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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
333/372

【紡ぐ生活5日目】

 

「ダンジョンって死ぬのカ?」

 翌日、古参が揃うホームでの朝食時に俺はダンジョンが死ぬ話をした。


「魔力が枯渇してダンジョンを維持できなくなるというわけではないのか?」

 ヘリーも身を乗り出して聞いてきた。

「その因果関係は逆らしいんだよ。ダンジョンが死ぬと、魔力が周辺から枯渇する。前にミッドガード跡地に魔力が消えていたことがあっただろ?」

「ありましたね」

「あれは、巨大魔獣にあるダンジョンが吸収してぽっかり魔力がなくなったと思ってたんだよな」

「そ、そうじゃないのか?」

「わからなくなった。ただ、『渡り』の魔物が来て繁殖を始めると元に戻っていたよな? でも、南東の港跡にもダンジョンがあったらしいんだけど、1000年経ってるのに、魔力が戻っていないんだよ」

「地脈周辺じゃないからとかカ?」

「それもあるかもしれないけど、だとしたら砂漠の軍基地だって潰れてないとおかしいんじゃないか? 封魔一族のダンジョンだって、一族は西の万年亀に移住してもぬけの殻だったけど、ダンジョン自体は残っていただろ?」

「生まれるのだから死ぬのは当然だ。とはいえ不思議ではあるな」

「ダ、ダンジョンコアが運び出されたとか?」

「でも、当時はダンジョンに住んでいた人たちがいるわけだろ? わざわざ潰すようなことをするかな?」

「砂漠の軍基地にいるグッセンバッハに聞いてみればいい」

「記録が残っているかもしれない」

「ヌシはいいのか?」

「ああ、そもそもダンジョンに移住してくれってお願いしてるのはこちらだからな。そのダンジョンが急に死ぬかもしれないなんて、怖すぎるだろ?」

「確かに、家を用意したからと引っ越しさせられた上に、突然家が消えたらたまったもんじゃないですよね」

 日頃、ミッドガードの難民たちを移送しているリパも言っていた。


 俺はヘリーとシルビアを連れ、砂漠へと向かった。他の古参たちはダンジョンの住民やダンジョンの記録、魔力が消えた地域がないか訓練施設に聞きに行ってくれた。結局、皆に付き合わせている。


「皆、自分たちの好奇心に従っているだけだ」

「仕事とマキョーのやっていることはまた別だ」

「確かにそうなんだけど……。仕事はいいのか?」

「ダンジョンの住民たちもいるし、エルフの難民たちや騎竜隊の奥さんたちが、私たちの代わりに仕事をしてくれるんだよ。サッケツも現場監督として作業用ゴーレムたちを動かしているし」

「ハーピーたちがいつの間にか黒い石を彫れるようになってな。私は設計図と計画表を出して指示だけしていればよくなっている」

「皆、成長が早いな」

「私たちも早かっただろ?」

「そう言われるとそうかもしれない。まぁ、冬だしな」

「正直、それは大きい。ただ、人間には限界があると思うんだよな」

「マキョーは強さの限界だと思うか?」

「まず、俺はそもそも強さを求めてなかったから、限界とか始まりとかもあんまり理解していないよ。でも、冬のうちに強くなりたいね」

 走りながらヘリーもシルビアも首をひねっていた。


「よし、そろそろ飛ばすぞ」

「「え?」」


 風魔法を纏った拳で二人を吹っ飛ばした。結局これが一番速い。


「私たちをどうしたいんだ?」

「強引すぎる」

「早く着いた」

「いつかぶっ飛ばしてやる」

「いつまでも領主の座に座れると思うなよ」

「望むところだ」


 砂漠の軍基地のダンジョンに入り、グッセンバッハに会う。ゴーレムたちは作業をしているものの、いつの間にか人型としての解像度が上がっていた。ゴーレムと言われなければ人間が普通に働いているようにも見える。

