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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【探索生活2日目】



 翌日から、窯が乾燥してひび割れていないか見つつ、木炭を作っていく作業を始める。

「針葉樹なら北だな」

 ヤシの樹液で作った斧とキングアナコンダのサーベルを持って、木を切りに北へと向かう準備を始める。

ヘリーとシルビアは前に埋めた魔物の死体を見に行くと入口付近へ。護衛としてチェルもついて行った。

 ジェニファーが残ったので、荷物持ちとして誘った。

「そういえば、タンカーだったのか?」

「はい、以前は回復魔法も使えるタンカーでした。打たれ強さなら、少しはマキョーさんの役に立てるかと」

 ジェニファーはそう言いながら、木の盾を装備していた。

 ゆっくりと北へ向けて走り始めると、やはりジェニファーは俺のスピードについてこれなかった。ただ、襲いかかってくる魔物を、ちゃんと盾で受け流しながら、こちらに向かってくる。

「すみません、遅れました」

「いや、いいよ。少し歩調合わせるか」

 今度は俺がジェニファーの後をついていく。

 見られているからかジェニファーの動きが固い。具体的に言うと、出会った魔物全てに防御態勢を取ってしまうようだ。

「ジェニファー、なるべく戦わないで行こうぜ。別に襲ってこない魔物とまで戦う必要はないよ」

「そうなんですけど、どうしても血が騒ぐっていうか。守らないといけない使命感みたいな……」

 ジェニファーって意外にバトルジャンキーだったのか。

「狩っても食えないし、荷物になるだけだ」

「あ、そうですよね……」

「急ごう。昼には炭の窯を作っておきたいし」

「はい」

 この前はなんだか変な雰囲気だったが、今はかなり落ち着いている。従順過ぎて気持ち悪いくらいだ。

 襲ってくる魔物は投げ飛ばすことにした。いちいち戦っていられないし、遠くへ放り投げれば、その後こちらに近づいてくることもない。

 森が少し肌寒くなってきた頃、まっすぐと空に伸びる針葉樹が生えた森にたどり着く。ちょっとした丘くらいあるバカでかいヘラジカの魔物が眠っていたが、それ以外は何の変哲もない魔境の森。植物も騒がしい。

