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魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
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【魔境生活35日目】


 起きたら、焚き火を消して再び自宅である洞窟に向かう。

チェルは相変わらず、朝早く起きて木の実やリスの魔物を焼いて葉に包んでいた。休憩中に食べるのだとか。


とりあえず、俺たちは南へと歩き出した。周囲には霧が出ており、遠くまでは見通せない。しかも、霧が濃くなっていっていく。


「マキョー、白イ!」

「なにか出そうですよ」


 チェルとジェニファーは怯えていた。

 すでに濃霧。この先にどんな魔物がいるのかわからないため、無理をして進むのは危険だ。ただ、休憩を取ろうにも、こんな森のど真ん中で魔物に囲まれたら終わりだ。


「マキョー、アレヤッテ、ズオォオオッテ!」


 チェルの擬音はわからないが、ジェスチャーで伝えてきた。俺が地面の中に流れる魔力に干渉し、地面を隆起させろと言っているらしい。

 俺は一気に地面を引き上げ、小さな山を作った。周囲の木々はバキバキ折れたが、仕方がない。しばらく、小山の上で待機。魔物が登ってきたら撃退していると、徐々に霧が晴れてきた。


「今のうちに一気に行こう!」

「オー!」

「はい!」


 俺たちはいつ倒れるかわからない木々の間を通り、がけ崩れに埋まった魔物たちの屍を越えて南へ突き進んだ。

 沼にたどり着いたのは昼頃。すでにジェニファーは限界を迎えており、俺の背中に乗っている。


 そこから大きく迂回して自宅である洞窟へ向かうのだが、沼の近辺が荒れ放題で、そこら中に魔物の死体が散らばっていた。植物はたくましく魔物の死肉を食らう大きなオジギ草が何本も天高く伸びている。スイミン花も一気に広がり、紫色の花粉が飛び、息ができないほどだ。

 口を塞ぎつつ風魔法で花粉を避けながら、ようやく洞窟にたどり着いた。


「ア~チャ~!」

 戻った我が家は完全に岩や瓦礫で埋まってしまっている。

「はぁ~」


 疲れが一気に襲いかかってきた。ただ、このままでは寝ることも出来ない。

「巨大魔獣は災害だ」と再確認し、炎天下の中、瓦礫や岩の撤去。

 石を取り、岩を持ち上げて放り投げる。すると、その下に石と岩が隠れているので、再び石を取り除く。この繰り返しだ。


 夕方近くまで同じ作業をしていたら、魔物の鳴き声が聞こえてきた。


 チュー!


 フォレストラットの家族は岩の隙間に入り込んでどうにか生存していたようだ。

 ようやく、もともとあった鍋や砥石などが見つかり始めた。

 ハムは雨に濡れて腐り始めていたし、塩を入れた壺も割れてしまっている。


「小麦モダメ~!」


 泣きそうな声でチェルが肩を落とした。練習用の鉄の剣も曲がってしまっていたが、奥にあったP・Jの武器や防具は無事で傷一つ付いていない。


「とにかく掃除しましょう。まずは住める状態にしないと」

 ジェニファーが声をかけてくれるのだが、一番働いていない。


「ジェニファー、もうちょっと体力つけような。じゃないと本当にこの魔境でやっていけないぞ」

「はい……」

 夜になり、篝火を焚きながらの家の中の泥を掻き出した。ようやく大人3人が眠れるスペースを作ると、チェルから先に眠ってしまった。


「すみません、限界です……」

 ジェニファーも弱いなりにも懸命に働いたため、倒れるように眠った。


「くそ。風呂に入りたいけど、ダメだ。睡魔に負ける」

 そう言って、俺も眠ろうとしたが、胸ポケットでなにかが動いた。

 取り出して見れば、以前、女冒険者のゾンビが持っていた古い金貨だった。

「金貨が動いた?」


 ドクン……

 ドクン……

 まるで心臓が動くかのように、金貨が膨らんだりしぼんだりし始めた。


「あれ? まだ俺、眠ってないよな」

 一度目をこすって金貨を見たが、やはり膨らんだりしぼんだりしている。


「もしかしたら、埋めたはずのゾンビの死体が流されたのか?」

 そう言って、外に出たが月明かりくらいしかなく、ほぼ暗闇でなにも見えない。こんな時分に魔境を出歩くのは危険だ。


 女冒険者の霊が俺を呼んでいるのかもしれないが、今夜は止めておくことに。

「悪いな。今日は疲れてるんだ。あっ!」

 手の中にあった古い金貨が跳ね上がって、地面に転がった。


「待て待て待て!」

 俺が持っている物の中でも値が張りそうな金貨が、沼の方に転がっていく。女冒険者のゾンビを埋めたのは魔境の入口の方だから方向が違う。

 睡魔で瞼も重たくなっていたが、月明かりに光る金貨だけは見えていた。


「どこまで行くんだよ」

 金貨はコロコロと転がっていく。

 何度も足で進路を塞ぎ止めようとしたが、まるで生きているかのように躱されてしまう。

 結局、金貨を追って沼の辺りまで来てしまった。


 チャポン。


 金貨が沼に入ってようやく止まった。


「なんだって言うんだよ」

 沼から金貨を拾い上げると、目の前の水面に白いエルフの女が立って、こちらを見ていた。女の向こう側が透けている。明らかに肉体はない。


「そこかよ……」


 白いエルフの女はそう言って、振り向いて水面を歩いて行ってしまった。

 身の毛がよだつとはこのことだ。

 俺は手のひらにある金貨をしばらく見つめていた。


 とりあえず家まで帰り、チェルとジェニファーの間で寝たものの、自分の見たものが信じられず、寝るまで時間がかかった。



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