【魔境の建設ラッシュ】
魔石鉱山のダンジョンで、試しに魔法学校を建設していた。エルフの難民であるイモコの旦那に設計図を描いてもらって、使い勝手のいい研究室の塔や図書室なども作る。
「ダンジョンだといくらでも建てられるところがいいな」
「私たちはダンジョンの外に建てたいんだぞ」
シルビアは空想の産物を作っている俺に呆れているらしい。
「だからさ。学校の施設ごとに分けて組み立てられるようなパーツをダンジョンで作っていけば早いだろ?」
「でも、魔法陣は……、壁に貼ってあるのか」
建築現場には貼り紙が貼られていて、必要な魔法陣をヘリーから聞き出していた。
「ここのダンジョンは地脈上にあるし、魔力も豊富なのに全然使ってないだろ? 意味のない部屋だらけになる前にどんどん働いてもらった方がいい。素材はあるんだからさ」
「では我々は、運び出すだけでいいのか?」
「そう。運び出してちゃんと測った場所に設置していくだけさ」
「それで魔法学校ができるなら確かにいいけれど……」
「苦労して建てた方が愛着がわくかもしれないけど、愛着のための学校じゃないからな。それより、安全なつくりになっていた方がいいだろ?」
「そりゃあ、そうだ……」
「ということで、シルビアから、やんわりヘリーに言っておいてくれ。俺から言うと、また怒るかもしれないから」
「いや、怒りはしないさ」
振り返るとヘリーがいた。
「そうか?」
「まぁ、マキョーが来た時点で、なんとなくこういうことになるだろうとは予想していた。むしろ一人でやるわけじゃないのかと思ったくらいだ」
「意外だ」
「考え方を変えないと私の人生を費やしても終わりそうにないからな」
「じゃあ、作業用のゴーレムたちも呼んで、とっとと作ってしまおう。切り出した石材を設置するだけだから、彼らの方が作業は正確だろう」
「マキョー、もしかしてこれってかなり前から考えていたのか?」
「ミルドエルハイウェイを掘りながら、あの岩を何かに使えないかと思ってたんだ。この前もクリフガルーダにエレベーター用の穴を掘ったし。魔境って岩なら幾らでもあるだろ?」
「石材くらいならドラゴンたちも運べるしな。入口の近くもどんどん建設してしまっていいんじゃないか。もう巨大魔獣が来ることもなくなったんだから」
「そうだな。シルビアは武具屋の工房が必要か?」
「ああ、専用の倉庫があると嬉しいな。チェルのパン工房を作ってやろう」
「魔物対策もしていかないとなぁ。冬だからと言って油断していられない。いくら魔法陣で固くしても穴を掘られると弱いから」
「罠でも張るか?」
「お堀を作って、スライムでも飼うか。魔境産のスライムは大きい魔物でも嫌がるから」
「あんまり強くし過ぎないようにしないと、訓練兵たちが食われるぞ」
「いや、彼らも危険かどうかの区別くらいはつくだろう」
喋りながら、作業を進めた。
砂漠から作業用ゴーレムたちを呼びよせ、北東の鉄鉱山からガーディアンスパイダーたちも連れて来た。距離を測って設置していき、俺たちは接着用のセメントを練っているだけでいい。ダンジョンの民たちも手伝ってくれたので、三日後には外観は出来上がっていて、内装工事に入っていた。
「樹液や粘液はいくらでもありますからね」
ジェニファーは、植物園から接着剤を持ってきた。ついでに木材も大量に持ってきていて、素材がなくなることはなさそうだ。
さらに作業用ゴーレムたちが釘や蝶番なども鉄鉱山の鉄を溶かして作っている。
「彼らは休まないのか?」
竜の世話をしている騎竜隊の隊長が、作業用のガーディアンスパイダーを見ながら聞いてきた。
「魔境は魔力も多いから休めないのかもしれない」
「だからこんなに仕事が早いのか……」
「次の現場行くよ」
シルビアが先頭に立って、資材を持ち運んでいくので、ドラゴンたちも荷物を持って飛んでいく。
建設現場では前日のうちに、穴を掘ってコンクリートを流しておく。乾いたところでヘリーが魔法陣を彫り強化し、土台にする。あとはアラクネの糸を伸ばして、距離を測っていった。
「神殿かぁ」
古参会議で俺が「誰でも集まれるような場所が欲しい」と言ったら、チェルが提案してくれた。
