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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【探索生活1日目】


 起きると、いつもの洞窟の天井だった。

「帰ってきたな。やっぱり都会は疲れるよ」

 洞窟を出ると、チェルがパンを焼き、シルビアが朝練をしている。

「おはよう」

「おはヨー」

「お、お、おはよう!」

 夜、焚き火の番をしていたジェニファーとヘリーはまだ寝ているようだ。

「シルビア、お前、そういえば吸血鬼の一族だって?」

「え!? い、い、いやぁ……そうだけど」

「カッコいい!」

 チェルは吸血鬼と聞いて、シルビアを羨ましそうに見た。

「昼より、夜のほうが動きやすかったら、言ってくれよ」

「そ、そ、そういうのではない。ち、ち、血を飲むと能力をコピーできるってだけ」

「なにそれ、カッコいい~!」

 チェルはヒーローでも見るような目をしていた。

「そうなのかぁ。俺とかチェルの血が欲しければ言ってくれよな」

「い、い、いいの!?」

「いいよ。なあ?」

「いいヨー。シルビア、にんにく嫌い?」

 チェルは吸血鬼になりたいらしく、「ちょっと噛んでくレル?」などと言っていた。吸血鬼には、どんなになりたくてもなれないらしい。

「一族の呪いなんだ」

「呪いカー。仕方ない」

 3人で朝飯を食べ、午前中は窯作り。10日の間に作業が終わっているかと思ったら、日干しレンガが足りなかったという。

「とっとと進めちゃおう。どうせ、やらないといけないんだし」

 どういう生活をしようと、器はあったほうがいい。

 粘着性の高い魔境産のヤシの樹液と石灰と泥を混ぜてセメントを作り、ヘリーの設計図通りにレンガを積んでいく。

「マキョー、マエアシツカワズが洞窟に来てるヨー」

 チェルの声で振り返ってみると、恐竜のようなマエアシツカワズが洞窟の中を覗いていた。

「チェル、痺れさせておいてくれ。後で解体して昼飯にしよう」

「リョーカーイ」

 チェルが杖でマエアシツカワズを麻痺させて寝かせていた。

「手慣れてきたよな」

「あの程度はネ」

 チェルは胸を張って杖を仕舞っていた。

「シルビアも慣れたか?」

「あ、あ、危ない魔物には近づかない。生き残る術だ」

 シルビアも魔境らしい考え方になっているようだ。

 窯作りをとっとと済ませ、マエアシツカワズの解体を始める。

「血はいるのか?」

「す、す、少しだけ」

 シルビアのために革袋いっぱいに血を採取。骨と皮も武具の材料になるとか。

「無駄のない狩りになってきた」

 内臓も使える部位は取っておく。あとは全部沼や草むらに放り投げた。魔境は処理に困らないからいい。

「これも竜なのかな?」

 俺は頭部を切り落としながら、呟いた。

「そうか。マエアシツカワズと言っていたが、これも竜の親類かもしれんな。ふわぁ~、おはよう」

 ヘリーが起き出してきて、切り落とした頭部を観察していた。

「あ、そうだ。エスティニアの王家って竜の血を引いているらしいんだ。それで、王はミッドガードの遺跡を見つけてほしいんだって」

「エスティニアの王家も狙っていたのか?」

「そうみたいだ。竜の都市って呼んでたよ」

「都合のいいように歴史を解釈しているな。まぁ、魔法国・ヤグドラシールの初代王は、竜を従えていたというが、本当かどうかはわからん。ちなみに、欲深いエルフどもは竜骨を探すつもりだったはずだ」

「いずれ貿易ができるようになればいいんだけどなぁ」

「そういう道もあるか」

 ヘリーはそう言って、チェルが作ったサンドイッチにかぶり付いていた。

「あら~、皆さん、おはよう」

 ジェニファーがなぜか気持ち悪い動きで起き出してきた。なにをするのかと思えば、俺の隣りに座って、膝に手を乗せ、しなだれかかってきた。

「ねぇ、マキョーさん、今日の予定はぁ~?」

 なんかヤバい草でもキメたのか?

