【魔境生活3日目】
起きてすぐに食料貯蔵庫の周りを確認。深緑色の猿の魔物・エメラルドモンキーが弱りきった表情で倒れていた。フォレストラットの魔石の罠にハマったようだ。
ザンッ!
すぐに斧で首を飛ばす。
皮を剥ぎ、すばやく解体。俺が住んでいた村では見かけたことがない魔物だが、猿なら肉屋の依頼で解体したことがあったので、手順は体が覚えている。
胸の奥には名の通りエメラルド色の魔石が出てきた。確か、猿の魔物の魔石はだいたい「混乱」だったはずだ。魔石袋に放り込むとじゃらじゃらと鳴った。
数日で、魔石も結構たまってきた。こんなに魔石を見るのも、持つのも初めての経験。冒険者崩れだった俺が、こんなに魔石を持っているなんて、感慨深い。
安心して貯蔵庫を開けると、食料はきれいさっぱりなくなっていた。エメラルドモンキーに食べられたのだろう。
「遅くなるだけじゃ止まらないか」
貯蔵庫には代わりに、エメラルドモンキーの肉を入れた。
朝食にエメラルドモンキーの脇腹の肉を炙る。獣臭く、身が固かったが、ジャングルで食べた肉の中では一番おいしかった。骨や内臓などは川に放り投げると、スライムが一瞬で食べてくれた。
「俺の魔境でゴミ問題は起こらないな」
町で一人暮らしをしていた時、よく大家に怒られていた。
「煩わしい人間関係とも、おさらばだ」
森に入り、オジギ草の罠を確認しに行く。獣道に血だらけの赤いシカの魔物・ジビエディアが息も絶え絶えに倒れていた。全ての脚をオジギ草に噛まれ、立ち上がることもできない。
地面のオジギ草はすでに茶色く変色し枯れている。さすがに枯れたら、葉を閉じる事はできない。
ジビエディアはなんどとなく肉屋で解体しているので、首を刎ね、一気に解体していく。町の冒険者こと、日雇いのなんでも屋としての経験値は多い。ジビエディアの白い魔石は魔力小回復の効果がある。
解体しても全ての肉を持っていけるわけではないので、その辺のオジギ草にばらまくと、オジギ草が勢いよく葉を閉じ、平らげてしまった。
「魔境の植物は肉食だなぁ」
落とし穴を確認しに行くと、巨大なイノシシが頭を落とし穴に突っ込んで、いびきをかいていた。
イノシシの魔物であるワイルドボアのようだが山のようにでかい。通常の4倍はある。
後ろ脚の付け根を切る。
起きるか、と思ってすぐ逃げられるよう警戒していたが、いっこうに起きないようなので、全ての脚を切り落とした。
数日分の食料が手に入ったが、未だ鼾をかき続けているワイルドボアに負けた気がする。
巨大ワイルドボアは首の付け根を切った際、少しだけ、体を震わせ絶命した。
皮を剥ぐだけで、一日がかり。腹を裂いたときから、内臓の臭いがあたり一帯に立ち込め、鳥たちがギャーギャーと騒ぎ出した。
腹の中には、蛇の魔物・ブルースネークや、ワイルドベアが消化されずに残っていた。
「肉食のワイルドベアやブルースネークを捕食するワイルドボアってなんだ? この魔境はどういう生態系なんだよ」
魔石は俺の胴体ほどあり、真っ赤。ワイルドボアの魔石は食欲増進というだけで、そこまでレアなものでもない。
せっかくなので、ワイルドボアの魔石を使い、ワイルドボアの肉をたらふく食うことにした。
結果は前脚一本で限界だった。
牙や骨、皮など使える部位は多く、肉も大量に得ることができた。
何より、相当なレベルアップをしたようで、体から力がみなぎってくる。鉄の斧もナイフもすっかり刃こぼれし、ダメになってしまい、ヤシの樹液で作ったものを使い始めた。
それもすぐにダメになってしまう。
ワイルドボアの骨を加工して、片手剣のようなものを作ってみた。それが一番使いやすい。
ある程度、ワイルドボアの解体できたので、再び、毒入りの落とし穴を作る。昨日より、圧倒的に力も付き、一度経験していることで作業効率も上がり、すぐに落とし穴ができあがった。
調子に乗って、3つ、4つと作ってしまった。
「やっぱり肉を食べると、力が湧くなぁ。うわぁ、これが俺か?」
汗と血にまみれていることに気が付き、川で汚れを落とすことに。
やる気がなく、うだつも上がらなかった俺だが、魔境生活3日目にして、真人間への道へ向かっている気がする。
どうせ誰も見ていないし、スライムも今なら対処できるので、全裸で川に飛び込む。
「うわぁ~、気持ちいい!」
全身をくまなく洗っていたら、「うほっ!」という声が聞こえた。
振り返ると、木の陰から女の冒険者がこちらをガン見していた。金髪碧眼で、身体は細く、めちゃくちゃ汚れた鎧を着ていた。顔も泥だらけだが美人。ただ、目の焦点があっていない。
「な、なにか用ですか?」
尋ねてみたが、「うほっ」と言いながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
汚れた女冒険者に襲われるのも悪くないかも、などとふざけたことを考えていたら、川からスライムが飛び出し、女冒険者に噛み付いた。
豪快に転んだ女冒険者の後頭部は血まみれで、背中の肉がむき出しになり、骨が飛び出していた。
「ゾンビか!」
俺は咄嗟に斧を掴んで、ゾンビに投げつけた。回転した斧はゾンビの頭にザクッと直撃。ゾンビは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
しばらく様子を見て、完全に動きを止めたことを確認。女冒険者のゾンビの持ち物を探ると、現在この国では使われていない金貨が見つかった。
「古いものかな?」
金貨だけ回収して、ゾンビをしっかり埋葬。
明日は魔境のもう少し、奥に行ってみようと思う。