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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【魔境の建設ラッシュ3日目】


 

 地下のキノコを焼き、地衣類などを茹でて味見する。

「キノコは基本毒だから、焼いたり茹でたりしないといけないけど、地下のキノコはすごい色が出るみたい。きれいに洗ってから焼くといい歯ごたえでしょ?」

 カタンは植物園のダンジョンで実験してきたらしく、自信をもって俺たちに出してくれた。


「ほのかに旨味があるね」

「その旨味が毒らしくて、たくさん食べると気分が悪くなったりするらしいから、ステーキに添えるくらいがいいと思うわ。あとサラダとかね」

 地衣類はサラダにはぴったりだ。

「スープに入れたりしてもいいかもよ」

「あ、それいいね」

 カタンは何でも作ってくれる。本当に食べることが好きなのだろう。


「今日はあのカタコンベを乾燥させた方がいい」

 ヘリーとシルビアが夜中、観察していたらしい。

「に、臭いもすごいんだけど、魔物同士の戦いが始まって虫と骸骨たちがずっと戦ってる。探索はそれが終わってからでいいと思う」

 シルビアまで言うということは、不毛な戦いが地下で起こっているらしい。

「俺が地上との穴を開けちゃったからか?」

「いずれ起こることだ。マキョーが加速させただけに過ぎないよ」


 チェルが空を飛んでホームに戻ってきた。寝起きでカタコンベの様子を見に行っていたらしい。寝癖がすごい。


「たぶん、地下に大蛇の他に、二頭のヌシがいると思うヨ」

「そうなのか?」

「うん、黒ムカデがそうだったけど虫も骸骨も組織された動きをしていた。今は魔物時代だネ」

「どういうこと?」

「ミッドガードが移送されて、ダンジョン同士の抗争があったあと、どうなったかはわからないけど、私たちがいる今はヌシ同士の縄張り争いで魔境の環境は大きく変わるってこと」

「人間のヌシはマキョーってことか」

「ええ~!? どうしてこうなっちゃったかなぁ」

 以前、魔境の地主と言っていたが、改めて面倒だと思う。

「いずれマキョーがヌシを討伐しないといけなくなるゾ」

「いや、それについては考えていることがある」

「なんだ?」

「ダンジョンに住んでもらえばいい。別に殺す必要はないし、思いも受け継げるだろう?」

「しかし、その土地に棲みついているからヌシになっているのではないか?」

「土地との結びつきが強いということだろ? でも、ほら」

 俺は自分のダンジョンを指さした。半透明の大蛇が坂道で寝ている。


「魔物であれば移動は可能だ。ヌシはそれぞれ、いろんな思いが魔力と結びついて渦巻いているわけだ。種族を守っているのか、それとも土地との思いを守っているのかはわからないけど、地形への思いじゃなければ、切り離しは可能なんじゃないかな」

「ヌシごと土地の御祓いか……」

「ヌシから地上げとも言うヨ」

「い、いやぁ、いずれにしても人間のヌシは抗争より質の悪いことをしそうだな」

 女性陣は引いている。


 朝飯を食べ終えたところで、ジェニファーがやってきた。

「地下植物の毒を調べてたのか?」

「ええ。ほぼ地下植物には毒がありました……。でも、不思議なのはそこまで毒性は強くないということと、幻覚系が多いってことですかね」

「何がおかしいんだ?」

「いや、だって地下ですよ。ほとんど目も見えないような魔物だっているのに、幻覚って……」

 そう言われてみると確かにそうだ。

「他の感覚が鋭いんじゃないカ?」

「だからちょっとした感覚を鈍らせることが地下では有効だったってことですか? ああ、そういうことですかぁ!」

「弱い毒ほど長く効くし、強力な毒なら警戒するけど、弱い毒は『まぁ、大丈夫か』と食べるのかもしれない」

「生存戦略のための弱毒だったと!? 皆さん頭いいですね!」

 ジェニファーは焼いたキノコにかぶりつきながら興奮していた。

 すっかり植物学者になっている。食品管理はカタンがやっているし、ダンジョンの民も普通に生活できるようになっていた。総務としての役割はほとんどないと言えるのかもしれない。