 俺は両手でジェニファーの頬を張った。

「しっかりしろ! ちゃんと生きないと死ぬぞ!」

「痛い!!」

「痛覚はあるみたいだな。誰か水ぶっかけてやれ! 変な草とか吸っちゃだめだぞ!」

 チェルが魔法で水球を作り、ジェニファーの顔にぶつけていた。

「ブハッ!」

「目が覚めたか?」

「覚めました!」

「顔洗ってこいよ。今後の予定を話さないといけないから」

 ジェニファーはいそいそと沼へと坂を下りていった。

「あいつ、どうしちゃったんだよ」

 3人に聞くと、なぜか笑っていた。


 頬が赤いジェニファーが戻ってきたところで、俺が領主になったことを報告した。

「辺境伯ってことになった。それで、王からいろいろと言われたんだけど、大まかに言えばミッドガードっていう都市の遺跡を見つけてほしいということだ」

「ミッドガードってヘリーが言っていた都市ですよね?」

 元に戻ったジェニファーが聞いてきた。

「そう。魔法国・ユグドラシールの都市だ。王は竜の都と呼んでいたけどね」

「見つければ、事実がわかる」

 ヘリーはそう言って頷いていた。

「で、王都で開拓者を募集したんだけど、魔境の評判はすこぶる悪い。信じられないくらい人気がないから、人は来ない。残念」

「ザンネーン!」

 チェルは馬鹿みたいに落ち込んでみせた。実際に開拓者が来た場合は、チェルについて説明しないといけないんだけどな。

「遺跡を探し出して、価値のあるものを発掘すること。それから、訓練施設からの安全な道を確保すること。これが今後の魔境における仕事だ」

「や、や、家賃はどうする?」

 シルビアが聞いてきた。

「家賃分は働いてもらうのは同じだよ。ただ、回復薬や武器などではなく、遺跡を探すという労働でも支払い可とする」

「その条件は私にとっては願ってもないことだけど、他の娘たちはどうなんだ?」

 ヘリーはミッドガードを見つけるために魔境に来たので、目的が一致している。

「私は他の場所行けナイし、別にいいヨ」

 チェルは選択肢がなかった。

「わ、わ、私も他に行くところはない。ま、ま、魔境以外では奴隷扱いだし」

 シルビアも居場所が魔境しかないらしい。

「私は……」

 ジェニファーは迷っているのか。魔境では薬物は禁止だけど。

「ジェニファーは防御、チョー強いヨ」

「マキョーにフラれたのだからもういいだろ? 自分を隠さなくても」

「な、な、ナイスファイト!」

 3人がジェニファーに声をかけていた。

 え? 俺、いつジェニファーをフッた?

「魔境アイテム管理担当! ジェニファー・ヴォルコフ。今後はタンカーとして、欲に溺れず自分の役割を全うしようと思います!」

「あ、はい。よろしく頼む」

 なんだ? 性欲でも溜まってんのか?

