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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~

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375/376

魔境異譚・コボルトのクロード8話


 翌日、俺は冒険者に起こされて、一緒に朝飯を食べて沼で水浴びまでしてから、コロシアムへと向かった。正直、コロシアムは冒険者ギルドに来たときから見えてはいた。

 沼の反対側にあるから、顔を洗えば見える。

 ただ、どうも魔境に似つかわしくないと思って敬遠していた。


「なんで、魔境にコロシアムなんてあるんだ?」

「力試しじゃないか?」

「魔境の生活そのものが力試しだろうに」

 そう言うと、冒険者は笑っていた。


「クロード。お前が一番魔境に馴染んでいるかもな。あのコロシアムは魔境の外の人間がどんなもんかと試す場所だ」

「ああ、なるほど。じゃあ、今日も魔境の外の人間が来ているのか?」

「うん。でも、まぁ、気にするな。魔境の住人の戦い方とは違うから」

 裏口からコロシアムに入り、冒険者は門の衛兵に俺を紹介してくれた。


「新しい冒険者ギルドの職員だ。クロードという」

「よろしくお願いします」

「あ、回復薬を作るのが上手いって?」

 衛兵は俺の噂を聞いているらしい。

「いえ、鼻がいいだけです」

「そうか」

「こっちだ。向こう側に選手たちがいる。こちらは魔境側だ」

 冒険者が教えてくれた。魔境側には魔物がいる。ただ、どの魔物も冒険者を一瞥しただけで、特に襲いかかってこない。


「まさか、君が使役しているのか?」

「いや、魔境の魔物は行儀がいいだけさ。向こう側からすれば、クロードも魔物とされている」

 棘のある言い方をしたが、ダンジョン生まれ、ダンジョン育ちの俺からすると、当たり前だとも思う。


「いいんじゃないか」

「ほら」

 冒険者がスコップを渡してきた。


「え!? 俺も戦うのか?」

「力試しさ。魔境と違って死にはしない」

「ああ、そうか……。ダンジョンから出てきたばかりで、特訓させられたのはこういうことか」

「いや、それは業務を普通に覚えてもらわないといけないと思ってさ。どちらにせよ魔境は死にかけまくるし、特訓は仕方ない。妻たちが世話になったな」

「妻たち? へ?」

「ヘリーとカタンは俺の妻だ」

「……え!? どういうこと? 何人と結婚しているんだ?」

「四人」

「四人!? 魔境で!?」

「魔境で。シルビアもそうだぞ」

「え!? どういう……?」

「闘技場のこちら側に俺の名前が書いてある」

「マキョー? マキョー!? 領主の!?」

「そう」

「領主だったのか!?」

「そうだよ」

「領主直々に俺に訓練をしてくれたってこと?」

「直々っていうか、魔境の男たちは人数が少ないから、だいたい訓練することになっているんだ。しかも長く引きこもっていたって言うから面白そうだと思って」

「そんな……、え? じゃあ、リパさんやカヒマンさんは?」

「あいつらも訓練したな。カヒマンも砂漠で特訓したし、リパは勝手に特訓になっちゃうだろ? あいつ魔物を引き寄せるギフト持ちだからさ」

「ああ、そうなんですか!?」

「敬語にならなくていいぞ。別に偉くもないからさ」

「偉いでしょう!」

「いや、そうでもない。妻たちから毎日怒られているし」

「それは常識がないからじゃ……」

「魔境に常識はないよ」

「それはそうだけど……」

 冒険者ことマキョーは、クリップボードに貼られた紙を見ながら、魔物たちに指示を出していた。


「魔物に言葉がわかるのか?」

「わかるさ、そりゃ。ここには100年以上生きている魔物しか出していないから。クロードも一緒に出るか? ソードウルフたちと出ると面白いと思うんだけど……」

「ソードウルフもいるのか?」

「ああ、群れでな。リーダーは強いけど、突っ込んじまうタイプで戦術を考えてくれるタイプがいると、ぐっと面白くなる」

 そう言うと、急にマキョーの背後の壁が暗くなり、ソードウルフの群れが出てきた。


「どういうこと!?」

「俺の影にダンジョンがあるだけだ」

「……!?」

 絶句。

「大丈夫、ソードウルフたちも言葉は伝わる」

 ソードウルフとコミュニケーションを取れるかどうかを心配しているわけではない。


「そういうこっちゃなくて」

「どういうこっちゃ?」

「なにかはぐらかされているような……」

「バレたか。これ、別に、冒険者ギルドの仕事でもなく、休日の嗜み程度に考えて出てみないか?」

「いや、嗜みでコロシアムに出るギルド職員ってなんですか?」

「報酬もあるぞ」

「どんな……?」

「えーっと、魔境コインと、魔法書とかもあるんじゃないかな。なんか必要なものはあるか? あ、落とし穴の魔法を教えてやろうか。この前、言ってただろ? できたぞ」

「できたぁ!?」

「ああ、穴を掘って隠蔽すればいいんだ。すぐにできた。闘技場を穴凹だらけにしよう」

「いやぁ……」

「じゃあ、一緒に俺も出る」

「ああ、それなら……。いや、マキョーさんだけでいいじゃないですか」

「大丈夫だ。ほら、俺はただの冒険者に見えるから、冒険者の戦い方しかしない」

「だったら、安心か。とはならないんじゃ……?」


 ドーン!


