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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
328/372

【魔境の建設ラッシュ4日目】


「なぜ私が呼ばれたのですか?」

 不満そうなジェニファーはサメ肉を食べながら聞いてきた。

 昨日、大量に捕れてしまった海の魔物は、バーベキューにしたり燻製にしたりするため、現在俺のダンジョンに冷凍保存している。


「壁役だよ」

「誰を何から守るんです?」

「俺を波から守ってくれ」

「え? なんで? どういうこと?」

 素のジェニファーが見れたところで、サッケツに防波堤の作成行程を説明してもらった。


 海底に土台を作り、防御結界の魔法陣が描かれた大きな木枠を作って土台の上に設置。石や岩を入れていくそうだ。海面から出ている上部は大きな波に逆らわないようにちょっと斜めにしておいた方が安定するのではないかと言っていた。


「とりあえず俺が海中で土台を作っていくから、ジェニファーはその土台が崩れないように波が来たらしっかり守ってくれ」

「カヒマンくんが引っ張り上げようとしている沈没船はないんですか」

「ああ、ない。もっと沖の方に沈んでるから」

「万年亀とか呼び寄せたらいいのに」

「遠いだろ? でも、今回は俺のダンジョンにも協力してもらう」


 木枠の中に入れる石や岩の中には、魔法陣が崩れないように魔石も入れておく。近くに魔物が来たときの対処や岩の輸送などはダンジョンにやってもらう予定だ。仕事もさせておかないと、必要なものがわからなくなっては困る。


「ではこちらで木枠を作っておきますので、土台の方お願いします」

 土台の大きさや位置などは、昨日海底に杭を打って測ってあるので、今日は本当に土台作りだけ。

「私は必要ですか?」

 ジェニファーがまだ疑わしそうに見てきた。

「冬の海に入ってみろよ。魔物とか相手にしてられないし、波がとにかく動きを制限してくるから大変なんだよ。今日は穏やかな方だ」


 俺はインナー姿になって、準備運動をしておく。どれだけ身体が強くなろうと自然の脅威に敵うはずがない。星の動きと戦おうなんてバカのやることだ。


「もう行くんですか!? 私もインナーになった方がいいですかね?」

「どっちでもいいよ。今さら、恥ずかしいとかあるのか!?」

「ありますよ! なきゃ人間として見られなくなりますから! あ、これを飲んでおいてください」

 ジェニファーが辛味スープをくれた。身体が冷えるのを防ぐのだろう。

「あ、それ貸してください。ないよりはいいでしょう」


 近くで見守っていたラミアから長袖の服を、ハーピーから長ズボンを借りていた。アラクネの布製なので、汚れも落ちやすいだろう。交易品に回す用だったらしく、ダンジョンの民も快く貸してくれていた。


「マキョーさんも要りますか?」

「いや、俺はいいや。シルビアに、サメ肌のスーツを作ってもらえないか聞いてみてくれないか」

「わかりました」


 午後にはできているかもしれない。


「よし、行くぞ! 海底に魔石灯があるからわかると思う」

「わかりました。え?」

 俺がジェニファーの腕を掴むと、何をするんだという目で見てきた。

「あ、もしかして飛べるようになった?」

「いえ……」

「じゃあ、魔力を込めて頑張ろう」

 俺は勢いよくジェニファーを海へとぶん投げた。


「言ってくださいよー!」

 放り投げられながら捨て台詞を吐くジェニファーは面白い。ついでに俺のダンジョンも投げておく。

「朝から面白いな。それじゃ、いってくる」

「「「いってらっしゃい」」」


 倉庫で働く作業用ゴーレムたちとダンジョンの民に見送られ、俺は海へと飛んだ。


 ドプンッ!


 海の中に入り、ゆっくり下降。ジェニファーが木の実をくれた。耳に入れて水圧を防ごうということらしい。


「魔力を自分の周りに回転させるように纏わせてみたらいい。空気が残ってて普通に喋れるから」

 俺は一旦海の上にある空気を魔力のキューブで閉じ込めて、ジェニファーに空気ごと与えた。


「こんな方法があるなら言ってくださいよ! 別にマキョーさんはインナー姿になる必要ないじゃないですか?」

「いや、海底に行けば行くほど、水圧で周りに纏った魔力を維持できなくなるんだ。俺のダンジョンもかなり縮む。その上で作業もしないといけないからジェニファーを呼んだんだ」