「まぁ、よくわかんねーけど、あんまり変な草は吸わないように。とりあえず、作業としてはなるべく詳しい地図作りから始めようか?」

 俺はヘリーに聞いた。

「うむ。探索がメインでいいだろう」

 魔境にも慣れてきて、本格的な探索生活が始まった。


「飯を食べながらでいいから聞いてくれ」

 昼飯を食べつつ、さらに計画を話していく。

「南にある砂漠の向こうに鳥人族の国というのがあるらしい」

「砂漠って結構、遠いヨ」

 チェルの言う通り、砂漠に行くまでも時間はかかる。しかもアラクネやポイズンスコーピオンなど危ない魔物も多い。

「そうなんだけど、一応、魔境と接しているので挨拶くらいはしたほうがいいかな、と」

「あ、あ、挨拶に行くだけでも、数日かかるのでは?」

「たぶんね。でも、どうせ砂漠も探索するんだよな?」

「無論、そうだ」

 ヘリーが大きく頷いた。

「巨大魔獣が現れるまで、あと2ヶ月半くらい。今度は来ることがわかっているから砂漠に避難所でも作ればいいんじゃないかと思ってるんだよ」

「アー、ナルホド!」

 チェルは手を打って納得していた。

「南側に向けて、探索を開始しよう」


 午後は全員で、南へ向けてちょっと散策。洞窟近くでも行く必要がなかった場所は多く、行っていない場所を塗りつぶすように、注意深く移動した。

 足元を見ればヘイズタートルの子どもがくるぶしあたりをちょこまかと駆け回っている。

「こんな小さいヘイズタートルが、家みたいなサイズになるんだから不思議だよな」

「ち、ち、小さい魔物は動きが速いけど、お、お、大きい魔物は遅いのが普通。ま、ま、魔境は大きいのも速い」

 シルビアがそう言って観察していた。

「あー、そういえばそうだな」

「確かに、大きいとそれだけエネルギーが必要になってくるから、内部は熱いはずだ。もしかしたら、大きい魔物は常に熱にうなされているのかもしれん」

ヘリーが言うように、確かに巨体を動かすには多くのエネルギーが必要だろう。昼間、大型の魔物が日向ぼっこをしているところをよく見るが、あれは夜動くための熱を溜めているのか。

「巨大魔獣モ?」

「巨大魔獣なんか、あれで動いてるんだから内臓は焼けているかもな」

 山のように大きい巨大魔獣は、死に向かっているのかもしれない。

「逆に冷やしてしまえば、止まるってことかな?」

 チェルが冷たい水の中にヘイズタートルの子どもを入れると、途端に動きが鈍くなった。

「魔物にとって熱って結構大事な要因なんだな。これから大型の魔物に遭ったら、魔法で冷やしながら狩ってみよう」

「リョーカイ」

 ちょうど前方にヘイズタートルの卵を狙うラーミアがいた。

「前方にラーミアです」

前を歩いていたジェニファーが小声で全員に言った。ラーミアの身の丈は3メートルほど。

「よし、試してみよう」

 俺が合図を送ると、ジェニファーが木製の盾で全員を守り、チェルと水魔法でラーミアの周囲に霧を発生させる。

 俺が氷魔法で霧を氷に変え冷やしてみる。

ラーミアは振り返って目から石化の魔法を放とうとしていたが、チェルが光魔法で目眩まし。さらにシルビアがヤシの樹液を混ぜた泥団子を投げつけて目を潰していた。魔境の武具屋は独自の道具を作っていたらしい。

 ラーミアの身体は徐々に冷えていき、とぐろを巻いて固まってしまった。

「意外に皆、やるなぁ。さすがだ」

 俺が褒めると、「皆、魔境に慣れてきたダケ」とチェルが返す。盾を持っていたジェニファーがラーミアの頭蓋骨をメイスで砕いて、その場で解体することに。

 下半身の蛇部分は完全に冷え切っており、上半身の人型の部分はまだ若干温かい。特に、心臓と魔石周辺は人の体温と変わらないくらい熱がある。

「魔物の魔石は、魔力を溜めておく器官だと思われてきたが、急激に上昇した体温を逃がすためにあるのかもしれんな」

 ヘリーが魔物学者のようなことを言い始めた。

「じゃあ、魔物が意味もなく魔法を使っている時は体温を放出していたってこと?」

「だから、動物よりも魔物は大型になれると考えると、合点が行かないか?」

 そう言われるとそうかもしれない。

「じゃあ、竜は大きいカラ、たくさん魔法を使っていたんだネ?」

 チェルがヘリーに聞いていた。

「ということは、ミッドガードは魔法都市であり、竜の都市であるということか」

 探索生活はまだ始まったばかり。

 想像だけが膨らんでいく。



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