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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【紡ぐ生活13日目】


 メリルターコイズの図書館は青を基調とした立派な石造りの建物で、装飾も凝っていた。

 歴史上の魔法書も含め、魔法研究の総本山のような場所で、相当な数の魔道士や学者たちが日夜魔法の研究をしているという。また、魔法だけでなく建築や人々の生活などに関する本も置いてある。


 俺たちは図書館近くの宿を取り、黒いローブを買って魔法使いに変装して図書館に入った。荷物検査だけあるので、紙とペン、それから鞄なども買った。

 身体検査をされるとダンジョンがバレてしまうかもしれないと思ったが、わざわざ男の体を念入りに調査はしないようだ。


 図書館の中は見渡す限り本だらけで、すごい量だ。エルフの国にあった白亜の塔もすごかったが、この図書館は魔道士たちが動き回っていて、奥に魔法の試し打ち場があるらしく、学んだことをすぐに実験できるようになっていた。


 建築や生活の道具類も別館に置いてあるらしく、教えてくれる職人たちもいる。だから、実験で作ったパンの売店などもあった。


「私はここでパンを焼いた経験が楽しかったから、魔境でもパンを作ってたんだ」

 なにが将来の役に立つかはわからない。だから何でもやってみた方がいいんだろう。

「面白いなぁ。魔境にもこういう場所を作ろう」

 錬金術などの本もあり、前の世界で言えば化学の教科書のようなものもあった。

「あったぞ。これだろ? 『町の計画大全』」

 チェルが大きくて分厚い本を持ってきた。メイジュ王国のいろんな町の計画書が載った図鑑のようなものだ。町の地図などもあり、見ているだけでも面白い。


「川を使った町を作れば、船で輸送ができるから、大きい荷物も人の輸送も楽になるってことなんだよな」

「そうだね。やっぱり水路が必要なんじゃないか?」

「水路を作るのはいいけど、なるべく魔物の邪魔にならない方がいい」

「そんなことできるか?」

「あれ? もう小さい川でも植生が変わったりしているよな?」

「ああ、本当だ。地脈の影響だよね」

「小川をちょっと広げてみるだけでも結構変わるかもな」

「これも結構大事だよ」


 チェルは地図上のお金のマークを指さした。

「銀行か……。確かに、事業には金が必要だもんな。魔境コインはダンジョンの民には結構使われてるんだよな……」

「マキョーが作るにしても、メンテナンスは魔境の住民たちがやるわけでそのための維持費も考えないといけないよ」

「その通りだ。そこに魔石を使えればいいんだけど……。そうすると魔石の採掘量を俺たちで決めればいいんじゃないの?」

「ああ、それはそうだね。魔石の採掘に関する法律を決めないと、魔石価格も暴騰したり、暴落したりするからね」

「そこからか……。今はメイジュとの定期便でしか交易していないのか?」

「だいたいそうだね。価格もメイジュの価格に合わせてるよ」

「グリーンディアの魔石の大きさを魔境での標準にしようか」

「それを金貨1枚にする?」

「そんなに高いのか?」

「高いよ、そりゃあ。形もいいし、大きさも透明度も高いからね」

「じゃあ、それを魔境コイン一枚にしよう」

「そう考えると、魔境の住民たちはバカみたいに稼いでいるよ。毎月、店ごと買えてしまうお金を稼いでるんじゃないかな」

「ええ? それはちょっと困るなぁ。そもそも魔境が金貨5枚だからな」

「それをマキョーがここまでにしたんだからいいんだよ。それよりも作物の価格が植物園のお陰でかなり急落すると思うんだ」

「ああ、そうなるよな。実際、魔境の食糧事情はめちゃくちゃ改善したし、不作とかにも対応できちゃうよな」

「そう。だから、ほらこっちの本にも書いてある通り、衣食住は揃ってしまっているから、発展するしかないし、領地を広げることを考えないといけないんだよね」

「ええ?」


 確かに、『戦争装置としての国家の役割』などと書かれている本があった。


「発展はした方がいいと思うんだけど、領地を広げるのは面倒だな。でも、面倒臭がっていても仕方ないのか?」

「うん。戦争をしないのであれば周辺諸国に宣言する必要があるし、武力自体は落ちることになるよ」

「武力かぁ……。武力って意識があんまりないんだよな。だいたい皆、死にかけて強くなっていくしさ。個人の武力なんて、大したことないと思うけど」

「本人はそういうけど、マキョーがやろうと思えば、城ごと奪えるって他国からすれば国家転覆の危機じゃないか?」

「確かに、そうだけど……」

「本当は、マキョー個人でも各国の首脳陣との協定を作った方がいいくらいだ。でも、そんなことはしないだろ?」

「面倒だな。周辺国よりも、魔境の住民をちゃんと生活できるようにした方がいいと思うんだよ。魔物も強ければ植物だって襲い掛かってくるだろう?」

「でも、それもダンジョンが育ってきて、生活も問題なさそうだけどね。ヌシとも話は出来そうだし、建物もどんどん建てていってるでしょ?」

「いや、本当、作業用のゴーレムたちが優秀過ぎやしないか?」

「それはそうなんだよね。しかもメンテナンスもしやすいように設計しているし、たぶんヘイズタートルの突進くらいならビクともしないと思うよ。ただ、やっぱり魔法陣による強化だから、どうしても魔法学校は必要だと思うけど……」

「じゃあ、建築に必要な魔法陣だけ調べるか」

「そうだね。衣類に対するまじないも調べたいんだ。爬虫類系のダンジョンの住民が冬になると動きにくそうだからさ」

「ゴースト系の町にいる住民たちも魔力を供給するようなローブがあるといいよな?」

「苦手なのに考えてるんだ」

「苦手でも魔境の住人だろ?」


 魔法書を片手に、試し打ち場へと向かう。通常は、的が描いてある人形を目掛けて魔法を使うらしいが、人形がもったいないのでお互いに向けて使うことに。

 魔法陣は紙に描いて魔力を流すだけ。


 チェルから炎の槍が飛んでくる。強化防御の魔法陣を使ってみた。ただ、どう考えても弱い。


 ブスッ!