「ああ、なるほど。波の対応なんてしていられないというわけですね?」

「そういうこと!」

「でも、急激な波は来ますよ」

「そうだろうな。だから防波堤の建設予定地を外すように受け流してくれればいいよ」

「あ、そういうことですか! 今わかりました」


 環境や状況に放り込まれないとわからないことは多い。魔境に放り込まれてわかるのは、何もしていないと死ぬということと、案外生き延びられるということだ。


「海底に行って、石や岩を集めて平らにしていくから」

「はい」

「空気少なくなるから、もうあまりしゃべらないからな」

 ジェニファーは頷いて返した。


 海底へ向かって再び下降。地上から考えると大したことがない深さに見えるが、しっかり水圧で魔力が削られていく。杭を掴んでロープを引っかけ、腰に巻く。沈んでいた魔石灯に魔力を込めて周囲を照らした。岩も石もいくらでもあるように見えるので、魔力のキューブを多重展開してどんどん測ってあった場所に集めた。


 俺のダンジョンもサポートしてくれるが縮んでしまっている。海水は苦手らしい。

 ジェニファーは防御魔法を二つ重ね、角を作り海流の流れを分散してくれていた。正直、それだけでもかなり違う。

 魚の魔物が興味深そうに近づいてくるが、すべて無視だ。時々、ダンジョンが口を開けて対応している。

 昨日だいぶ駆除したお陰で、今日はそれほど大型の魔物も来ない。今日のうちに作業を進めたいと思うが、なかなか空気の量が減っていく。魔力のキューブにある空気を補充しつつゆっくり作業をした方が結果的には早いだろう。


 何度か浮上し空気を取り込み、再び作業。昼はしっかり休憩を取った。


「うわっ! 濡れてる!」

 ジェニファーは魔力を纏っていたはずなのに、自分の服が濡れていることに驚いていた。


「無意識で魔力の循環が外れる時があるんだ。自分ではどうやっても防げないから怖いんだよ」

「マキョーさんもそうなんですか?」

「俺は作業しているんだからずぶ濡れだよ」


 インナー姿でよかった。元の大きさに戻ったダンジョンは近くの川へ水浴びをしに行った。


「おう。持ってきたよ」

 ちょうどよくシルビアがサメ肌の服を持ってきてくれた。

「ありがとう」

 サイズはぴったりだ。

「作業は進んでる?」

「マキョーさん一人で、ほぼほぼ終わらせてますよ」

「いや、割と本当にジェニファーが役に立っている。波が来ないだけで全然違うよ」

「い、意外!?」

 シルビアも驚いていた。


「水の塊が思い切り飛んでくると考えてくださいよ。作業をしている暇なんてないです。昔滝の下で落ちてくる物を弾き返す修行をずっとしてたんですけど、それを思い出しました。これで魔物もいるのかと思ったら、作業なんてとてもやってられませんよ」

「ジェニファーが植物の研究ばっかりしてるわけじゃなくてよかったよ」

「海藻についてはちゃんと採ってきてますよ」

 すっかり性格の悪い僧侶は植物学者になっていた。


「あ、そうだ。リパから連絡があって、またミッドガードから時の難民が出てきたって。もう中は悲惨らしい。出てきた難民も中に向けて説得する看板を出しているみたいだ」

「自分の居場所を確保した人間は、なかなか動けないよな」

「建設は春まで一気にやるのか?」

「ああ。あとヌシのダンジョンへの移送と地下探索だな。やることが多いよ」

「マキョーみたいな領主はいないけどな」

「知らないってことが武器になる」

 

 シルビアも一緒に昼食を食べて、午後の作業に入る。


「木枠出来ました!」

 サッケツが格子状になった大きな木枠を持ってきた。板で作ると波にさらわれてしまうからだろう。ただ強度が心もとない。


「強度は大丈夫か?」

「ええ。魔法陣も書いてあるしコンクリートも流すのでこれで行こうと思います。補修もしやすいですし」

「そうだな。よし、やろうか」


 午後から木枠を土台まで沈め、石をどんどん入れていく。魔境近海だからか、魔力が多いようで魔石がなくても木枠の強度は高かった。海面から魔力のキューブで海水を抜いてコンクリートを流していった。


「そんなことができるなら初めからやってくださいよ!」

「波もあれば水圧もあるのに、長時間維持できるわけないだろ!? それにコンクリートがすぐ乾いて固まるように、どれだけ砂漠で研究していると思ってるんだ。海藻も入れてるし大変なんだぞ」

「いや、研究だけしてても無理です。皆さんが素材をたくさん用意してくれて、どうにか見つけただけですから。すぐに崩れてしまうかもしれませんし、実験させてくれる環境がないと防波堤は出来ませんよ」

 いろんな条件と運が必要なようだ。


「黒ムカデの研究を進めたら、また強化できるかもしれない」

「ゴーレム含め、期待してますよ」

 サッケツとゴーレムたちは泥だらけになりながら作業をしていた。

 俺たちはこういう者たちに支えられている。


「本当に暇がねぇな」


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― 新着の感想 ―
[一言] がんば、頑張ろうって…ヒドスwwww ジェニファーの、すごい修行だね…
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