「あ、マキョーさん! 交易村の収支報告を聞いてきてくださいね。それから、ホーム近くの建設ばっかりやってないで、東海岸にも作業用ゴーレムたちを回すように。一番交易が多いんですから」

「わかりました」

 余計なことを考えるんじゃなかった。


「頼むぞ。皆」

「マキョーの仕事を見つけておいてやるヨ」

「だいたい飛べる二人にもっと働いてもらわないとな」

「鉄鉱石の採取も止まっているのだから、早めに仕事は終わらせるように」

 領主に厳しい古参たちだ。


「はい」


 俺は鞄に紙と木炭を入れて、ダンジョンを起こしてマントにして入口の小川まで歩いて行った。ダンジョンが革の鎧に入れなくなっていたから様子を見て、空は飛ばなかった。


「また、大きくなったのか。身体を収める部屋を作ればいいのに……。面倒なのか? ……誰に似たんだか」

 使役した魔物は飼い主に似るという。アバウトな方がうまくいくときはある。成長して、なかなか自分を変えられなくなってきているのかもしれない。そろそろどこかに定着するのか。


 エルフの番人たちに挨拶をする。彼らの小屋もだんだん立派になっていて、保存食を入れておく小屋も作っていた。


「おつかれっす。作れるうちに作っておかないと、春のための準備です」

「魔境の中でも建物ができているから、家が欲しければ言いに行ってくれ」

「え!? 建てられるんですか!?」

「建てられはする。夏までそこにあるかはわからないけど、ゴーレムたちが作っているからかなり頑丈だ」

「なるほど……、わかりました」


 俺はエルフの番人と分かれ、訓練施設へと向かう。

 隊長は休暇中だそうで、適当に訓練の手伝いをしてから交易村へ向かった。


 交易村では女兵士たちの半分が王都へ行っているらしく、人は少なかった。それでも、馬車はたくさん停まっていて、姐さんたちが馬の世話をしたり、荷運びをしたり、悪漢をぶっ飛ばしたりしている。