 きれいに炎の穂先が突き刺さり、魔法陣が崩れてしまった。


「この防御魔法はなんで回転させないんだ? 構造も緩いだろう?」

「だから、そんな魔法陣は使えないと思ってるんだよ」

「そうか。ちょっと違う魔法陣も組み合わせよう」


 洗濯樽の回転の魔法陣は見つかったが、防御魔法を組み合わせるという考え方がなかったようで構造を規定するような魔法陣は自分たちで作らないといけなかった。


「折り紙の要領で、組み合わせればいいんじゃないの?」

「ああ、そうか。平面に魔法陣を描いているから召喚しないといけないんじゃないかとか思うけど、そんなことないんだよネ」


 紙を折り、四角いキューブを作って魔法陣を描きたしていった。


「これ、接着魔法とかあると便利なんだけど、マキョー作れない?」

「ああ、ミツアリの蜜を再現する時かヌシを倒した時に使った気がするなぁ……」

 魔力に粘着性を付与し、キューブ上の紙を繋げていく。

 ただ、構造として弱い。

「これは折り紙でいいんじゃないか」

「折り紙か……」

 図書館で働く魔族のために、託児施設も近くにあり、子どもに混じって教員に教えてもらった。出来上がった折り紙のキューブに魔法陣を描いていき、折り紙を展開させて、どこにどういう魔法陣を描けばいいのかをちゃんと書いていく。


「これなら事故は起きにくいし、折り紙を折れないと魔法は使えないし、いいんじゃない?」

 いくらでも強力な魔法を描いておいても魔力によって自然に魔法が飛び出すようなことがない。

「しかも、これを壁に仕込んでおけばいいだけだから楽だよな」

「まじないの服なんだけどさ。魔力の流れを描いておけば、そこに自分の体温の魔力が流れるから、そういう模様をデザインにすればいいかなと思ってるんだけど、どう?」

「それはいいんじゃない? 麻の服を買って、試してみよう」

「確か、染色を教えてくれる施設もあるはずなんだ」

「本当にこの町はいいな! 町全体が博物館的なことになってるんだな」


 俺たちはメリルターコイズの町を散策しながら、魔境に持ち帰れる技術を取得していった。ただ、町の中には人見一族もいたようで、俺たちに注目している一団がいる。さらに『王の目』と呼ばれる潜入捜査をしている衛兵もいるらしい。


「マキョーは、まったく気にしなくていいけどネ。どうせ私たちがメイジュ王国に来ていることは知られているし、別に何事もなければ、襲ってはこないと思うよ」

「ならいいか」


 適当に構えていたが、図書館司書と呼ばれる魔族が数人で俺たちを取り囲み、図書館の奥へと連行された。正直、技術を盗んでいるわけだから、ある程度のことはされると思っていたが、意外と寛大で、夜中に現れる図書館の魔物を駆除してほしいとのこと。


「そんなことくらいなら、いくらでもやるから、あまり大事にしないでくれ!」

 チェルは大きな声で頼んでいた。


 図書館の魔物と言うから、とんでもない化け物かと思ったが、小さな古書の魔物で呪いをかけられているのが多かった。すべての呪いをスライムの口で食べ、壺で焼いて終了。

 冬空の中、図書館の中庭でドロドロになった呪いを焼いた。白い煙が星に向かって伸びていく。


「本当に、マスターミシェル様なんですね」

「そうだよ。こっちは魔境の領主。ちょっと調べ物をしにね」

「この町は素晴らしい。魔境にもほしいくらいだ」

「そうですか? 魔境もそうだと思うのですが、賢い者たちばかりだといろいろ大変じゃないですか?」

「魔境は賢いよりもずる賢くないと生きられないからな。賢さのベクトルがちょっと違うんだ」

「それに、常に実践を強いられるから実力がはっきりしてる。悩んだり迷ったり、嫉妬したり憧れている間に、どんどん他の者の実力が上がっていくし、見たことも聞いたこともないような事態がずっと起こってるからね。いろいろやってる暇がないんだよ」

「羨ましいですね」

「気になるのなら、来てみるといい。定期船は通っているから」

「こんな死にかけの婆さんが行けますか?」

 司書は結構な年寄りだったらしいが、足腰はしっかりしているし旅慣れればそれほどきつくはないだろう。


「どうせ魔境に来たら死にかける。でも、大丈夫。回復薬は取り揃えているし、回復魔法も得意な者が多い。まぁ、死んでも死霊術を使えるエルフはいるから心配しなくてもいいよ」

「死んでも大丈夫ですか……。いいかもしれませんね」


 司書は笑っていた。


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