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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【魔境の建設ラッシュ2日目】


「古代の地下道では、エルフが大量に死んだ。だから、死体はもちろん、霊や不死者がいると思っていた方がいい」

 ヘリーにゆっくりした口調で注意されると、忘れていた背筋が凍るような感覚を思い出した。


「やめろよ。気味が悪いだろ」

「いや、もっと言っていいヨ。マキョーの幽霊嫌いのせいで、これだけ魔境の地下探索が遅れたんだから」

 そう言われると確かに、もっと早い段階で探索はできたはずだ。


「不死者の町が出来て、ようやく俺も慣れてきたところだ」

「腰が引けて地下に行く踏ん切りがつかないってわけ?」

 朝食のスープを出しながら、カタンが聞いてきた。


「まぁ、そういうことだ。カタンは別に怖くないのか?」

「怖くないっていうかちょっと面白そうだけど。黒ムカデさえ気を付けていればあとは心の持ちようってことじゃないの?」

「まぁ、そうだ」

 朝のヘリーは適当なことを言う。建築作業はゴーレムたちに任せているので、夜中に区画計画を考えていたらしい。

「カタンさんも一緒に行きますか?」

 ジェニファーは菌類の採取と植物園のダンジョンで作った毒と回復薬を試したいと、すでに準備をしてきていた。

「そうね。行こうかな」

 カタンも一緒に行くことになった。


「白い大蛇のヌシもいるんだぞ」

「でも、離れていればそれほど問題はないんでしょ?」

「まぁ、そうだけど、棲み処の居場所は探るぞ。できるだけそこを避けて建設計画を立てるから」

「戦うわけじゃないなら、私も行けるね」

 そういうや否や、カタンは洞窟に行って探索の準備を始めた。忘れていたが、カタンは採取の達人だ。探索していない場所に血が騒ぐのだろうか。


「自分の朝飯は?」

「もう作っている間に食べたぁ!」

 洞窟から返事がきた。しっかりしてる。


 食後に、パーティーを組んで地下へ向けて出発。メンバーはチェル、ヘリー、シルビア、ジェニファーとカタンだ。古参の女性陣が揃ってしまった。

 サッケツは作業用ゴーレムたちのメンテナンス。リパとカヒマンはミッドガードから新しく出てきた難民たちの輸送だ。ダンジョンの民は交易船が来る日で忙しいし、魔境の仕事はなんだか回っている。


「黒いな」

 地下への谷は空島作りの採石場になっているので、壁面が削れて黒い岩が見えている。

「固く加工が難しい」

「なのに、空島に使うのか?」

「壊れにくい方がいい。誰にも食べられないようにね」

「そうだな」

 俺たちは地下への入り口を塞いでいた岩の魔法陣を解いて、脇に退けた。


「よし、行こう」

「最初だけは威勢がいいナ」

「後は皆よろしく頼む」


 実際、これだけ魔境の古参がいれば黒ムカデも対応してしまうだろう。最初に黒ムカデを駆除した時は全然対応できていなかったが、今は皆それぞれ強くなっているはずだ。ジェニファーは黒ムカデを混乱させる毒を使いたいらしい。


「この地下も開発するのか?」

「領民が増えてからでいいだろ」

「前世では地下世界はあったか?」

「鉄道が通っていたな。あとは、雨が入らないから市場のように商店がいくつも並んでたよ」

「鉄道というのは?」

「駅馬車をいくつも繋げたようなものだ」

「どんな魔物が牽くんですか?」

「電気で走るんだ。魔境でも作れるかもな。魔力を動力にした連結駅馬車ってできないか?」

「人の仕事を増やすんじゃない」

 ヘリーを見たら怒られた。


「でも、街道が通ったから、魔石を動力にした馬車は作れそうだけどネ」

「チェルが作るなら止めないよ」

「サッケツが作ってくれると思う。あ、あれが光るキノコ!?」

 カタンはさっそく地下に生えている光源のキノコを採取していた。

「これ、食べられるの?」

「一応、火を通せば薬の材料にはなるはずですよ」

 ジェニファーが答えていた。


 うぅうううっ!


