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魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
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【魔境生活40日目】


 まだ日も明けきらぬ早朝。焦げ臭い匂いが漂ってきた。

 チェルがパンを焦がしたのか。失敗しても、小麦粉はまだある。気にせず、もう少し寝ていよう。

「マキョー!」

 俺の部屋にチェルが飛び込んできた。

「パン焦がしたのか?」

「チガウ! 来て!」

 洞窟を出てみると東の空が赤く。黒い煙が立ち上っていた。

「山火事か!?」

 ジェニファーたちも不安そうに空を見上げている。

 洞窟の西には入り口。さらにその向こうには軍の訓練施設がある。

 とりあえず、布で口と鼻を塞ぎ、現場に行ってみることに。


 森のグリーンタイガーやゴールデンバットたちも不安なのか唸り声を上げていた。

「特にうちの魔境が燃えているわけではなさそうだな」

 火事があったのは小川の向こう。俺の土地ではないようだ。

 近所付き合いとして、軍の訓練施設を見に行ってみる。

 その途中で、火が見えた。

 昨日、見つけたベスパホネットの巣と周辺の木々が燃えたようだ。

「まさか、チェルの火魔法がくすぶっていて火事になったわけじゃないだろうな……?」

 マズい。とりあえず、火を消して謝らないと。

「なんだ!? 魔境などと言うから、さぞ強い魔物がいるのかと思ったら、いかほどでもないではないか!?」

 杖を持った鎧の魔道士が大声で笑っていた。

「大魔道士様にかかれば、こんな虫の巣などゴミのようですな!」

「素晴らしい広域魔法ですな!」

 部下らしき男たちもいるらしい。

 

「とりあえず良かった。俺たちのせいでこうなってなくて……」

 俺はとっとと帰ろうと思ったら、フィーホースに乗った隊長に見つかった。

「マキョー殿!」

 隊長の後ろには軍人たちがいる。

「うわっ! 隊長! 俺じゃないですよ! 向こうの人です!」

 思わず、弁解した。

「ん? あれは……」

 隊長はフィーホースから下りて、魔道士の方に向かっていった。

「君たちはイーストケニアの衛兵たちか?」

「貴様! 誰に口を聞いておる!」

 魔道士の部下が隊長に食ってかかった。

「誰でもいい。今すぐこの火事を消しなさい。ここは軍の敷地内です」

「なにぃ!? ここは魔境だろ!?」

「いいえ、ここはただの森です。すみやかに火を消すように」

 隊長の言葉に、魔道士の部下はなにも言えなくなった。

「待て、ここにベスパホネットの巣があったのだ。だから我々はそれを駆除したまで。我らの伝令もベスパホネットの群れに襲われた」

 魔道士が一歩前に出た。

「そうですか。ただ、このままでは森ごと焼けてしまう。近隣にも迷惑をかけているようですし」

 隊長が俺の方を見た。

「貴様、何者だ!?」

 魔道士が俺を見て、聞いてきた。

「この先にある魔境の地主です」

「貴様か!? 我がイーストケニアの領地に勝手に住んでいるという輩は!?」

「いや、ちゃんと不動産屋で買った土地です」

「不動産屋だとぉ!? そんなデタラメが通用すると思っているのか!?」

「俺からすれば、エルフを追い返したら領主になったというほうがデタラメに見えますけど」

「なにをぉ! 我々の領主はイーストケニアの民に選ばれたお方! 不敬なやつだ! 消し炭にしてくれるわぁ!」

 しまった。怒らせてしまったか。

「俺を消し炭にしたら、もっと火が燃え広がりますよ。とりあえず、火を消したほうがいいんじゃないですか? 風も出てきてるし」

 火が風に煽られて、魔道士の部下のマントを焼いているが、気づいているのかな。

「おい、お前、燃えてるぞ!」

「えっ!? アチチチッ!」

 魔道士の部下は地面に転がって火を消した。

「くそっ! 貴様ら覚えていやがれ! 必ず、戻ってくるからな!」

 魔道士は部下を連れて、逃げ去ってしまった。

「おい! 待て! 今すぐ戻ってきて火を消せ!」

 隊長が叫んだが、魔道士たちは戻ってこなかった。

「追いかけますか?」

 軍人が隊長に聞いた。

「いや、いい。中央に報告する。すまない、マキョーくん、火を消すのを手伝ってくれるか?」

「いいですよ。うちの方まで来ても面倒ですし。ちょっと待っててくださいね。杖取ってきますから」

 俺は走って魔境の洞窟へと戻った。


「ドウダッタ?」

 走って帰ってきた俺にチェルが聞いてきた。

「魔境を出たところの森で火事が起こってるんだ。すぐに現場に戻らなくちゃ。スイマーズバードの魔石がまだどっかにあったよな?」

「ウン。コレコレ」

 チェルは洞窟の奥から、スイマーズバードの魔石を取ってきた。スイマーズバードの魔石には水魔法の効果がある。俺はその辺の木の枝を切って、魔石をはめる台座をナイフで削った。

「私たちも行ったほうがいいですか?」

 ジェニファーが聞いてきた。

「いや、いいんじゃないか。ダメだったら、スライムぶつけて消すよ」

 台座に魔石が嵌ったところで、すぐ俺は火事の現場に向かうことに。

「そら、ローブを使え! そんな格好では焼けてしまうぞ!」

 ヘリーに言われて、自分が短パンにランニングシャツというインナー姿であることに気がついた。ヘリーは自分の着ているローブを脱ぎ、俺に投げ渡してくれた。

「ありがとう。あとで返す」

 俺は受け取って走りながらローブを着た。

 あれ? なんか今、すごいものを見た気がしたが気のせいか。ローブを脱いだヘリーの全身にタトゥーがあったような……。

 まぁ、今はそれどころじゃないか。


 保険として、小川でスライムを捕まえ、火事の現場に持っていった。

 現場では軍人たちの中に、水魔法を使える者がいたらしく、霧を発生させていた。

「お疲れ様でーす」

「すいません、レベルが足りず、火を広げないようにするので精一杯で」

 霧を放っている軍人が状況を説明してくれた。

「はーい。とりあえず、やれるだけやってみましょう」

 俺は燃えている火の中にスライムをぶん投げ、先ほど作った杖から水魔法で水球を放った。

 バシャンバシャン!