 銅鑼の音が鳴り響いた。


「ほら、合図だ。とりあえず、闘技場で考えよう」

「ええ?」

 などと言っている間に、鉄門が開いて闘技場までの道ができてしまった。ソードウルフの群れが、吠えながら脇を通り過ぎていく。闘技場から歓声が聞こえてきた。


 その歓声に引き寄せられるように、気づけば足が一歩前に出ていた。


「さあ、今日も始まりました! 週に一度のお楽しみ! ホワイトオックスからやってきた精鋭たちが魔境に挑む! 対する魔境側は、ソードウルフと冒険者ギルドの新人と……、あの人、何をやってるんですか……。まぁ、見知らぬ冒険者も乱入している! どちらが勝つのか、すでに戦いは始まっているぞ!」

 女性の実況者がコロシアム中に声を響かせている。


 ホワイトオックスの精鋭たちは鉄の鎧を身にまとい、大剣やハルバードなどを構えていた。一振りでソードウルフなどふっとばされそうだ。


 ガウッ!


 精鋭に飛びかかったソードウルフが剣で弾かれている。ただ、毛皮が固いからまるでダメージはなさそうだ。


「どうなっているんだ! ソードウルフ! 斬撃が効かないのか!? チェルさん、どう思います?」

「どうもこうもないよ。毛が鉄と同じくらい固いってこと。鉄を切れる剣士でも連れてこないと攻撃しても意味はないよ」

 実況と解説者が喋る声が響く。


 その声で、精鋭たちが一歩下がった。


「全くだらしないね! 私たちが詠唱する間、どうにか守ってな!」

 精鋭の戦士たちの後方から魔法使いの声が聞こえてきた。


「クロード、ソードウルフたちを一歩下がらせて、落とし穴を仕掛けよう。中にソードウルフたちを隠すぞ」

 マキョーさんは相変わらず、無茶を言う。

「ええ? そんな事できるかな?」

「特大に魔力を上げて吠えろ!」

「ああ! 了解!」


 俺は魔力を練り上げて、自分の頭部に集中させて、一気に解放する。


「バウッ!!!」


 俺の顔面型の魔力が精鋭たちに向けて放たれた。


 ボボボボボッ!


 闘技場の床一面が爆ぜた。マキョーさんが落とし穴を作ったのだろう。見た目は何も起こっていない。

 ホワイトオックスの精鋭たちが怯んだが、詠唱は止まらない。


「あれ? 何が起こった? ソードウルフたちの姿が消えたー!!」

 ソードウルフたちは落とし穴に身を隠していた。


「隠しても無駄よ! 全力の火球を喰らいなさい!」

 魔法使いが人の体より大きな火球を放ってきた。俺も落とし穴に身を隠して、振り返った。


 マキョーさんは火球に手をかざして、しっかり受け止めていた。そのまま息を吹いて火球を消している。そんな事できるのか。


「相手は一人、一気に畳み掛けるよ!」

 精鋭たちがマキョーさんに突っ込んでいったのを確認して、俺は再び、ソードウルフたちに合図を送る。


「バウッ!」


 一斉に飛び出したソードウルフの群れが、精鋭たちの背後から襲いかかり、足に噛みついた。精鋭と呼ばれた者たちは全員倒れ、武器も放り出していた。



「勝負あり!」


 ドーン!


 観客席から歓声が沸き起こった。

「はい、落とし穴を作った人は戻してくださーい」

 業務連絡があり、いつの間にか、俺は控室に戻っていた。


「おつかれ。即席なのに上手くいったな」

「いや、黒ムカデと同じような……」

「まぁ、そうだ。コロシアムでも十分に使える」

 報酬の魔境コインは思った以上に多かった。


「クロード、またコロシアムに出てくれよ」

「あぁ……。非番の時なら」

「よかった。じゃあ、また頼む。観客席でカタンが飯屋を出しているから、買っていくといい」

「ありがとうございます」


 俺は観客席で、屋台を出していたカタンさんから、激ウマ魔境ヌードルを買い、闘技場の試合を見ながら、冷まして食べていた。

 先程戦っていたホワイトオックスの精鋭たちが普段着のまま、やってきて挨拶をしてきた。

 

「あんた、すごいな!」

「本当にギルド職員なのか?」

「え? ああ、はい」

「普通に会話もできるんだな」

「もちろんです。見た目はコボルトですけど」

「私も魔境に住めるのか?」

 火球を放ってきた魔女が聞いてきた。


「何度も死にかける覚悟があるなら……」

 俺は冷えたヌードルをズズッと吸った。

 闘技場では巨大なワニの魔物と、軍にいたという魔法剣士が戦っている。やはり魔法剣士の攻撃は鋭さがなく、ワニの魔物はあくびをしながら尻尾で吹っ飛ばしていた。

 マキョーさんが俺を呼ぶ理由が少しわかった気がした。


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― 新着の感想 ―
おや…… 謎の冒険者(笑)の正体開示、意外と早かったw
結局妻4人かwよくやったwお幸せにwww
同じくw
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