、本来ある火や水といった系統別の魔法体系が間違っていることに気が付いたらしい。そもそも、俺の魔法自体がそういう系統に当てはまらないのだとか。

「砂でも水でも変わらない。ダロ?」

「まぁ、変わらないかな」

 俺がそう言うと、ヘリーとチェルは手を広げて大きく溜め息を吐いた。すごくバカにされているのはわかるが、どうやって反論したらいいのかわからない。

「大樹のように枝分かれしていく従来の魔法体系では、マキョーの魔法は理解できないのだ。しかも、形作ろうという努力もしないから、魔法が固定しない」

「普通の魔法は火の槍とかを作るんだけど、マキョーは火を噴き上げたりするダケ。行き当たりばったりの魔法ということネ」

 効果が変わらなければどちらでもいいと思うのだが、ここで口を挟むと長くなりそうなのでやめた。

「で、日頃のマキョーの言動から、『流れ』とか『力の干渉』というキーワードを発見したわけだ。マキョーの魔法はほぼこれによって構成されている」

「うん、それで?」

「つまり、こちらの大陸的に言うと、マキョーは魔力を使っているが、魔法は使っていないということだ」

「え!? そうなの!?」

「魔族的には十分、大魔法使いだけどネ」

「へぇ~、そうか。俺は魔法使えないんだなぁ」

「それでは困る! 私が研究してきた魔法陣は系統別で違うし、枠組みの中で作られているものなのに、枠組みがなかったら魔法陣は作れないのだ!」

 ようやく二人がずっと篭っていた理由がわかった。

「とはいえ、私たちは竜巻を起こす魔法陣や滝を生み出す魔法陣から流れに関する部分だけを抽出していった。エルフの知恵と魔族の発想が融合し、できたのがこれだ」

 そう言ってヘリーは、物差しのような木の板を俺の目の前に差し出した。細かい彫刻が施されており、なんとなく雷紋が描かれたダンジョンの鍵を思い出した。

「さあ、チェル。やってみせてくれ」

 ヘリーからチェルが受け取って魔力を込めた。

フワッ。


物差しから風が出てきたが、それだけ。

「と、今日はここまでダ! まだ、実践では使えないが大きな一歩だヨ!」

 研究成果はここまでらしい。

「俺も知らない魔法の話だった」

 俺も試しに物差しを持たせてもらったら、干していたアイスウィーズルの皮が吹っ飛んでいってしまった。物差しもその勢いで変形してしまっている。

ヘリーは顔を真っ赤にしながら、鼻息を荒くしていた。まずいな。

「引き続き、研究の方を頼む。俺は明日から毛皮を持って、砂漠でキャンプしてみるから」

「なるべく、帰ってこなくていいゾ!」

 しばらく俺は洞窟出禁となった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 『「これはただの攻撃ではないか?」 「いやどう見ても壁だろう」 「しかし、下にいた魚は舞い上がっているではないか!?」 「そうなっちゃうんだから仕方ないだろ」』 ここで一旦下までスクロ…
[良い点] アライグマ(の魔物)の行列がかわいらしい。でも、いづれは毛皮にされるのかな。 [一言] 更新ありがとうございます。
[一言] 領主(マキョー)が自宅(洞窟)を出禁された……何とも世知辛い話しだ(色々と違うw)
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