 砂ではない素材を取り込んでいるのか。


「いろんな素材が来て試しているところだ。肌の質感も本物と変わらなくなってきている。それで、今日はどうしたのかな?」

「ああ、南東の港町跡について話を聞きたいんだ。前にも聞いたと思うけど……」

「吸魔海岸か。ビーズ文化が発達していたという」

「そう。そこにダンジョンはなかった?」

「ああ、確かに倉庫のダンジョンがあったような……」

「大蛇のヌシが言うには、そのダンジョンが死んで魔力が周辺からなくなっただろ。それがダンジョン抗争の一因だったらしいんだよ」

「え? そんなはず……」

「そんなはずはない? 魔力を求めた抗争だったんじゃないか」

「記録を確認させてもらいたい」

「俺たちも確認していいか」

「頼む。マキョー殿はヌシと喋ったのか」

「そこを気にすると進まなくなる」

「マキョーは今に始まったことじゃないだろ?」

「そうか」

 ヘリーとシルビアがグッセンバッハを説き伏せていた。


 かなり古い記録なので石板だけでなくスクロールの備蓄もあった頃で、日々の詳細な記録が書かれていた。グッセンバッハの性格がよく出ている。


「あった。崖が隆起し始めた頃だ。魔道具を使わない人たちが沖の島に逃げている」

「だから、その人たちがまだ吸魔海岸にいて魔石のビーズを作っているなら、周辺の魔力が少ないのはわかるんだけど、今でも少ないのはおかしいんじゃないか」

「もともと地脈も通っていないからでは……」

「魔境だぞ」

「確かにそうだな。時系列的には、この後ダンジョン同士の抗争があり、封魔一族が西へ逃げている」

「な、なぜ封魔一族は吸魔海岸の者たちと一緒に沖の島に逃げなかったんだ?」

「おそらく獣魔病がすでに広がっていたのだろう? 島に広がると一撃で崩壊する」

「ダンジョン同士の抗争で、吸魔海岸のダンジョンは出てきた?」

「一切ない。そうか。見えてることしか記録できない。ダンジョンが死ぬ……。そんな理由があったのか」

 グッセンバッハは項垂れていた。


「グッセンバッハ、落ち込んでいるところすまないが、ダンジョンがどうして死ぬのか教えてくれないか」

「卵から生まれてきたのだから、いつか死ぬのではないか。魔力が枯渇したとか?」

「内部崩壊することはあっても死ぬことはないはずなんだ」

「確かに、コアさえ守り続ければよいのか。後はスライムと同じだから……、乾燥したのでは?」

「同じ砂漠にあるこのダンジョンが死んでないだろ?」

「その通りだ。内部の湿度管理さえできれば死ぬようなことはないな。では、表皮の膜が破れる……、なんてこともないな。空間魔法でどうにでもなる……。ダンジョンが死ぬ原因か。逆に考えるしかないのでは?」

「どういうこと?」

「ダンジョンが発生するのはなぜか」

「俺の時は死にかけたからかな」

「ダンジョンマスターの危機、もしくは冬に多いと言われている」

「気温が関係している?」

「それって凍死しかけたダンジョンマスターが多いからか?」

「だとすると、ダンジョンの生死は初代のダンジョンマスターが鍵を握っているのか」

「え? 俺が!?」


 いつも革鎧の内側にいる大きなダンジョンは俺によって生かされ、死ぬのかと思うと、急に気が重くなった。


 とにかくグッセンバッハはダンジョンの死について知らなかった。直接子孫に話を聞いてみるしかないのか。


 外に出ると、俺のダンジョンはあくびをしながら冬の日差しを浴びてのん気にとぐろを巻いていた。


「殺そうと思っても死にそうにないよな」

「マキョーに似てふてぶてしいな」

「うん。そして、マキョー!」

 急にシルビアが大声を上げた。


「なんだよ」

「我々はすでに眠いぞ」

 そうだった。ヘリーとシルビアは夜型だった。


「じゃあ、なんでついてきちゃったんだよぅ」

「またマキョーが変なことをしているから見守りだろ?」

「とりあえず東海岸まで行って、魚を食べてから一旦寝よう」

「風魔法で飛ばすなよ。砂漠だと砂嵐になるから」

「走るぞ」

「船があっただろ?」

「走れよ」

「俺たちは走り過ぎじゃないか?」

「冬の砂漠もちゃんと観察しておこう」


 結局、俺たちは走って東海岸へと向かった。

 小さなトカゲや多肉植物、サンドワームなど相変わらず魔物も植物も意外に多い。

 不思議と俺のダンジョンも鎧から出て風景を眺めながら、俺たちの走る速度に付いてきていた。


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