「大丈夫?」

「ああ、タロちゃん。大丈夫だよ。家父長制が強い田舎から来た商人がごねてたから、そりゃ吹っ飛ばされる。辺境だからと思って、足元を見てくる奴が多くてね」

「うちは鳥小屋を建ててるから王都の情報も入ってくるだろ? 私たちの方が詳しいこともあるんだ」

「でも最近、王都の鳥小屋の職員たちが私たちの地元に調査しに言ったって。あんなところ、調べる物なんてあるの?」

「なんだろうね。遺跡か何か見つかったのかな」

「え~? 土地を買っておけばよかったかな」

「魔境を買っちゃったりしてね」

 自分の失敗談を話すと姐さんたちは笑っていた。


「で、今日はどうしたの?」

「収支報告を貰いに来たんだ。物資は足りてる? なんか変なものを買ったりしてない?」

「え? ……してないよ」

「してるね。なに買ったの?」

 言い淀んだ姐さんを問い詰めると、保存の効く砂糖菓子を買っていた。


「なんだ、それくらいならいいけど、あんまり高い物は買わないようにね」

「高いのは兵士たちだけ」

「おーい! 何を買ってんだぁ~!?」


 ぶっ飛ばされた商人に手枷を付けている女兵士に聞いた。


「え? あ、なにも……」

「肌がきれいだな? 化粧品か?」

「いえ、肌は生まれつきです!」

「じゃあ、筋トレ器具でも買ったのか?」

「そんな役に立たないものは買いません」

「役に立つ何を買ったんだ?」

「魔道具を……。いや、ないと冬に起きたワイルドベアの対応が出来ませんから!」

「あ、そうなの。どんなの? 魔境にもたくさんあるからシルビアに持ってきてもらおう」

 見せてもらうと刃から炎が出る剣や氷の飛礫が出る杖などを購入しているらしい。


 シルビアに音光機で連絡して、魔法陣が描かれた骨製の武器を持ってきてもらった。


「買う側に回るな! 売る側に回れ! こんなにあるんだから。な!」

 珍しくシルビアが怒っていた。

 その間に商人ギルドで、交易村では珍しい男の商人に収支記録を見せてもらった。


「ほとんど王都からの助成金を使わずに回ってます。魔石の質がいいのと、魔道具の雑貨は出せば出すだけ売れる状況になってますね」

 ヘリーたちの努力が実を結んだか。


「入ってくるのはイーストケニアからの果物が多いです。姐さんたちがジャムにしてますけど」

「うちにもくれないか」

「小さい樽に入っているので持っていってください」

「建材も問題ないのか?」

「ええ。冬だから建築業者がなかなか来ませんけど……」

「そうか。今、魔境で作業用ゴーレムたちが建築しているんだけど、こっちが終われば交易村に向かわせようか」

「いいんですか?」

「南東の村には不死者たちもいるし、怖くなければだけどな」

「怖くありませんよ」

 幽霊を怖がらないなんて強いな。


「木炭とか薪は?」

「十分あります。北部では寒波が来て大変だと聞きますけど、こちらの方までは来てないようです」

「了解。暖房器具だけは用意してあげてくれ」

「わかりました」


 魔境にいるとあまり気づかないが、皆毛皮のコートなどを着ている。俺も魔道具を持ってきたシルビアも普通の革鎧を着ていて、防寒対策は全然していない。


「我々は常時、魔力を纏っているからね。身体が冷えるってことは少ない」


 とりあえず収支報告書を書いて、魔境へと戻る。

 昼休憩を挟んで、サッケツと作業用ゴーレムたちと一緒に東海岸へ向かった。

 冬なので環状道路を使わずに一直線に魔境を横切る。


「これほど時間がかからないんですか?」

「かかっている方だよ。高低差があるしな」

「本当はまっすぐ道を通したいんですけど……」

「いずれはな。まだ、ヌシもいるし魔物たちも俺たちとの共存に慣れてないからしばらくはこのままだろう。それまでは歩きやすい場所を通って道にしていこう。春になったらどうせ緑に覆われるんだから」

「マキョーさんは森を支配するとか、自然を自分たちの都合のいいように組み替えるとか、そういう発想はないんですね」

 サッケツは驚いたように聞いてきた。


「ないね。どうやってもそこにいる植物や魔物とはうまく付き合っていかないといけなくなるだろ? だったら、可能な範囲で変えていけばいいんじゃないか。環状道路だって必要だったからだし、出来そうだからできたと思ってるよ」

「じゃあ、ミルドエルハイウェイのトンネルを開けたのも、巨大魔獣を止めたのも出来そうだったからですか?」

「あ~、巨大魔獣を初めて見た時は死んだと思ったけどね。徐々に封魔一族と会ったりしていくうちにって感じかなぁ」

「では、魔境を更地にしようと思えばできますか?」

「意味はないし、面倒だからやらないけどね。家を建てるのにも順番があるだろ? 土台を作って柱を作ってから屋根を作るみたいな」

「ああ、はい」

「工程がわかると、あとはやるだけじゃないか? 魔境の狩りとかもそうなんだけど、観察して弱点を見つければ、どういう動きをすればその弱点まで届くかを考える。その中でできない部分を排除していけば、目標に到達しているってことない?」

「ふと見上げると夕方になっていて、作業が終わっていることはありますね」

「そんな感じじゃないか」

「じゃあ、東海岸に防波堤ってできますか?」

「波を防ぐ堤防か……。できるんじゃない? あ、それを作るのが先か?」

「海が荒れて接岸が難しいようです」

「なるほど難破船の引き上げよりも先に堤防だったか」


 東海岸へ辿り着くと、すぐに堤防の建設計画を立てた。近くの海から大型の魔物を駆除するところから始める。建設ラッシュでも俺は魔物と戦っていた。


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[一言] 「魔境を買っちゃったりしてね」 イッツマキョージョーク。
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