 ゴースト系の魔物が声が響いていた。

 一瞬、緊張するが平然とした表情で歩き続ける。


「そんなに怖いカ?」

「いや、エルフって宗教ないのか? どうして昇天しないんだよ」

「普通のエルフは死んだら地元の精霊樹に向かうのだけれど、1000年前にユグドラシールにいたエルフたちだからな。国に反発していたのかもしれない」

「ちょ、ちょっと待て。民主主義の社会における宗教って難しいんじゃないか?」

 シルビアが唐突に聞いてきた。前世の話を聞いているのだろう。


「確かに、宗教が違えば争いが起こるのは歴史が証明している」

「魔族の国じゃ宗派が違うだけでも内戦が起こってたヨ」

「前世でもそういう争いはあったと思うけど、俺が住んでた国は大丈夫だったね」

「なんでだ?」

「皆、互いに認め合う努力をしてたんじゃないかな。あと、昔はそう言うこともあったけど、狂信者は焼き討ちにされたりしたからかな」

「焼き討ちって皆殺しってことか?」

「まぁ、そうだね。でも一部しか残ってなかったらしいけど。その後、民間で持っている武器を取り上げたんだ」

「農夫とか僧侶とかの?」


「そう。簡単に反乱を起こせないようにね。この世界で言う騎士や衛兵しか武器を持たせてもらえなかった。その頃は、民主主義じゃなかったんだけどね」

「でも、その意識は根付くよな。エスティニアでも宗教戦争はあっただろ?」

 ヘリーがジェニファーに聞いていた。


「よくは知りませんけど、聞かされましたよ。教会を守るために武器の扱い方を教わる日もありましたし。でも、武器の所持を特定の職業に限定したら、強さの格差になりませんか」

「なる。実際、武士と呼ばれていた人たちの身分が高かった時代が何百年も続いた」

「じゃあ、そんなに商業は発展しなかったのか?」

「いや、そんなこともない。武士のトップにバカ殿と呼ばれた人がいるんだけど、何代目かの時に、全生物を憐れむ法を作ったんだ」

「なんだ、そいつは? 頭大丈夫か?」

 ヘリーが驚いていた。

「全生物って全部ですか?」

「そう。犬も魚も保護しようって令でね。でも、武士崩れみたいな人が、夜中にその辺を歩いている人を切ったりしてたんだ。彼らにとっては武器の性能を調べるためだから、仕事の一部だったんだけど、その法を作って止めたって聞いたな」

「じゃ、バカじゃなかったってことカ? 魔族の愚王に似ている」

「昔の常識を現代に当てはめるとバカに見えることはあるだろ? 急に俺がダンジョンの民を差別し始めたら、こいつ大丈夫かと思うのと同じだよ」

「それから民主主義になっていくのか?」

「もちろん内戦や戦争を繰り返して他国の意見も聞きながら、民主主義を取り入れていった。そういう国が多かった時代だったんだよ」

「その方が発展するということか?」

「何がいいんだ?」

 ヘリーもシルビアも地下の探索そっちのけで聞いてくる。

 今のところ、目のない蝙蝠の魔物や黒ムカデの亜種が出てくるだけで、ほとんどチェルが対応している。


「人がそう簡単に死ななくなるし、教育も普及するから、健康になって寿命が延びる。あと、問題が起きた時に解決できる者を見つけやすい。身分に差がない上、皆、自由だ」

「それはいいな。追放されなくなるってわけか」

「追放先が民主主義だといい」

「なんか、広いところがあるよ」

「ああ、見えてる。そろそろカタコンベだ。準備しておくように」

 ヘリーに言われたからってわけじゃないが、背筋が冷えてきた気がする。

 通路の先に大きな円柱状の部屋があり、穴が無数に開いているのが見えた。穴にすべて死体が入っていると思うと、押し黙ってしまった。


 ビョウッ。


 どこかから風の音が聞こえてくる。地上と繋がる隙間が空いているのだろう。


 ボトッ。


 天井から黒い液体が降ってきた。


「酷い臭いだナ」

 全員黙っているなか、チェルが口火を切った。


「おかしい」

 ヘリーは魔石灯の明りを掲げた。

「なにが?」

「死体が腐ってる」

「逆に腐らないことってあるのか?」

「ミイラになって1000年も経ってるのに? この部屋の条件が最近変わったのだろう」

「きょ、巨大魔獣の停止、地脈のズレ、地上の環境の変化、理由を挙げればキリがないんじゃないか」

「この部屋までの穴が空いたからじゃないカ?」

「それだな」


 ドロリ。


 黒い粘液が部屋の穴という穴からあふれ出してきた。部屋の中心部に集まっていく。


「魔物化か?」

 チェルが燃やしていくが、黒い粘液は止まらずに溢れ、大きな人型に変わっていた。


「カタコンベの番人だ。呪いの一種かもしれん。気を付けろ!」

 ヘリーが叫んだ。

「実体があるなら、別に怖くないんだよなぁ……」


 俺は魔力を回転させて、部屋の中心で叫ぼうとしている黒い塊にアッパーカット。


 ギィエエエ!!


 黒い塊は叫び声と共に天井に穴を開けて吹き飛んでいった。


「ヌシになる前の状態だったんじゃないですか?」

「待った方がよかったか?」

「いや、少し風を入れて乾燥させた方がいい」


 今日はここで探索を止めた。


「何か見つけた?」

「うん。見て」

 カタンは採取袋に、光るキノコの他、ウドや海藻に似た地衣類などを大量に集めていた。


「食べられそうなのか?」

「たぶん。植物園のダンジョンで解析してもらう」

「気づかないうちにたくさん採ってたんだな」

「もっと先にありそうだけど」

「とりあえず、ここまでは建設予定地にしないとな」


 俺たちは一旦地上へと戻った。


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