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魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
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【魔境生活34日目】


「オキテ……」

 チェルが服を引っ張って、俺を起こした。

「んあ? どうした?」

「マキョー、オキテ!」

「いててて……あれ? 治ってる?」


 俺は折れた足首をかばい立ち上がろうとしたら痛みがない。

「回復魔法が効いたようですね」

 ジェニファーが治してくれたようだ。

「ありがと」 

 古井戸の底には真上から光が差し込んでいた。

 昨日の嵐は終わったようだ。巨大魔獣の足音も聞こえない。

「コッチ! コッチ!」

 俺が起きてもチェルは服を引っ張ってきた。

「何だよ」


 チェルは無理やり俺を立たせてから放置。自分は光の当たらない井戸の奥へと走っていった。枯れ井戸の底には通路があるようだ。

「コッチ!」

「わかったっての。この井戸は何だ? 地下水脈でも通っていたのか?」

 ジェニファーが肩を貸してくれたが「大丈夫」と言って、自分で歩いた。チェルの声がする方に向かう。


「明かりだ」

 前を行くチェルの先には緑色のぼんやりとした光が見える。魔石灯の明かりのようには見えず、発光する苔か植物でもあるらしい。

「キレイネ~」

「……!?」


 通路のいたるところに発光したキノコが壁から生えていた。チェルは酒瓶サイズの光るキノコを見ながら感動している。ジェニファーは怯えているのか声を発していない。


「触るなよ。痺れたら置いていくからな」

 そう言うとチェルは急にキノコから離れ、俺に近づいてきた。危険だとは思わなかったのか。魔族はあまり危機管理能力がないのかもしれない。

 光るキノコの先に進むと、突然大きな空間に出た。


「地底湖か……」

 目の前には暗い湖が広がっている。光るキノコの明かりは3メートル先くらいまでしか届かないが、声を発すると反響する。闇の中で何かが蠢いている気がして気味が悪い。


「マキョー!」

 チェルが石か何かを拾って俺に見せてきた。

 自宅近くの湖の底にあった雷紋が施されたドーナツ型の石とそっくりの石だった。


「あの石と同じものだろうな。なんだと思う?」

「ワカラナイ、でも、ガイコツ持ッテタ」

「骸骨?」

 チェルが指差す方向には、ローブを着た人の骨が座禅を組むように座っていた。

「即身仏かな」

「ソクシンブツ?」

「いや、なんでもない……そんなことより、まだローブに何か隠しているみたいだ」

「エーッ、キモチワル! 呪ワレル」


 チェルが俺の腕を掴んで引っ張った。魔族って変なところで信心深いのかな。

 俺は骨からローブを脱がし、ポケットを探ると「旅のしおり」という初心者の冒険者が読むような冊子が出てきた。紙の質が悪く、黒いカビも少し生えている。


「これ冒険者の『旅のしおり』ですよね? 私も持ってます。ただ、かなり古いデザインのようですね」

 僧侶らしくジェニファーは骸骨に祈りを捧げてから、俺に聞いてきた。

「ああ、昔見たな」


 中身は、俺が冒険者ギルドに入った時にもらった冊子とあまり変わらない。ただ、雷紋が施された石について、『ダンジョンの鍵は失くさないように』と挿絵付きで書かれている。


「この石はダンジョンの鍵なのか?」

「ダンジョン? イッタコトアルカ?」

 チェルが聞いてきた。

 もちろん、堕落した生活を送っていた俺がダンジョンなんか行ったことあるわけない。


「ないよ。そもそも俺がそんなに真面目に冒険者をやってると思うか?」

「エッ! マキョー冒険者ナノ?」

 チェルはそもそも俺が冒険者だなんて思っていなかったようだ。

「私はありますよ。何日もかけて仲間とともにダンジョンにいる魔物を倒しながら奥へと進んでいく。王都では私たちが最奥へ行った冒険者のパーティでした。でも、こんな石は必要ありませんでしたけどね」

