【紡ぐ生活16日目】
「確信したことがいくつかある」
「なんだ?」
ダンジョンで学び、食事をして眠った。いつが朝だかわからないが、ステュワートという城の職員が時を教えてくれて起き上がった。
「単純に生物って、食べることによって分解するだろ? それを糞として出すわけだけど、虫の場合は栄養素を吸収して土に変えていくんだ。つまり再構築しているんだよ。俺たち人間は、そこに思考が入る。だからいろんな物を作れるんだ。これが実は最大の特性なんだ。再構築するための道具すら作り出す」
「だから何だというのだ?」
愚王たち魔王も起きぬけに語りだした俺に近づいてきた。
「なんか適当な魔物でも出してもらえませんか? 大きくても小さくても構いません」
かつて魔物使いだった魔王が、一角ウサギを出してくれた。実体がちゃんとある。
「この一角ウサギの身体に流れる魔力って基本的にはバラバラじゃないですか。これに封魔一族の体術を学ぶと、骨を通すようになる」
指から魔力を出して雑草を刈り取った。
「魔力の流れをちゃんと骨を通せば、こういうことも可能なんですが、野生の魔物はそういう術を持っていない。だから身体の中にある魔力は濃い部分もあれば薄い部分もある。これは動かそうと思えば動きますよね」
俺は一角ウサギの背中に触れて、身体の中にある魔力をゆっくりと動かし始めた。方向性さえ決めてしまえば、身体の中を血液のように流れ始める。
「言ってしまえば、乱れさせようと思えばできるじゃないですか。つまり分解するだけなら、それほど難しくはない。この一角ウサギには実体があるのでやりませんが……」
「じゃあ、実体がない魔物を出そうか」
魔王の一人が召喚術で巨大なサイクロプスを出してきた。
俺はサイクロプスに触れて、体内の魔力を回転させながら乱反射させていく。
バフンッ!
サイクロプスは体内が爆発し皮膚が千切れるようにして霧散した。
「……と、まぁ、こんな感じで。じゃあ、これを元に戻したり、別の魔物にできるのかと言われると無理じゃないですか。でも、人間なら生き物じゃない限り、それが可能で、それこそが人間の特性なんじゃないかと、ようやく気付きました」
「で、その気づきをどうやって使うんだヨ」
チェルは朝からうるさいと言わんばかりに俺に聞いてきた。
「要は、魔境と言う土地も同じように再構築していってるだろ? でも、なかなかうまくいかない。単純にそれはこの一角ウサギみたいにバラバラだからなんじゃないか。単純に土地の骨ってなんだ?」
「ん~、魔力が流れる龍脈ってこと?」
「そういうことだ。だから人工的に龍脈を作ればいいんだよ」
「「「はぁ!?」」」
歴代の魔王たちとチェルが、「こいつは何を言っているんだ?」と言う顔で俺を見てきた。
「骨には魔力を通しやすいという特徴があるよな。魔境は魔物だらけ、つまり骨だらけだ。それを使って川を作っていく。そうすれば魔力が自然と流れ始めて、魔物も集まり、魔力を使う職人たちも集まる」
「つまり魔力の濃い流れを土地に作り出そうということだな?」
やはり愚王は賢い。
「そうです」
「しかし、川であれば、始まりと終わりがあるのでは?」
空間魔法に長けた魔王が聞いてきた。
「ええ、幸い魔境の西と北には山脈があり、東には海があります。でも、本来そうなっているはずなんですよ。魔境とメイジュ王国の境にある海には強い魔物が大勢棲みついているわけですから」
「確かに……」
「人工的龍脈かぁ……。誰も考えないぞ、そんなこと」
「考えたところで、出来ないと思って自分で否定してしまうのでしょう」
「そう頭を抱えるなチェルよ」
先代の魔王がチェルを励ましていた。
「皆さんは遠くから見ているだけだからいいですよ。こういうことを思いついたら、マキョーと言う男はやるんです。現時点でもいろんな計画が進行している最中なんですよ環状道路もそうだし、砂漠の駅や施設、エレベーター、空島農園、魔法学校にミルドウェルハイウェイ。我々が作ろうと思えば、何年もかかる事業です。でも、このマキョーの作業速度は異常なんです。ついてはいけない」
「よかったよ。皆がまだあんまり手を付けていない時期に思いついて」
「それはいいんだけど……」
「龍脈ができた方が楽でしょ」
「考えてみてくれ。魔物が寄ってくるということはそれだけ管理が大変だってことだ」
