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魔境生活  作者: 花黒子
~長いプロローグ~
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【魔境生活4日目】


 今日はジャングルの奥に行く。朝食はしっかり食べ、準備も万端。自分の家になるような場所を探したい。

 手にはワイルドボアの骨とヤシの樹液で作った斧。昨夜、夜なべして作ったのだ。骨の握り心地がとてもいい。


 目の前の草や木の葉を切り、どんどん進む。


 噛んでくる木の葉や、毒の胞子を吹き出すキノコなどもあったが、なんとなく見た目でヤバさがわかるようになった。どぎつい色をした葉やキノコよりも、見た目が普通の木の葉や、キノコの方が危険なことが多い。


「それも、根を狙えば問題ない。植物やキノコは地面から移動しないからな」


 数日前まで魔物におびえていた俺も今ではすっかりバトルジャンキーのように強い魔物を探し、自分の力を試したいとすら思っている。


 人間変われば変わるものだ。


 実際、ブルースネークを新しい斧で狩ったり、空飛ぶコウモリの魔物・ゴールデンバットに石を投げて喧嘩売ったりしてみた。ゴールデンバットは取り逃がしてしまったが、だいぶ自信が出てきた。

 しばらくジャングルの中を慎重に進むと、見上げるほどの崖があった。周囲の木々より、遥かに高い。


 崖沿いに東へ歩いて行くと、洞窟があった。


 洞窟の入り口に刺さっていた松明に火を灯して中に入る。

 中は自然で出来た壁や天井を使った居住空間になっており、奥には人の白骨死体があった。一瞬、昨日のゾンビのように動くかもしれないと、斧を構えたが、ちゃんと死んでいた。

 白骨死体はカラッカラに乾いており、手にはボロボロの革表紙の手帳。指の骨を外して手帳を見ると、この魔境にいる魔物たちや食べられる植物、毒草などについて書かれていた。


「この魔境で生きていくのに大事な手帳だな」


 魔物や毒草の情報のほか、白骨化していた男の日記も書かれていた。この魔境では3ヶ月毎に『巨大魔獣』が現れるらしい。昨日、殺した巨大なワイルドボアも巨大魔獣だったのだろうか。

 手帳の表紙には「P・J」と書かれてあり、白骨化した男の名前のようだった。P・Jの手帳を大事に、鞄の奥にしまい、死体を埋めることにした。


 死んでいるとはいえ、ゾンビや白骨死体に出会い、この魔境でも生きていけることがわかった。魔物にも植物にも食われてバラバラになっていないだけ、魔境ではマシな方だ。


 P・Jの死体を埋め終わると、洞窟内を確認。台所と居間、寝室が分かれている。

 台所の床下の貯蔵庫には、壷がいくつもあったが、中身はどれも、すっかり茶色い何かになっていた。強烈な酸っぱい臭いや甘い匂いなど様々な香りがした。


 壷は洗えば、十分に使えそうだ。

 また、見たこともない金属で出来たナイフや、黒い素材で出来た弓矢など、劣化していない武器もあった。


 寝室のベッドは完全に壊れていて、毛皮も穴だらけ。全て外に出し燃やしてしまい、自分で作ることにする。

 硬い金属の胸当てや、フル装備の鎧なんかもあったが、捨てられたように部屋の隅に積み重ねられていた。P・Jには必要なかったのだろうか。もしかしたら、あの白骨死体はとんでもなく強い人だったのかもしれない。そんな彼がどうして死んでしまったのか。


 手帳をめくり、最期のページを読む。


「この魔境の謎が解けなかったことだけが、心残りだ…」


 魔境の謎ってなんだ?

 彼は自分が死ぬことを知っていた。

 手帳に記すことで、後世に伝えようとしたのだろうか。

 前のページには幾何学模様の遺跡のようなものが描かれている。


 この魔境には遺跡があるのか。ゾンビが持っていたあの古い金貨も遺跡から発掘したものかもしれない。


「遺跡の護り人は何かと戦っていたようだ」とP・Jのメモ書きがある。


 魔法陣のような模様も描かれているが、☓がしてある。危険な魔法陣なのだろうか。

 もしかしたらP・Jの死因か。


「力も魔力も通用しない遺跡」

「時空魔法の習得が必須。魔法の本などに書かれた常識は通用しない」

「古代の魔法陣は、現代のはるか先を行っている」

 などの文字が並び、P・Jの興奮具合がわかる。

 遺跡がどこにあるのかもわからないが、この魔境での新たな目標が出来た。


 洞窟周辺は木々が生い茂っていて、小さい魔物の気配はあったが、大型の魔獣はいないようだ。手帳に書いてあった食べられる植物も発見。P・Jが育てていたものが野生化したのか。魔境でも農業が可能ということだ。


「まぁ、死んだ人が白骨になるくらいだし、ここら辺は、あんまり魔物には荒らされない場所なのかもな」


 もしかしたら、この洞窟には魔物を寄せ付けないなにかがあるのかもしれない。P・Jの手帳を読み込めばわかるのだろうか。

 わかったら、この広大な魔境を畑にして、領地経営もできるかもしれない。


「夢は広がるなぁ」


 洞窟から出て、目印をつけながら、川岸に戻る。

 荷物はほとんどないが、ワイルドボアの毛皮に肉などを、洞窟の寝室や貯蔵庫に運び込む。壷は川で洗った。


 スライムを1匹壷に入れとくと、都合のいいゴミ箱になるかもしれない、と思ったが、捕まえるのは思ったよりも難しく、すぐに諦めてしまった。


 ただ、一人暮らしが長いとはいえ、だんだん人恋しくなってきた。

 この魔境にいるのは魔物だらけで、話し相手すらいないのだ。


 明日はペットでも探そうか。


 そんな風にして、自分の家を見つけた日の夜は更けていった。



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