「マキョーさん。これ、どうするんですか?」

「え? なにが?」

「マツボックリが弾け飛んできてるじゃないですか?」

 ジェニファーが言うようにマツボックリが地面に落ちて弾け飛んでいる。

「魔境では珍しくもないだろ?」

「いや、痛くないですか?」

「怪我したら、ヘリーに言って回復薬でももらうといい。それよりとっとと切っちゃおうぜ」

「ちょっと待ってください! あのイタチの魔物、氷魔法を使ってませんか!? ワイルドベアと同じくらい大きいし! あ、向こうからなにか黒い塊が!」

「いるよ。そういうのも」

「でも! ちょっとあれは……なんですか!? ちょっと! マキョーさん!」

 あんまりしつこく言うので、見てみると樹木の魔物であるトレントがカミキリムシの魔物の群れに襲われていた。

「魔境だからなぁ。切ってる木があのカミキリムシの魔物に襲われると面倒だから、焚き火でもするか」

 俺は木を集めて焚き火を始める。

飛んでくるマツボックリに火がつき、一瞬にして辺り一面が火事になってしまった。

「やべー!!」

「マキョーさん、なにをやってるんですか!?」

 とりあえず、氷魔法を使うイタチの魔物を捕まえて、振り回す。危険を察知した氷魔法を使うイタチの魔物は周囲に氷魔法を吐き出した。

周囲が雪景色に変わり、一先ず鎮火したものの、危うく魔境全体が山火事になるところだった。

「危なかった! まだ消してない火がないかちょっと探そう」

 燃えていた地面を踏みながら指示を出した。

「気をつけてくださいよ」

 氷魔法を使うイタチの魔物はアイスウィーズルと名付けて、持ってきていた干し肉を与えた。目を回して今は食べたくはないようだが、そのうち回復するだろう。

 俺たちが騒いでいる間に、トレントはカミキリムシの魔物に食い殺されていた。空にはいつの間にかシジュウカラの魔物が集まっていて、カミキリムシの魔物を狙っている。

「魔境の森がカミキリムシの魔物に食べられないのは、こういうことだよな」

 魔境はいろんな魔物や植物によって、環境が保たれているんだなぁ。

「あんまり余計なことをしないほうがいいんだな。必要な分だけ、木を切ってとっとと帰ろう」

「そうですね。長くいると、マキョーさんがなにかしでかしそうですしね」

 俺もそう思う。

 なるべく運びやすそうな細い木を2本切り、枝払いをして、運びやすいように取手代わりの穴を開ける。

「よし、行こう」

 アイスウィーズルを思いっきり撫でてから、2人で丸太を持って帰る。ジェニファーもちゃんと持ってくれているのでバランスが取れてよかった。


 例え魔物が寄ってきても、ジェニファーに手を離してもらって丸太をぶん回すだけで魔物は去っていく。大型の魔物はそのまま丸太ごと体当りして退かした。


 昼前には洞窟に帰ってこられたので、地面を隆起させて小さい山を作った。山に横穴を掘り、炭のための窯作り。

 その間に、チェルたちも戻ってきて魔物の骨を並べ始めた。

「か、か、帰ってきてたのか。ほ、ほ、骨で武器を作るので欲しい武器を教えて」

 魔境の武具屋になったシルビアが聞いてきた。

「武器かぁ……なんだろう。チェルたちはなににした?」

「私は杖だヨ」

「私もだ」

 チェルとヘリーは同じ。

「私はメイスが欲しいです」

 ジェニファーも決めていたようだ。

「俺はなにが武器なんだ? ナイフとかかな」

「な、な、ナイフでいいのか?」

 そう聞かれても、俺は首を傾げてしまう。自分に合った武器ってなんだろう?

「魔境に来る前はなにを使っていたのだ?」

 ヘリーに聞かれた。

「剣とか? いや、そもそもあんまり魔物と戦ったりしてなかったなぁ」

「マキョーは大きいのを作っておけばイイヨ」

 チェルがシルビアに言っていた。

「確かに、今日も魔物も丸太も振り回してました」

 ジェニファーもシルビアに教えていた。

「わ、わ、わかりました」

「いや、それでわかられてもなぁ……」

 シルビアは大きく頷いて、大きなフィールドボアの大腿骨に印をつけていた。どんな武器が出来上がるのか。


 昼飯を食べてから、炭作り。

 丸太を適当な大きさに切り分け、掘った炭焼き窯の中に並べていく。水蒸気などが出ていくように地面に小さな穴を開けておく。小さな小枝に火を付けて、窯の中に放り込み、燃えているのを確認。入り口を塞げば、中の木が不完全燃焼して炭になるはずだ。