 水球によって徐々に火の勢いがなくなっていく。火を消していくうちに、自分の魔力を込めて放てば、少し大きめの水球ができることがわかった。

「わかってしまえば、こっちのものだ」

 大きい水球をいくつも作り出し、一斉に燃えている火に放っていった。


 小一時間ほどで火は消し止められ、辺り一帯黒い焼け崖だけが残った。

 正直、遠くからでもわかるくらい大きな火事だと思ったが、焼けた範囲はそんなに広くはないようだ。よほどベスパホネットの巣が燃えたのかな。


「すまん。助かった」

 隊長にお礼を言われた。俺も隊長も煤だらけ。ヘリーが貸してくれたローブが少し焼けてしまった。

「すぐに替えのローブを用意するよ。おい、あれも持ってこい!」

 隊長は軍人たちに指示を出しながら、自分の体を布で拭っていた。

 数分後、軍人たちが酒樽と酒瓶を大量に持って戻ってきた。

「うちで作ってる酒だ。よかったら持っていってくれ」

「軍で酒を作ってるんですか?」

「ああ、王都では知られてないだろうけどな。こんな辺境にいると、こういう力も必要だろ?」

 隊長はそう言って俺に、酒樽と酒瓶が詰まった袋を渡してくれた。

「今回は本当に助かった。森が全焼したなんて言ったら、俺のクビが飛ぶところだ。もしイーストケニアの連中を見かけたら、すぐに訓練施設まで来てくれ。うちの部隊総出で追い返すから」

「ありがとうございます!」

 俺は酒を担いで、替えのローブを小脇に抱え、魔境へと戻った。


 洞窟では、ジェニファーとシルビアが籠を作る中、少し離れてヘリーがレンガを積み、窯を作っていた。ヘリーのタトゥーだらけの肌に2人が引いてしまっているようで、気まずい雰囲気が流れている。なぜかチェルはいなかった。

「ヘリー、悪い。ローブが焦げてさ。これ替えのローブだけどいいか?」

「ああ、構わない」

「それから、少しだけ瓶が手に入った。夕飯のときに、中身を開けちまおう」

 そう言って、袋から酒瓶を取り出してみせた。

「わかった」

 やはり、なにか固い。

「なんだ? なんかあったか? チェルはどこほっつき歩いてるんだ?」

「私のタトゥーの理由を聞いて、どこかへ走っていってしまった」

「なにやってんだ。あいつは」

 俺は遠くを見てチェルを探したが、周辺にはいないようだ。

「マキョー、実は私は呪われているんだ。このタトゥーはその呪いを封じ込める印でね。その影響で私はほとんど魔力を使えない。魔法が使えないんだ」

「ああ、そうなのか。別に日常生活で困るとか言うことはないんだろ?」

「日常生活は問題ないが……」

「なら、いいよ。地主としては金になる回復薬を作ってくれれば、あとは望まない。好きにしてくれ。まさか幽霊が大挙して押し寄せてくるようなことはないよな?」

「それはない、と思う……」

 わけのわからないものだけが怖いからな。

 ローブを渡すと、ヘリーは無言で着ていた。

「お前らも、ちゃんと家賃分な!」

 振り返ってジェニファーとシルビアに言った。

「マ、マ、マキョー、実は私もそんなに魔法は使えないです。か、か、身体が痛くならない魔法とか、数秒だけ力の限界を突破する魔法とかしか使えない」

「な、なんだ? 魔境だからって、魔法を使わないといけないってことはないぞ。できることをやって稼いでくれ。家賃さえを払ってくれれば、俺からは言うことなし!」

「家賃、家賃って何度も! わかってますよ!」

 ジェニファーが返した。

その後、俺はヘリーの窯作りを手伝いながら、チェルを待っていた。

 

夕飯時にようやく、チェルが走って帰ってきた。手には木と紐で作った丸い網のようなものを持っている。呪術的なことに使いそうな道具だ。

「ヘリー! 呪いをコレで捕マエテ、マキョーのベッドの下に仕掛ケヨウ!」

 チェルは興奮してヘリーの肩を掴んで言った。

「チェル! 今までそんなことやってたのか!?」

「ア~! ナンデ、マキョー戻るの、早イ!」

「こらぁー!」

 俺がチェルを追いかけ回していたら、日が暮れた。

「ダッテ、マキョー、目に見えないモノ怖がるカラ面白いと思っテ」

 とりあえず、チェルをロープでぐるぐる巻きにして木に吊るして尋問。

「思うなよ。面白くねぇから。だいたいこれはなんだ? これで呪いを捕まえられるのか?」

「ウン、魔族の道具。ニレの木から作ル」

「じゃあ、別に私の呪いが怖かったわけではないんだな?」

 ヘリーがチェルに聞いた。

「怖くナイヨ。私も魔王の一族カラ呪われてるシ、あ!」

「魔王の!? チェル、お前、ちゃんと魔族の国に帰れよ」

「カエルカエル」

「まったく。もうちょっと反省!」

「エ~!」

 そう言いながら、皆で飯を食べてたら、チェルは魔法でロープを切り、ちゃんと輪の中に入ってきた。

「のんきな奴らだよ。まったく」

 

 


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