「そうかな。魔物は荒れないんじゃないか。魔力は必要だから。むしろ人間たちが利権を争うんじゃないかと思ってる。まぁ、何本も作るつもりだけどね」
俺が考えている人工的龍脈は魔境を西から東へ横断する川だ。支流も作れば争う必要もなくなるんじゃないかと思っている。
「じゃあ、試しにここで作ってみればいい。土木関係の魔王もいたよな?」
「土魔法です!」
土魔法が得意な魔王に教えてもらいながら、俺は草原に長い溝を掘って周囲の地盤の固め方などを試していった。
「ああ、そうか。熱して凝固剤と一緒に圧縮すればいいってことですか?」
「まぁ、そうだけど、そんな簡単に……」
「圧縮するなら、空間魔法でもできますわ」
空間魔法に長けた魔王も参戦してくれて、作業のやり方はどんどんできていく。
「じゃあ、この人工石に魔石なり骨を入れていけばいいってことですかね?」
「そうね。でも、魔石も骨も溶けることは考えないといけませんよ」
「メンテナンスですね。それなら、間隔を開けて魔石の粉が入った袋を沈められるようにした方がいいのかな……。いや、スライムたちを流せばいいか。適当に魔力を吸収させて、放置しておけば、そのうち陸に上がって干上がるでしょう。やっぱりスライムは蹴っ飛ばしたりするのがよかったんだなぁ」
俺はメモとペンを用意してもらって、凝固剤の種類やどんな植物から採れるのかなどを書き込んでいった。
「おーい! マキョー、そろそろ帰るよー!」
「え? あ、そう?」
「うん、魔王様たちもマキョーに付き合っていると、どんどん薄くなっちゃうから、魔力を補充しておいてください。生身がないから、消えかけますよ!」
よく見れば、魔王たちは皆、透明さが増した気がする。
「あ、申し訳ない」
「いや、今の世に役に立つならよし。現世に留まっている理由にもなる」
「しかし、魔力ってこれほどまでに自由なのか?」
「本当に……。魔法を作るという行為がこれほど驚愕と興奮に満ちていたとは……」
「納得した。型に嵌らないのではなく、これこそが型なのだろう」
「本質的なものを見たような……。魔境のゴーストが昇天してしまうのも頷ける」
口々に魔王が俺を褒めてきた。
「いつかチェルに呼び出してもらってください」
「うむ。期待している」
「私は召喚術を学ばないといけないのか?」
「また呪われるぞ」
「呪いはこりごり」
「それでは、長い間ご指導ありがとうございました!」
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。マキョー殿、いつでも来てくれ。ダンジョンに多くの魔力が補充された。人族の底力を見せてもらった気分だよ」
愚王はそう言って見送ってくれた。歴代の魔王たちも「またな」と手を振ってくれた。
俺たちはダンジョンを出た。
「強くなったり、偉くなったりすると、友達ができにくくなる。マキョーはいい友達になれたんだと思うよ」
「魔王たちの? おおっ、今になってゾワッとした。なかなか霊体は慣れないよ」
「お食事になさいますか?」
ステュワートが声をかけてきた。
「ああ、頼む。世話をかけたね」
「ありがとうございました」
「いえ、どうやら歴代の魔王たちも喜んでおられるようで、シャンデリアがいつにも増して明るくなっております」
見上げれば、シャンデリアの明りが煌々と輝いていた。
その後、ジュリエッタ女王と共に食事をして、俺たちは魔境へ帰ることにした。
「ミシェル、もう行ってしまうのか?」
「ジュリエッタ、よく歴代魔王の言うことを聞いて、魔族に優しくね」
「反乱分子が増えてきてるのよ」
「まぁ、それは私が魔王になってもいると思う。話を聞くか、潰すかのどちらかよ。でも、潰さない方がいいわ。人間の特性を考えるならね。そうでしょ? マキョー」
「え? ああ、崩すのは簡単です。再構築こそ、生きている者の務めです」
「勉強してみる」
ジュリエッタとステュワートや職員たちはわざわざ寒いのに、城の外まで出てきてくれた。
「それじゃ、また」
「今度は魔王になりに来て!」
「考えておく!」
俺とチェルは空へと飛んだ。
「実りある旅だったな」
「マキョーは魔境を体現しているね。今頃、魔境はちゃんと覚醒してるかな?」
「冬眠から覚めてたりしてな」
メイジュ王国の町や森を飛び越え、海を渡る。
魔境に帰ったのは、深夜になってからだった。