「へぇ~、どこのダンジョン?」

「お、王都の近くにあるダンジョンです」

「王都の近くにダンジョンなんてあるのか? この国って、意外に危ないんだな」

 田舎の人間は王都の事情なんて知らない。

「まぁ、ダンジョンからの恩恵もありますし、王都は冒険者が多いので」


 ジェニファーの話が本当かどうかわからないが、いつか冒険者として王都の近くのダンジョンに行ってみたい。


 今は冒険者の依頼は請けてないが魔境の管理人みたいな事をしている気がするが自分の人生の中では一番冒険している。


「ん? 最後のページになんか書いてあるなぁ」

 最後のページに殴り書きで何か書かれていた。

 古い字体で読みにくかったがこう書かれていた。


『魔獣にダンジョンを盗まれた、終わりだ』


 俺はそれを読み、振り返って地底湖を見渡した。

 ダンジョンって盗めるものなのか? もし、このローブを着た人物がダンジョンマスターだったとして、あの巨大魔獣にダンジョンを盗まれる、なんてことがあるとしたら……。


「いやいや、嘘だろ!?」

「ドシタ!?」

「ダンジョンって盗めるのか?」

「なにを言ってるんですか?」

「無理ダロ」

 2人とも可哀想な目で骸骨を見ていた。


「だよなぁ~」

 俺は妙に気になって、冊子を胸ポケットに入れた。

「もうここに用はない。出よう」

「ウン」

 そう言って俺たちはもと来た通路を戻ることに。


 戻る時、俺はもう一度だけ振り返って地底湖に向かって「おーい」と叫んでみた。

 声は反響し、巨大な空間であることを改めて確認した。もし、ここに水が溜まっていなかったとしたら、ダンジョンがあったのかもしれないと思えてきた。


「ダンジョンを盗む、か……。一体どんな方法で……」

 俺は手の中の雷紋が描かれた石に触れながら、そんなことを思った。

「マキョー、早ク!」

「はいはい」

 俺は片足をかばいながら、チェルの後を追った。

 魔境での生活で身体能力が強化されたチェルはあっさり俺を井戸の中から地上へと投げ飛ばした。

 

 地上は快晴。

 まるで昨日の嵐が嘘のようだ。

 巨大な魔獣の気配すらない。


 ただ、自宅の洞窟に向かっていると、昨日までの森とは明らかに違っている。木々が倒れ、魔物の死体や血の跡が至る所にあった。魔獣の足跡と思われる池の中には魔物と植物が押しつぶされていた。今まで森だった場所が池の底になり、川が隆起し底にあった水草が乾き始めている。


 ゴロンゴロン!


 崖崩れが起こり、目の前を背丈ほどの岩が転がっていく。

「あぶねっ」

 移動するにも地形が変わりすぎていて、時間がかかった。

 魔物たちにも遭遇したが、うずくまって動かない物が多い。動くとなにかが降ってきたり、地面が揺れたりするからだろう。


グーッ。


チェルの腹が鳴った。

「そういや、昨日からなにも食べてなかったな」

 到るところに魔物の死肉はあったし、動かない魔物もいたが、食べる気にはなれなかった。

「あ、これなら食べられますよ」

 ジェニファーがそう言って採ってきたのは、フォレストラットが嫌がっていた香りの強い葉だった。


「王都の人間ってこんな香草ばっかり食べてるのか?」

「人が多いと、臭いも多いんですよ!」

「ないよりはマシか」


 結局、香草と魔物の死体を噛んでいたカム実を割って食べた。川の流れが変わり、泥水だったが飲むしかなかった。


「とりあえず、崩れていても家までたどりつければ、どうにかなるだろう」

「ウン」

「薪を集めないとですね。湿ってるから火が付きにくそうです」


 間もなく日が落ちる。今夜は森のなかで野営するしかなさそうだ。



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