「手際がいいな」

 ヘリーに褒められた。

「実家でよく手伝っていたから。明日にはできていると思う」


 夕方から、洞窟の南を探索。

 カミソリ草やタマゴキノコなど魔境の植物について皆と共有しながら進んだ。

「基本的にはフォレストラットが食べないものは食べないほうがいい」

 枝の上にいるフォレストラットを指さしながら皆に言った。

「せっかくだからまた飼ったラ?」

 チェルの言う通り、捕まえて飼うことに。

「わけがわからない植物は、このフォレストラットに毒味してもらおう。でも、だいたい毒々しいのは食べないほうが無難だけどな」

「いや、使っていたのは見ていたけど、このキノコは魔境以外では食べられているものだぞ」

 ヘリーはタマゴキノコを見ながら難しい顔をしていた。

「そうなのかぁ。あんまり触って胞子を吸い込まないように」

 俺が注意するとヘリーはタマゴキノコを手放していた。

「オジギ草は完全にトラバサミですよね?」

「そうだな。魔境防衛戦では活躍しそうだから、入口付近にもっと植えておこうか」

「つ、つ、蔓もいい」

 シルビアは絡みついてくる蔓に苦戦したことがあるらしい。切ってしまえばどうってことはないのだが、確かにナイフがないと引きちぎるのは難しい。

 カム実も襲ってくるし、触れると種が弾け飛ぶ木の実は、形からハジケクルミと名付けた。

「新種も多いと。植物学者が来たら泣いて喜びそうだ。ヒッヒッヒ」

「ヘリー、エルフは知識が重要ナノ?」

 チェルがヘリーに聞いていた。

「そりゃそうだ。皆もそうだろ?」

「魔族は知識があっても使いこなせない奴はバカにされてたヨ」

「え!? そうなのか? マキョーは?」

「俺は、そもそも学がないよ。学校なんて見たこともない。受けた訓練は冒険者ギルドの初心者講習くらいかな?」

「え!? 辺境の訓練施設でやられませんでした?」

 今度はジェニファーが聞いてきた。

「いや、近くの森で一泊させてもらったくらいだと思う。あとは魔境に入ってから」

「い、い、生き残ることに特化すると、こうなるのか……」

 シルビアは俺をまじまじと見てきた。

「でも、知識はあるに越したことはないんじゃない? ミッドガードだってヘリーは知ってたんだろ?」

「あー、いや、そうなんだけどな。知識が多いと常識で目が曇ることもある。チェル、そういうことを言いたいんだろ?」

「ん~、そうカナ? どうカナ? でも、目に見えている物を信じすぎると、精神魔法にかかりやすいカラ、気をつけたほうがイイカモ……」

「お、お、思い込みか? おそらく私の一族はその力が強いんだ」

 シルビアがチェルに言った。

「そうなノ!?」

「う、う、うん。それで肉体の能力を変えるんだと思う」

「何事も一長一短があるってことか」


 キョェエエエエエ!!!


 遠くでインプが鳴いている。

 インプを発見していなかった頃は怪鳥の鳴き声だと思って怖がっていたが、今はインプのおっさん面を思い描いてしまうので笑ってしまうほどだ。

「ジェニファー、シルビアで精神魔法を試すのは止せ!」

 ヘリーとチェルが、ジェニファーの両脇に立って腕を掴んでいた。ジェニファーは精神魔法なんか使えるのかよ。

「いえ、本当かどうか試していただけですよ」

「シルビア、大丈夫カ?」

 シルビアは下を向いたまま動かない。

「面倒だから、喧嘩するなよ。ジェニファーも今後は魔法を魔境の誰かに向けないように。いちいち、そんなことを言わせるなよ。無事か、シルビア?」

 俺がそう言って近づいた瞬間、シルビアが飛びかかってきた。

「うぉおおお! 貴様ぁ! いつも私の胸ばかり見て、そんなに見たければ見ろ! ほらほらほらぁ!」

 シルビアが服を脱いで、胸を俺の顔に押し付けてきた。火事場の馬鹿力なのか、まるで引き剥がせない。このままでは窒息してしまう。

「なにを寝ぼけていやがる! 女が男の部屋に入ったらやることをやるんだよ! ああ!? いつも鼾をかいて一向に起きないなんてバカなのか!」

「プハッ! 待て! なんの話だ!? ちょっとお前たちも見てないで止めてくれぇえええ!!」

 どうにか、顔を横に向けて叫ぶ。どうにか全員で引き剥がし、木に縛り付けた。その間、なぜか俺へのまくしたてるような罵詈雑言が止まらない。

 結局、シルビアが落ち着くまで1時間。俺の精神はかなり削られた。


今後、魔境での精神魔法は禁止となった。


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