「近くに豊穣の女神の神殿もあるし、土台が壊れないことは遺跡が示している通りだ」
ヘリーは歴史が証明していると語っていた。
「じゃあ、作っておこう。ロッククロコダイルが入ってこられないようにしないとな」
「冬眠中にワニ園へ移動させようか」
「すでにほとんど移動しているヨ。魔力が少なくなったのかな」
「時期によって変わるのかもしれないぞ」
「あ、そういうこともあるのカ」
神殿は、俺が魔境に来た当初、月明りの中ラミアたちが踊っていた場所に建てられた。ダンジョンの民も「なぜかそこが落ち着く」と言っている。
「何度も訪れるような場所は感覚に従った方がいいかもしれない」
「神殿の使い勝手カァ」
「も、もしかして、使いやすい武器ならマキョーも使うんじゃないか?」
「どうかなぁ……」
前に手甲を作ってもらったことがあるが、全然使っていない。
「魔物の骨製の方が威力は上がるんだけど、魔法陣を使ってないと割れることがあるんだよ」
自分のダンジョンを神殿に放り投げて、適当な魔物の骨を出してもらった。
持ちやすく、魔力も出しやすいが、3回ほど素振りをすると、縦に裂けてしまう。
「握るところにこれを使ってみてくれ。アラクネの布とキングアナコンダの革で作った対マキョー用の防御布なんだ。私のローブも今はこれを使っていてね」
ヘリーに渡された布を持ってみると、確かに伝導率が決まった箇所にしか通らない。
「これいいな」
「魔法を受け流せるんだ」
外側に魔力の伝導率がいいアラクネの布を使い、内側に魔法が効かないキングアナコンダの革を細く裂いて編み込んでいる。ところどころ、魔力の通り道を作ってあった。
「私はそれほど魔力量が多くないから必要な時に必要なだけ出せるようにしてるんだ」
「それは皆そうじゃないのか」
「いや、マキョーは魔力量が多いから……。もしかして普段魔力を抑えているのか?」
「ダンジョンが鎧の内側にいるからな。魔力をなるべく抑えている」
「魔力を抑えないとどうなるんだ?」
チェルがアホのふりをして聞いてきた。
「最近、やってなかったけど……」
ボッ。
身体から魔力が湯気のように出てくるが、魔力自体が俺の周りに留まろうとして流れを作り始めた。
「スライムの膜みたいになるんだな」
「流れが出来てますね! こんなことになるんだ……」
ジェニファーは驚きながら、メモを取っていた。
「この流れに沿って、魔力の通り道がある鎧を作ってみたらどうなる?」
「手首、足首周りは魔力を増幅させるようなまじないをかけて、胸には精神魔法の魔法陣で落ち着かせるようなデザインを施すか……」
ヘリーとシルビアが俺を実験台に、また妙なものを作るつもりのようだ。
「精神魔法って……」
「いや、結構大事だゾ。マキョーが魔人になったら誰も止められなくなる」
魔人になったチェルに言われると説得力がある。
「とりあえず、その魔力で堀を作ってもらえますかそれを元に他の施設の建設場所を決めますから……」
サッケツの提案で、俺は半そで姿で作業に入る。冬なのに……。
自分の体温が魔力の膜で守られているから、それほど寒くはない。
空から地形を見て、北部との境界線にある小川を確認。小さな川だが、地質の変わり目で、魔力も湧いているのかスライムも見かける。小川の先は沼へ続いている。
俺はその小川から、骨製スコップで堀り進めることにした。途中、冬眠中のヘイズタートルやキングアナコンダなどが出てきてしまったが、近くの崖に横穴を開けて運んだ。
ガキンッ!
掘り進んでいるうちに黒い地層が出てきた。
「あ、黒ムカデの洞窟まで出てきちゃったな」
地下の魔物は固くて対処が面倒だ。
「とりあえず、一旦大丈夫です!」
サッケツの一声で作業終了。いつの間にか、ミッドガード跡近くまで掘ってしまっていた。
夕飯はホームで食べた。クリフガルーダのミッドガードからは、また時の難民が出てきたらしい。待機しているリパから連絡があった。
「あと残っている未探索の場所は地下くらいしかないヨ」
ワニ肉のステーキを食べながらチェルが言った。
「そうだな。建物が建つなら探索しておかないとな」